天動説とはなにか?②アリストテレスからプトレマイオスそしてスコラ哲学へと至る古代から中世における天動説の系譜
前回の記事で書いたように、地球が宇宙の中心にあって太陽や月や星といったほかの天体たちがその周りをまわっていると考える天動説の大本の源流は、
エウドクソスとアポロニウスとヒッパルコスといった三人の人物に代表される古代ギリシアの時代における数学的な天文学理論のうちに求められることになるのですが、
その後、こうした古代ギリシアにおける天文学理論は、アリストテレス哲学や、古代ローマにおけるプトレマイオス、そして、中世ヨーロッパのスコラ哲学のうちへと順々に受け継がれていくことになっていったと考えられることになります。
古代ローマのプトレマイオスによる天動説の理論体系の完成
冒頭でも述べたように、こうした天動説と呼ばれる天文学的な学説の基盤となる数学的な概念の枠組み自体は、すでにエウドクソスとアポロニウスとヒッパルコスといった古代ギリシアの数学者や天文学者たちが活躍した紀元前の時代にすでにほぼ出揃っていたと考えられることになるのですが、
その後、こうした古代ギリシアの天文学者たちによって提唱された天動説のアイディアは、
紀元後2世紀の古代ローマの天文学者であったプトレマイオス(Ptolemaios)によって、緻密な体系を備えた天文学理論へと組み上げられていくことになります。
プトレマイオスは、エジプトのアレクサンドリアにおいて天文観測を積み重ねながら、
自らの天動説の理論体系のうちに、アポロニウスによって提唱された周転円の概念と、ヒッパルコスによって提唱された離心円の概念という両者の理論を共に導入することによって、
そうした天体観測において得られた複雑な天体の運行のあり方をすべて合理的に説明する精密な理論体系を築き上げていくことになるのですが、
こうした一連の業績を通じて、プトレマイオスは、古代ギリシア・ローマの時代における天動説の理論体系の完成者として位置づけられることになっていったと考えられることになるのです。
アリストテレス哲学と中世のスコラ哲学における天動説の受容
そして、その一方で、
こうした古代ローマにおけるプトレマイオスの活躍にさかのぼること500年ほど前の紀元前4世紀の古代ギリシアでは、
当時のギリシアにおける学問研究の中心都市であったアテナイにおいて、アリストテレス(Aristoteles)が、
哲学を中心とする、論理学・倫理学・政治学・動物学・植物学・天文学・物理学といったすべての学問分野についての総括と分類、そして、その体系化を進めていくことになるのですが、
こうした古代ギリシアにおける学問研究の大成者にして「万学の祖」としても位置づけられているアリストテレスにおいても、
こうした古代ギリシアの数学者および天文学者であったエウドクソスたちによって提唱されていた天動説の理論は、
アリストテレス哲学における学問体系のうちの天文学的な分野を占める学説の基礎理論として受け入れられていくことになります。
そして、その後、
中世ヨーロッパの時代になると、今度はこうした古代ギリシアのアリストテレス哲学における学問体系のあり方が、
教会の権威に基づいて中世における学問や思想のあり方を主導する立場にあったスコラ哲学の内にも受け入れられていくことによって、
そうしたアリストテレス哲学のうちに組み込まれていた天動説の理論についても、スコラ哲学の学問体系のうちにおいてそのまま踏襲されていくことになったと考えられることになるのです。
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以上のように、
こうした人類の歴史の流れの中における古代ギリシアから中世ヨーロッパへと至る天動説の系譜においては、
紀元前4世紀の古代ギリシアのエウドクソスによって提唱された地球を中心とする重層的な同心天球の構造からなる天動説の理論がはじめて提唱された後、
紀元前3世紀のアポロニウスによる周転円の概念の導入や、紀元前2世紀のヒッパルコスによる離心円と呼ばれる概念の導入による理論的な修正を経たうえで、
紀元後2世紀の古代ローマの天文学者のプトレマイオスによる天動説の理論体系の完成を迎えるに至ったと考えられることになります。
そして、その一方で、
こうした古代ギリシア・ローマの時代における天動説の理論は、
アリストテレス哲学における受容を経ることを通じて、さらにその後の中世ヨーロッパのスコラ哲学の学問体系のうちにもそのまま受け継がれていくことによって、
古代から中世までの長期にわたってヨーロッパにおける天文学理論の主導的な学説として君臨し続けていくことになったと考えられることになるのです。
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次回記事:世界で最初に地動説を唱えた人物とは?ピロラオスによる変則的な地動説の学説とヘラクレイトスにおける生ける火の思想、地動説とは何か?①
前回記事:天動説とはなにか?①古代ギリシアの三つの天動説、エウドクソスの同心天球とアポロニウスの周転円とヒッパルコスの離心円
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