オカルト思想の源流にある中世における四つの代表的な思想の潮流とは?④ルルス主義におけるキリスト教とイスラム教とユダヤ教の融合
中世からルネサンス期のヨーロッパのオカルト思想の興隆における思想的な源流となった新プラトン主義・ヘルメス主義・カバラ・ルルス主義という四つの思想のあり方について順番に一つ一つ取り上げてきましたが、
その最終回である今回の記事において取り上げるルルス主義とは、古代ギリシア哲学に源流を持つ新プラトン主義の思想と、イスラム神秘主義の思想であるスーフィズムが互いに対立しつつも結びついていくなかで生まれた一風変わった思想であると考えられることになります。
イスラム教徒をキリスト教へ改宗させる伝道者としてのラモン・リュイの生涯
ルルス主義とは、スペインの東に位置する地中海の島であるマヨルカ島出身の神秘主義者にして哲学者でもあるラモン・リュイ(Ramon Llull、1232年頃~ 1316年)によって唱えられた神秘主義思想のことを意味する言葉として定義されることになるのですが、
こうしたルルス主義という言葉における「ルルス」とは、この神秘主義思想の提唱者であったラモン・リュイのラテン語名にあたるライムンドゥス・ルルス(Raimundus Lullus)の名に由来する言葉であると考えられることになります。
ラモン・リュイが生きていた13世紀の時代、マヨルカ島を含むスペインの多くの領域は、いまだに、キリスト教徒の側からはサラセン人と呼ばれるイスラム教徒たちの影響下にあったのですが、
彼は、そうしたイスラム教からの強い影響を受けていくなかで、イスラム教徒の思想家であるガザーリーにおけるスーフィズム(イスラム教神秘主義)の理論などについての研究を深めていくことになります。
しかし、その一方で、
リュイは、そうした神秘主義的探求の途上において、ある時、キリストからの啓示を受ける神秘体験を得ることによって、
その後は、キリスト教の伝道者として、スペインや北アフリカなどの地中海沿岸の各地においてサラセン人すなわち地中海世界に住むイスラム教徒たちをキリスト教へと改宗させることを目指した宣教活動へと自らの身を捧げていくことになります。
そしてその後、彼は、
そうしたキリスト教の宣教活動を行っている最中に、イスラム教徒から投げつけられた石によって負った怪我がもとになって、マヨルカ島へと帰還したすぐ後に死去してしまうことになるのですが、
こうしたラモン・リュイによるイスラム教徒に対するキリスト教の宣教活動は、スペイン全土をイスラム教徒からキリスト教徒のもとへと取り返して解放していこうとするスペインにおけるレコンキスタ(国土回復運動)にも多大な影響を与えることになったと考えられることになるのです。
ルルスの円盤とカバラにおける数秘学的な神秘主義との共通点
そして、
こうしたラモン・リュイによって唱えられた新プラトン主義やスーフィズムなどが融合した神秘主義的な思想体系の内においては、
特に、学問的探求における究極の原理である神の崇高性を、図形や記号などを用いた象徴主義的な記述によって説明しようとする数理学的あるいは記号論理学的な探求のあり方が重視されていくことになり、
例えば、こうしたリュイの数理学的な神秘主義の研究のなかでは、
ルルスの円盤と呼ばれる予め定められた規則や法則に従って記号や暗号を生成する器械である現代における暗号機に相当するような機械仕掛けなども発明され、
そこでは、こうしたルルスの円盤などを利用した記号や数字の機械的な操作によって得られる文字列や数列、論理式などから世界の真理へと到達しようとする数秘学的な探求が幅広く試みられていくことになるのですが、
そういった点では、こうしたリュイにおける神秘主義的な思想の内には、前回取り上げたユダヤ教における数秘学的な神秘主義の思想であるカバラとの共通点も見いだすことができると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
中世からルネサンスの時代のヨーロッパ世界におけるオカルト思想の興隆の背景には、
こうした新プラトン主義とヘルメス主義、カバラ思想そしてルスス主義という四つの思想運動に代表されるような様々な思想の流れが存在していたと考えられ、
それは、
古代ギリシア哲学や、エジプト神学などにおける古代思想、ユダヤ教や、イスラム教における神秘主義であるスーフィズム、数秘学そして象徴主義といった数多くの思想が互いに影響し合い、融合していくことによって生じていった
多角的で大規模な思想運動の潮流であったと捉えることができると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:薔薇十字団とは何か?中世ヨーロッパにおける錬金術とサンジェルマン伯爵との関係、近現代における代表的なオカルト思想①
前回記事:オカルト思想の源流にある中世における四つの代表的な思想の潮流とは?③ユダヤ教のカバラにおける数秘学的な神秘主義の思想
「宗教・信仰・神秘主義」のカテゴリーへ
「哲学」のカテゴリーへ