風の谷のナウシカと粘菌との関係とは?①土鬼軍の生物兵器として開発された粘菌の変異体についての漫画版における具体的記述
映画版の『風の谷のナウシカ』の原作にあたる漫画版の『風の谷のナウシカ』においては、
映画版のクライマックスの場面にあたる王蟲の子を自らの身を挺して救い出したナウシカが、「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」という古き言い伝えの言葉通りの姿で人々の目の前に現れ、王蟲たちからの祝福を受ける場面ののちに、
物語はさらに、クシャナ殿下が率いる強大な軍事力を持ったトルメキア軍と、墓所に伝わる古代からの神秘の秘術を駆使してそれを迎え討とうとする土鬼軍(ドルク軍)との間での全面戦争へと発展していくことになるのですが、
そうしたトルメキア軍と土鬼軍との間で繰り広げられる激しい戦闘の中では、粘菌と呼ばれる異形の姿をした生命体が土鬼軍が開発した生物兵器として登場することになります。
それでは、漫画版の『風の谷のナウシカ』においては、具体的にはどのような話の流れの中で、こうした生物兵器としての粘菌についての記述が出てくることになり、
そうした粘菌と呼ばれる生物は、具体的にどのような性質や特徴を持った生命体であると考えられることになるのでしょうか?
漫画版の『風の谷のナウシカ』に登場する土鬼軍の生物兵器の記述
物語が中盤へと向けて新たな展開を迎えていく漫画版の『風の谷のナウシカ』の第四巻の冒頭に近い部分においては、
土鬼軍の戦艦の内部で秘密裏に研究が進められていた生物兵器の完成が近づくなか、研究施設を査察に訪れた土鬼帝国の僧官と土鬼軍の科学者たちとの間で交わされていく以下のような会話の場面が描かれていくことになります。
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土鬼帝国の僧官チヤルカ「種苗は届いたか?」
土鬼軍の衛兵「はい、先刻。」…
土鬼軍の科学者「これはチヤルカ様。お待ちしておりました。ご覧になられましたか?すべて我々の計画通りに進みましたぞ。胞子も不妊で繁殖はありません。この菌は私どもが開発したものです。どうか皇弟さまにお執り成しのほどを。」…
土鬼軍の科学者「すごい突然変異体が出ましたぞ。増殖力はずっと大きいかわりに枯れるの早くなります。そのぶん国土への害も減るわけで……。常温にしますとまるで爆発のように成長します。」
(『風の谷のナウシカ』第四巻、20~21ページ。)
つまり、
上記の漫画版の『風の谷のナウシカ』の場面においては、
土鬼軍が腐海の森の植物たちの胞子を用いて実験を重ねることで、強い毒性と増殖力を持った新たな菌を開発することに成功し、
そうした突然変異によって生まれた新たな菌をトルメキア軍に対する生物兵器として用いることによって、戦況を一気に有利に進めようとする計画が進められていたということが明らかにされていると考えられることになるのです。
動く森としての粘菌の姿と腐海の森のうちに没する土鬼帝国
そして、その後、
土鬼軍は、自らの手で作り上げた生物兵器を制御できなくなってしまうことによって、戦艦の内部で目覚めてしまった突然変異体が船体を突き破ってどんどん膨れ上がっていくことになり、
戦艦から飛び出して地上へと降り立った変異体は、そのとどまることを知らない大規模で破壊的な増殖力によって、土鬼帝国の国内に侵攻していたトルメキア軍だけではなく、土鬼帝国の領土全体を飲み込んでいってしまうことになるのですが、
そうした場面では、
「木が動いている。粘菌なんだ!!」(『風の谷のナウシカ』第四巻、105ページ。)
「なんていう犠牲……。蟲たちはあの粘菌の発生を予知していたんだわ。だからあんなにおびえてたんだ。」(『風の谷のナウシカ』第四巻、121ページ。)
と語るナウシカの言葉によって、
こうした人間の手によって作り出された腐海の森の植物を利用してできた生物兵器が、粘菌と呼ばれる生物の種族に分類される生命体であるということが明らかにされていくことになるのです。
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ちなみに、
粘菌とは、現代の生物学においては、一般的に変形菌という名で呼ばれる生物の一群のことを意味する言葉であり、
以前に、「粘菌とは何か?菌類と動物の能力をあわせ持つ生物」の記事で詳しく考察したように、
粘菌(変形菌)と呼ばれる菌類の種族の特徴としては、
一般的な菌類の場合とは異なり、細胞壁を持たずに、自らの体を自由に変形させていくことによって移動と捕食を行うことができるほか、
成長する際に、細胞分裂を伴わない核分裂を行うことによって、一つの細胞の内に無数の核が存在する多核体の構造を持った生物体へと成長していくといった点が挙げられることになります。
そして、
最終的に、土鬼帝国は、自らが生み出した生物兵器である粘菌の突然変異体による大規模な侵食を受けることによって、国土の大部分が腐海の森のうちへと没してしまうことになり、滅亡の時を迎えていくことになるのですが、
詳しくは、また次回改めて考察を進めていくように、漫画版の『風の谷のナウシカ』においては、
こうした粘菌と呼ばれる異形の姿をした生物を一つの象徴とする形で、生命の本質についてのより深い洞察のあり方が示されているとも解釈することができると考えられることになるのです。
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次回記事:風の谷のナウシカと粘菌との関係とは?②「個にして全、全にして個」という生命の本質を体現する粘菌という生命体の構造
このシリーズの前回記事:『風の谷のナウシカ』と「虫愛ずる姫君」の共通点とは?②腐海の森の植物学者としての風の谷の姫君の生物学的探究
前回記事:聖徳太子と諸葛孔明の天下三分の計の関係とは?常識的な国家観を打ち破る柔軟な発想としての両者の思想の共通点
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