『風の谷のナウシカ』と「虫愛ずる姫君」の共通点とは?②腐海の森の植物学者としての風の谷の姫君の生物学的探究

前回書いたように、宮崎駿作の漫画および映画作品である『風の谷のナウシカ』においては、主人公であるナウシカは、

日本の平安時代後期を代表するな短編物語集である『堤中納言物語』に出てくる「蟲愛づる姫君」(むしめづるひめぎみ)と様々な点で共通する特徴がみられる、強い好奇心優れた観察眼を持った少女として描かれていると考えられることになります。

それでは、

この物語の原作にあたる漫画版の『風の谷のナウシカ』においては、具体的にどのような場面において、そうしたナウシカと「虫愛づる姫君」との間の共通点を見いだしてくことができると考えられることになるのでしょうか?

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眼帯のミトが語る腐海の木々や蟲を愛でるナウシカの姿

ちなみに、

この物語の原作にあたる漫画版の『風の谷のナウシカ』のあとがき部分などにおいては、上記の日本文学の古典作品における姫君の呼び名の表記は、「蟲愛づる姫君」ではなく「虫愛ずる姫君」となっているので、ここではそちらの表記に合わせて書いていくことにしますが、

そうした漫画版の『風の谷のナウシカ』において、ナウシカが虫愛ずる姫君であるということが、最も直接的な形で言及がなされている場面としては、

例えば、

ナウシカのことを幼い時から見守ってきた城オジたちのなかでも、彼女が最も信頼をおく右目に眼帯をした老従者であるミトが、ナウシカの師匠でもある老剣士ユパに対して語った以下のような言葉の内に、

そうした虫愛ずる姫君と共通するナウシカの姿を見てとることができると考えられることになります。

・・・

「あのかた(ナウシカ)は、わしらにはない不思議な力を備えておられる。わしらには聞こえぬ声を聞いたり、風の心を読みとったり、腐海の木々や蟲ですら愛でておられるほどです。」

(『風の谷のナウシカ』第一巻、80ページ。)

・・・

つまり、上記の『風の谷のナウシカ』の場面においては、

まさに、虫愛ずる姫君という言葉そのままに、

一般の人々は、恐れたり、気味悪がったりしてしまうことから寄り付こうともしない腐海の木々や蟲を愛でる風の谷の姫君の姿が語られていると考えられることになるのです。

腐海の森の植物学者としての風の谷の姫君の生物学的探究

また、

そうした腐海の森の生き物たちを愛でるナウシカの様子が、より具体的な形で示されている場面としては、上記のミトの言葉のすぐ後に続く、別の場面を挙げることができると考えられることになります。

その場面において、ナウシカは、トルメキア王と風の谷の族長との間に交わされた古き盟約に基づいて、クシャナ殿下が率いるトルメキア軍の戦列へと加わるために、故郷である風の谷を去ることになる日の前の晩に、

自分が普段暮らしいた風の谷の城の地下の部分を改造して作った実験室のような場所へとナウシカの師匠でもあった腐海の森を旅する老剣士ユパを連れて来ることになるのですが、

そこででは、ナウシカとユパの二人の間で以下のような会話が交わされていくことになります。

・・・

ユパ「これは腐海の植物群ではないか!?何の真似だナウシカ!!」

ナウシカ「わたしが腐海で集めた胞子から育てたの。大丈夫。瘴気(しょうき)はでていません。でも、谷のみんなには秘密です。怖がるといけないから。」…

ナウシカ「きれいな水と空気の中では、ムシゴヤシだってこんなに可愛い木にしかならないの。瘴気も出さないとわかったわ。」

ナウシカ「汚れているのは土なんです。このものたちのせいではないのです。」

(『風の谷のナウシカ』第一巻、82ページ。)

・・・

つまり、この場面においては、

腐海の森に生きている生物たちをこよなく愛する風の谷の姫君であるナウシカが、

猛毒の瘴気(しょうき)を出す腐海の森の植物たちに対して特に興味を持って実験と観察を進めている様子が描かれていると考えられることになるのですが、

そういう意味では、

日本文学の古典作品である『堤中納言物語』に出てくる「蟲愛づる姫君」が、その名の通り、虫を集めて観察することが大好きな平安時代の昆虫学者であったとするならば、

風の谷の姫君であるナウシカは、蟲たちと共に、腐海の森の異形の生態系を形づくっている存在である猛毒の植物や菌類を愛でて、その仕組みを深く探求していこうとする腐海の森の植物学者でもあったと捉えることができると考えられることになるのです。

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・・・

以上のように、

『風の谷のナウシカ』の物語の中で、『堤中納言物語』に出てくる「蟲愛づる姫君」との共通点のあり方が示されていると考えられる具体的な場面については、

上述したように、

ナウシカのことを幼い時からずっと見守ってきた老従者である眼帯のミトの口から、腐海の木々や蟲を愛でるナウシカの様子が語られている場面や、

その後の、戦場へと向かう前夜のナウシカと、彼女の師匠でもあった老剣士ユパとの間に交わされた、腐海の森の植物についての会話のうちに、

そうしたナウシカと虫愛ずる姫君との間の共通点を見いだすことができると考えられることになります。

そして、そうした各場面におけるナウシカについての記述に基づくと、

風の谷の姫君であるナウシカは、

腐海の森に生きている蟲たちだけではなく、その蟲たちを育て、腐海の森自体をつくり上げる源となっている猛毒の植物や菌類たちに対してより多くの熱意を注いで生物学的探究を進めていくという、

平安時代の昆虫学者であった虫愛ずる姫君よりも、さらにマニアックな生物の分野について探究を進めていく腐海の森の植物学者あるいは毒物学者とでも呼ばれるべき存在としても描かれていると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:「愛づ」と「愛ず」ではどちらが正しい表記なのか?口語形と文語形、現代仮名遣いと歴史的仮名遣いにおける表記の違い

このシリーズの次回記事:風の谷のナウシカと粘菌との関係とは?①土鬼軍の生物兵器として開発された粘菌の変異体についての漫画版における具体的記述

前回記事:『風の谷のナウシカ』と「虫愛ずる姫君」の共通点とは?①漫画版のあとがきにおけるナウシカと虫愛ずる姫君の関係性の記述

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