オカルト思想の源流にある中世における四つの代表的な思想の潮流とは?③ユダヤ教のカバラにおける数秘学的な神秘主義の思想
前々回と前回の記事で書いてきたように、中世からルネサンス期にかけてのヨーロッパにおけるオカルト思想の源流にある古代思想や神秘主義の例としては、
ギリシア哲学における新プラトン主義の思想や、そうした哲学思想に古代エジプト神学などの古代思想が融合されていく形で形成されていったヘルメス主義の思想などが挙げられることになるのですが、
今回からの二回の記事のなかでは、そうしたルネサンス期のヨーロッパにおけるオカルト思想の興隆へとつながる原動力となった中世ヨーロッパにおける思想運動の代表例として、
さらに、ユダヤ教におけるカバラの思想と、新プラトン主義とイスラム教的神秘主義が融合した異色の思想であるルスス主義について取り上げていきたいと思います。
カバラ思想における生命の樹セフィロトと数秘学的な神秘主義の思想
まず、こうした二つの思想運動のうちの前者であるカバラ(Kabbala)とは、3世紀から4世紀頃の時代にその思想体系の原型が形づくられていくことになったと考えられるユダヤ教における神秘主義のことを意味する言葉であり、
4世紀頃に成立したと考えられているカバラ思想における聖典の一つである『セフェル・イェツィラー』においては、
聖書の解釈において「セフィラ」すなわち「数えること」を重視する数秘学的な思想が展開されるていくなかで、ユダヤ教における神は、そうした数において数え尽くすことができない無限なる存在のことを意味するエイン・ソフという名で呼び表されていくことになります。
そして、
カバラにおいては、世界の創造は、こうしたエイン・ソフと呼ばれる無限なる神の存在からの十の神性の流出によってがなされていったと説明されていくことになり、
エイン・ソフからの神性の流出による世界の創造は、セフィロトと呼ばれる生命の樹を象徴として描かれていくことになるのですが、
こうしたカバラの思想の中心に位置づけられている「セフィロト」とは、もともと、前述した聖典『セフェル・イェツィラー』において記されている「セフィラ」(数えること)という単語の複数形にあたる言葉であり、
こうしたカバラにおけるセフィロトという言葉自体が「多くの数」のことを意味する数秘学的な概念としても捉えられていると考えられることになるのです。
カバラ思想に基づく救済論や終末論とメシア運動への進展
そして、
こうしたユダヤ教のカバラにおける神秘主義の思想は、その後、中世から近代へと移っていく時代の転換期にさしかかると、
そうしたカバラ思想における無限なる神としてのエイン・ソフが、自らの神性の流出を通じて人類の歴史の内へと直接介入していくことによってイスラエルの民を救済するというユダヤ民族全体の救済論へと発展していくことになります。
そして、こうしたカバラ思想に基づく救済論や終末論は、
さらには、17世紀のトルコにおいて、こうしたカバラ思想へと傾倒して、カイロやイスタンブール、エルサレムといった中東世界の各地を遍歴して宗教改革を説いたのちに、自らユダヤ民族の救世主であるメシアを自称した
シャブタイ・ツヴィ(Sabbatai Zevi、1626年~1676年)に代表されるような国際的な規模のメシア運動へとつながっていくことになるのですが、
その一方で、
ユダヤ教のカバラにおける数秘学的な神秘主義の思想は、こうしたユダヤ教徒やユダヤ人の民族主義者たちだけに限らず、
中世から近代にかけてのヨーロッパから北アメリカ、中東世界の各地における神秘主義者や思想家たちにも幅広く影響を与えていくことによって、
ルネサンス期のヨーロッパやその後の近現代の時代におけるオカルト思想の潮流の一翼を担う思想運動としても発展していくことになったと考えられることになるのです。
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次回記事:オカルト思想の源流にある中世における四つの代表的な思想の潮流とは?④ルルス主義におけるキリスト教とイスラム教とユダヤ教の融合
前回記事:オカルト思想の源流にある中世における四つの代表的な思想の潮流とは?②ヘルメス主義における生命論的・汎神論的な世界観
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