幼少期の性的虐待が二重人格や多重人格の形成につながりやすい理由とは?エディプス期における子供の心の発達の阻害との関係
前回書いたように、二重人格や多重人格と呼ばれる心の病的な状態は、精神医学や心理学などの分野においては、正式には解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder)という疾患名で呼ばれる精神疾患の一種として分類されることになるのですが、
こうした解離性同一性障害あるいは二重人格や多重人格と呼ばれる精神疾患は、その症状の特異性から社会的な認知度が非常に高い疾患であるのに対して、精神医学などの実際の臨床の場においてはそこまで頻繁に目にすることはない比較的希少性の高い疾患であると考えられることになります。
そして、こうした二重人格や多重人格が引き起こされる主な原因としては、過去におけるトラウマ(心的外傷)となるような出来事、特にその中でも、幼少期における性的虐待が原因として挙げられることが多いと考えられることになるのですが、
それでは、こうした幼少期における性的虐待といった経験が、二重人格や多重人格といった重篤な精神疾患の引き金となりやすい理由としては、さらにどのようなところにその根本的な原因を見いだすことができると考えられることになるのでしょうか?
幼少期のリビドーの発達段階であるエディプス期における大人の人間と同等の心理的機能を備えた複雑な心理構造の形成
以前に「口唇期と肛門期とエディプス期のそれぞれの具体的な特徴」の記事などで詳しく考察したように、
フロイトの精神分析学などの深層心理学の分野においては、人間の心理的機能の発達は、リビドーと呼ばれる人間の心の奥底にある根源的な性的なエネルギーの発達段階の進展と共に進んでいくことになると考えられることになるのですが、
こうしたフロイトの心理学におけるリビドー理論においては、そうした人間の心の発達段階において、自我や超自我やエスといった大人の人間と同等の複雑な心理構造が形成されていくのは、エディプス期と呼ばれるリビドーの発達段階にあたる時期であると説明されていくことになります。
エディプス期(Oedipus stage)または男根期(phallic stage)とは、口唇期および肛門期の次に位置するだいたい4歳頃から6歳頃に現れる幼少期におけるリビドーの発達段階の一つとして位置づけられていて、
こうしたエディプス期と呼ばれるリビドーの発達段階においては、エディプスコンプレックスやエレクトラコンプレックスといった幼少期における子供が異性の親に対して無意識の内に抱く原初的な性愛感情が現れてくることになるのですが、
幼少期のなかでも、特に4歳頃から6歳頃を中心とするエディプス期の段階にある子供たちの心の中では、そうしたエディプスコンプレックスやエレクトラコンプレックスといった心の働きを通じて生じる性的な感情を中心とする様々な感情の葛藤や抑圧といった複雑な心理過程を経ていくことによって、
大人の人間と同等の心理的機能を備えた複雑な心理構造の形成が進められていくことになると考えられることになるのです。
幼少期の性的虐待が二重人格や多重人格の形成につながりやすい理由
そして、
こうした4歳頃から6歳頃のエディプス期を中心とする幼少期の段階において、性的虐待といったトラウマの原因となる過度なストレスを受けることになった子供たちの心の内部においては、
本来、自我や超自我やエスといった複雑な心理構造が形成されていくことになる繊細な心理過程の時期にあたるにも関わらず、
そうした繊細な心理過程のあり方が、性的虐待といった破壊的な行為によってすべてめちゃくちゃに踏みにじられていってしまうことになると考えられることになります。
つまり、
こうした幼少期において性的虐待などの過度なストレスに晒されることになった子供たちの心の中では、本来ならこの時期に行われるべきであるはずの自我や超自我やエスといった心の領域の分化と確立といった心理的機能の発達のあり方が阻害されていってしまうことになると考えられ、
それによって、
そうしたエディプス期における本来の心理的機能の発達を阻害された子供たちは、自分自身の人格の中心となる核にあたる自我の形成においてある種の脆弱性を抱え込んだままの状態で成長していくことを強いられてしまうことになると考えられることになるのです。
そして、その後、
そうした本来の心理的機能の発達を阻害され、自我の形成において脆弱性を抱え込むことになった子供たちの心の中では、そうした心理的機能の脆弱性に基づいて、
しばしば、自分自身の本来の人格からトラウマの原因となっているような耐え難い記憶や感情の一部の分離が進んでいってしまう「解離」と呼ばれる心の働きが進展していってしまうケースがあると考えられ、
そうしたケースにおいては、「解離」によって自分自身の本来の人格から分離された記憶や感情の一部がそのまま独立して別人格を形成していってしまうことによって、二重人格や多重人格と呼ばれる心の状態が生じていってしまうことがあると考えられることになるのです。
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以上のように、
幼少期の性的虐待が二重人格や多重人格といった重篤な精神疾患へとつながりやすい具体的な理由としては、
そうした子供たちが性的虐待を受けることになった4歳頃から6歳頃を中心とする幼少期の時期が、ちょうどフロイトの心理学におけるリビドーの発達段階のうちのエディプス期と呼ばれる段階と一致しているという点が挙げられることになると考えられることになります。
つまり、
こうしたエディプス期と呼ばれる人間の心において自我や超自我やエスといった複雑な心理構造が形成されていくことになる繊細な心理過程の段階にある子供たちは、
性的虐待といった破壊的な行為を通じて、そうした心の発達過程の阻害を受けることによって、自らの心の内に脆弱性を抱えたまま成長していくことになり、
そうした心理構造の形成過程において生じた脆弱性が原因となって、その後の二重人格や多重人格といった重篤な精神疾患が生じていってしまうケースがあると考えられることになるのです。
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次回記事:アドラー心理学とは何か?個人心理学における劣等感を原動力とする主体的な意志の力を重視した心理学理論、深層心理学とは何か?⑧
前回記事:二重人格と多重人格の違いとは?「解離」と呼ばれる心の防衛機制の働きによる主人格と交代人格の形成に基づく性質の違い
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