なぜ王蟲の眼と血は青い色をしているのか?人々を青き清浄の地へと導く浄化と平和の使者としての王蟲の存在
以前に『風の谷のナウシカ』で主人公の服の色が赤から青へ変わった理由とは?の記事などで書いたように、
映画版のナウシカのクライマックスの場面や、漫画版のナウシカの中盤の場面において、ナウシカの服の色が、映画版の赤や、漫画版の白に近い色から真っ青な色へと劇的に変化している理由は、
腐海の森を守る超常的な力を持った神聖な存在である王蟲の青い血の守りによって服全体がコーティングされるように塗り替えられていったことにあると考えられることになるのですが、
それでは、そもそも、なぜこうした腐海の森の王にしてその地を守る神聖なる森の番人でもある王蟲の血は赤ではなく青い色をしていると考えられることになるのでしょうか?
漫画版の『風の谷のナウシカ』における王蟲の青い眼の描写
ちなみに、
『風の谷のナウシカ』における王蟲という存在に関しては、その血の色だけではなく、眼の色についても、
森を破壊しようとする者に対する怒りに我を忘れている状態では赤い色の眼をしているものの、通常の穏やかな状態においては青い色の眼をしている存在として描かれているのですが、
この物語の原作にあたる漫画版の『風の谷のナウシカ』においては、
主人公であるナウシカや、彼女に付き従う城オジたちなどのその他の様々な登場人物の言葉のなかにも、そうした王蟲の眼の色や血の色についての言及がなされているシーンが数多く出てくることになります。
そして、
そうした数多くのシーンの内から、まずは、王蟲の眼の色についての描写がなされている主だった場面について取り上げて列挙していくと、それは以下のようになります。
・・・
「王蟲!!森へお帰り。ここはおまえの住む世界じゃないのよ。…
眼がルビーのようにもえているわ。激怒しているんだ。」
(『風の谷のナウシカ』第一巻、20ページ。)
「見ろ、王蟲の眼が……。眼が炎のようになった。攻撃色だ!!近くで蟲を殺した者がいるのか…。」
(『風の谷のナウシカ』第一巻、114~115ページ。)
「王蟲の行くところへ私も……。生きているうちにこんなに菌糸が覆うなんて……。
眼が攻撃色じゃない!?なんて深い青なんだろう……。きれい…。」
(『風の谷のナウシカ』第五巻、144~145ページ。)
・・・
このように、こうした漫画版の『風の谷のナウシカ』における王蟲の眼の色についての記述においては、
攻撃色であるとされる赤に対して、通常の状態における王蟲の眼の色は穏やかな青い色をしているとされていて、
そうしたことからも分かる通り、
この物語では、赤は怒りと戦いを象徴する攻撃色として捉えられているのに対して、その対極にある色である青を穏やかさや平和を象徴する鎮静色として強く印象づけるようなシーンが数多く見られていくことになるのです。
王蟲の青い血についての記述と、浄化と平和の使者としての王蟲の存在
そして、次に、
この物語の原作にあたる漫画版の『風の谷のナウシカ』のなかから、
王蟲の血の色についての描写がなされている主だった場面について取り上げて列挙していくと、それは以下のようになります。
・・・
「遠くてよく見えない…。青い服を着ているわ。たしかあの服、ばばさまの…。でも…色がちがう……。王蟲の血を浴びたように真っ青だわ。」
(『風の谷のナウシカ』第二巻、79ページ。)
「王蟲の血で真っ青だけど、ちっともイヤなにおいがしない。風の谷のわたしが、王蟲の染めてくれた土鬼(ドルク)の服を着て、トルメキアの船で出かけるのよ。」
(『風の谷のナウシカ』第二巻、94ページ。)
「服を青く染めた王蟲の血に蟲たちの怒りを鎮めてくれる力があるなんて。」
(『風の谷のナウシカ』第三巻、47ページ。)
・・・
このように、
こうした王蟲の血の色についての描写がなされている場面においても、王蟲の血の色である青は、怒りを鎮める力を持った鎮静色や平和を象徴する色として捉えられていると考えられることになります。
ちなみに、
そうした漫画版の『風の谷のナウシカ』のなかの王蟲の血の性質に関して言及がなされているシーンのなかでは、暴走する王蟲の子を自らの身を挺して押しとどめようとしたナウシカが、酸の湖の水に足の踵(かかと)を焼かれてしまう場面が出てくるのですが、そこでナウシカは、
「やさしい子。へいき…。お前の体液が中和してくれたから。」
(『風の谷のナウシカ』第一巻、66ページ。)
と語り、湖の酸性の水によって負った火傷が大事には至らなかったということを伝えていますが、
こうしたことからは、王蟲の体液が強酸性の液体で満たされた酸の湖の水をも中和することができる性質を持っているということ、
つまり、
王蟲の血液はアルカリ性であるということが示されていると考えられることになります。
・・・
以上のように、
腐海の森の番人である王蟲の眼と血の色が青い色をしている理由としては、
こうした王蟲と呼ばれる生物が、腐海の森全体を守護する森の番人のような存在であり、
森の生き物たちを殺された怒りによって我を忘れていない状態においては、穏やかさや平和を表す鎮静色としての青によって象徴されるような存在であるという点が挙げられることになると考えられることになります。
つまり、
映画版や、漫画版の前半部分における『風の谷のナウシカ』の物語の中では、
こうした王蟲と呼ばれる存在は、言わば、人々を青き清浄の地へと導くような浄化と平和の使者のような存在としてが位置づけられているため、
王蟲は、人間と同じような赤い血が流れる存在ではなく、平和や神聖さを象徴する青い眼と青い血を持った存在として描かれていると考えられることになのです。
・・・
次回記事:王蟲の血が青い本当の理由とは?旧世界の軛から王蟲を解放し、青き清浄の世界を蟲たちへと明け渡す解放者としてナウシカの姿
このシリーズの前回記事:『風の谷のナウシカ』とシェイクスピアの『マクベス』の共通点とは?光と闇、清浄と汚濁の両面をあわせ持つ存在としての生命
前回記事:「塞翁が馬」の二つの意味とは?哲学的な意味における解釈と荘子の万物斉同と逍遥遊の思想との関係
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