『風の谷のナウシカ』とシェイクスピアの『マクベス』の共通点とは?光と闇、清浄と汚濁の両面をあわせ持つ存在としての生命
前回書いたように、漫画版の『風の谷のナウシカ』の終幕に近い場面においては、
「世界を清浄と汚濁に分けてしまっては何も見えない」そして「清浄と汚濁こそが生命である」といったナウシカ自身の言葉を通じて、
清浄と汚濁という対立関係を超越した生命そのものの存在に至上の価値を見いだす思想が提示されていると考えられることになります。
そして、
こうした清浄と汚濁、美と醜、善と悪といった概念についての二項対立的な捉え方を否定するような思想の構図は、古今東西の様々な文学作品などにおいてもそれと同じような構図を見いだすことができると考えられ、
例えば、より古典的な文学作品の中から、一つ例を挙げてみるとすると、
シェイクスピアの『マクベス』においても、こうした『風の谷のナウシカ』において語られている上記のような言葉におけるものと同様の構図を見いだすことができると考えられることになります。
シェイクスピアの『マクベス』における魔女の言葉と『風の谷のナウシカ』におけるナウシカの言葉との共通点
『マクベス』(Macbeth)とは、イギリスの代表的な劇作家であるウィリアム・シェイクスピアによって1606年頃に書かれた戯曲であり、シェイクスピアの四大悲劇の一つとしても数え上げられる作品ですが、
この作品の冒頭部においては、物語の主人公であるマクベスを悲劇へと導く三人の魔女たちの言葉として、
「きれいは汚い、汚いはきれい」
という有名なセリフが語られています。
そして、
この言葉は、一言でいうと、
神や善人にとって美しく見えるものは、悪魔や魔女にとってはかえって忌々しい汚らしいものに映るというように、
美と醜、きれいと汚いといった概念が、そもそも見る者自身の性質や立場の違いによって位置づけが正反対にも変化しうる相対的な観念にすぎないということを示唆する言葉であると考えられることになります。
そして、その一方で、
「清浄と汚濁に分けてしまっては何も見えない」と語っているナウシカの言葉も、
清浄と汚濁、きれいなものと汚いものへと世界を二分してしまう見方を否定し、そうした二つの要素が互いに不可分な形で絡み合うことによって、現実における豊かな生命や世界のあり方が成立するということを示している言葉であると考えられることになるので、
そうした意味では、
こうした「きれいは汚い、汚いはきれい」というマクベスの魔女の言葉は、
「世界を清浄と汚濁に分けてしまっては何も見えない」と語るナウシカの言葉とも互いに共通する思想的な構図をもった言葉として捉えることができると考えられることになるのです。
光と闇、美と醜、清浄と汚濁の両面をあわせ持つ存在としての生命
ちなみに、
漫画版の『風の谷のナウシカ』においては、上記の「清浄と汚濁こそが生命だ」というナウシカの言葉が語られた後で、
現在の世界の創造主である旧世界の人類たちの影がナウシカに対して発した
「お前は危険な闇だ。生命は光だ!!」という言葉に対して、ナウシカが、
「ちがう、いのちは闇の中のまたたく光だ!!」
という言葉を投げ返していく場面が続いていくことになりますが、
この場面では、清浄と汚濁といった概念と同様に、光と闇といった概念についても、生命をそうした互いに対立する二つの概念のうちのいずれか一方のみへと区分することは不可能であるということが語られていると考えられることになります。
つまり、
こうした美と醜、清浄と汚濁といった概念と同様に、光と闇、あるいは、善と悪といった概念についても、
それらの概念は、ある面においては非常に美しい存在であったはずのものが、別の面においては醜い部分を持った存在でもあることがあり、
ある視点にいおいては悪とされていたはずのものが、別の視点では善とされることがあるというように、
様々な状況や視点に応じて、容易にその価値が反転しうる相対的な概念であって、
そういう意味では、
こうしたマクベスの魔女やナウシカの言葉によって示されているように、
そもそも、この世界の内に存在するすべての存在は、光と闇、清浄と汚濁といった概念のいずれか一方のみへと区分すること自体が不可能な存在であり、
世界全体も、その内に生きているあらゆる生命も、そうした光と闇、美と醜、清浄と汚濁といった両方の面をあわせ持つことによって成立していると考えられることになるのです。
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次回記事:「きれいは汚い、汚いはきれい」という言葉が語られる『マクベス』の場面と、同じ英語の原文に対する二通りの訳し方とは?
このシリーズの次回記事:なぜ王蟲の眼と血は青い色をしているのか?人々を青き清浄の地へと導く浄化と平和の使者としての王蟲の存在
前回記事:『風の谷のナウシカ』で語られている自然物と人工物、清浄と汚濁を超越した生命そのものの存在に至上の価値を見いだす思想
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