オートファジー(自食作用)とは何か?ギリシア語の語源と生物学的な仕組み
前回書いたように、予め遺伝的にプログラムされた生体内の内的なプロセスに従って進行する自発的な細胞死のあり方には、細かく分けていくと、
アポトーシスのほかに、ネクロトーシスや、オートファジーと呼ばれるプログラム細胞死のあり方も存在すると考えられることになります。
そこで今回は、こうした三種類のプログラム細胞死のうちの最後に挙げたオートファジー(自食作用)と呼ばれる細胞内の仕組みを利用した細胞死のあり方について、
この言葉自体の英語やギリシア語における語源となる意味や、その生物学的な特徴といった観点から詳しく考えてみたいと思います。
オートファジーのギリシア語の語源と同じ言葉から派生した他の単語の例
まず、
オートファジー(autophagy)とは、その大本の語源となる意味においては、
ギリシア語において「自己」や「自分自身」のことを意味する接頭辞であるauto-(アウト)と、
同じくギリシア語において「食事」や「食べること」を意味するphagia(ファギア)という二つの単語が結びついてできた言葉であり、
例えば、
こうしたギリシア語の接頭辞であるauto-(アウト)がそのまま英語へと引き継がれる形で使われることとなった英語のauto-(オート)が用いられている他の単語の例としては、
autobiography(オートバイオグラフィー)と言えば、それは、自分自身についての伝記、すなわち、自叙伝のことを意味することになりますし、
automobile(オートモビール)と言えば、それは、自分で動くことができるもの、すなわち、自動車のことを意味することになります。
また、
後者のギリシア語のphagia(ファギア)や、それが英語化された英語のphagy(ファジー)が用いられる単語の例としては、
polyphagy(ポリファギア)やpolyphagy(ポリファジー)と言えば、それは、人間や動物が多くのもの(poly)を食べている状態、すなわち、人間における過食症の症状や、動物における雑食性のことを意味することになりますし、
anthropophagy(アンソロポファジー)と言えば、それは、未開人などにおける食人の風習、すなわち、カニバリズムのことを意味することになります。
細胞におけるオートファジー(自食作用)の生物学的な仕組みとは?
それでは、
こうしたギリシア語におけるautophagia(アウトファギア)、すなわち、英語におけるオートファジー(autophagy)と呼ばれる細胞が自分自身を食べるという自食作用の仕組みが生物学的にはどのようなプロセスによって成り立っているのか?ということについてですが、
こうしたオートファジーと呼ばれる細胞の自食作用の仕組みにおいては、
まず、
飢餓状態などによって自らの細胞体を形づくるタンパク質などの材料不足や栄養不足の状態へと陥った細胞の内部において、
オートファゴソーム(autophagosome)と呼ばれる細胞内の他の部分からは隔離された袋状の小胞構造が形成されていくことになります。
そして、
こうしたオートファゴソームと呼ばれる小胞構造が、リソソーム(lysosome)と呼ばれる細胞内において外部から取り入れられた物質の細胞内消化を行う機能を担っている小型の顆粒状の細胞小器官と融合することによって、
オートリソソーム(autolysosome)と呼ばれる自分自身の細胞体の内部構造をも自己消化することができる小胞構造が細胞内に形成されることになり、
細胞は、こうしたオートファゴソームやオートリソソームと呼ばれる器官の内部に自分自身の細胞体の一部を投入してその消化と分解を進めていくことによって、
細胞体を形づくるタンパク質の材料や細胞のエネルギー源となるアミノ酸などの物質を自らの内で新たに再利用していくことになると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
オートファジーと呼ばれる細胞の自食作用の具体的な仕組みとは、
飢餓状態などに陥った細胞が、自らの内部に、細胞内消化を行う細胞小器官であるリソソームと融合したオートファゴソームと呼ばれる小胞構造を形成し、
そうしたオートファゴソームの内に、自らの細胞内に存在する不要なタンパク質だけではなく、自らの細胞体の一部でもあるミトコンドリアなどの細胞小器官なども必要に応じて順次投げ入れていくことによって、
文字通り、自らの身を削り、自分の体を自分で食べることによって、当座のところ必要な細胞体の材料源やエネルギー源を確保していくという細胞活動のあり方であると考えられることになります。
そして、
こうしたオートファジー(自食作用)の働きが一定の範囲内でとどまっている場合は、細胞は新たに取り入れられる材料を用いて自らの細胞体を修復し、オートファジーによって分解してしまったミトコンドリアなどの細胞小器官も新たに再生させることによって、元の細胞体の状態へと回復することが可能なのですが、
オートファジー(自食作用)の過程がさらに進行していくと、最終的に、残された細胞小器官の機能だけでは細胞体の修復と再生が不可能となる状態にまで細胞体の解体が進行してしまうことになり、
そのようなケースでは、細胞は、自らがつくり出した貪食器官であるオートファゴソームの内部に自分自身の細胞全体が丸ごと取り込まれてしまうことによって最終的には消滅していくという形で死を迎えることになってしまうと考えられることになるのです。
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次回記事:細胞におけるオートファジーと神話におけるウロボロスと饕餮のイメージとの関連性
前回記事:ネクロトーシスとは何か?アポトーシスとネクローシスの中間に位置する細胞死のあり方
関連記事:アポトーシスとネクローシスの違いとは?八つの生物学的な特徴に基づく細胞死のプロセスのあり方の相違点
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