ネクロトーシスとは何か?アポトーシスとネクローシスの中間に位置する細胞死のあり方
以前に「アポトーシスとネクローシスの違い」の記事で書いたように、動物や植物といった生物の体を構成している細胞の死のあり方には、一般的には大きく分けて、
アポトーシスとネクローシスと呼ばれる二つの細胞死のあり方が存在すると考えられることになります。
そして、通常の場合、
アポトーシスとは、生体内の内的なプロセスに従って進行する予め遺伝的にプログラムされた秩序立った自発的な細胞死のあり方であるのに対して、
ネクローシスは、それが別名では壊死と呼ばれてもいるように、外傷や火傷、細菌感染、血流不全といった外的な要因によって突発的に引き起こされる無秩序で受動的な細胞死のあり方であると捉えられることになると考えられるですが、
その一方で、近年の生物学においては、
こうしたアポトーシスとネクローシスと呼ばれる二つの細胞死のあり方の中間に位置する細胞死のあり方として、
ネクロトーシスと呼ばれる細胞死のあり方も存在すると考えられることになります。
アポトーシスと自食と壊死という三つの細胞死のあり方
「動物と植物の細胞におけるアポトーシスの具体的な仕組み」の記事でも書いたように、一般的に、動物の細胞においては、
生物の発生や成長、異常細胞の除去や免疫システムの構築などを目的とする生体内の内的なプロセスに従って、細胞内にカスパーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素を中心とするシグナル伝達経路が形成されることによってアポトーシスと呼ばれる細胞死が誘発されていくことになり、
アポトーシスが発動した細胞においては、細胞の収縮からDNAの断片化を経て細胞の小球への分割が進められていくという細胞内に予め組み込まれた遺伝的なプログラムに従った秩序立った自発的な細胞死が進行していくことになると考えられることになります。
しかし、その一方で、
サイトメガロウイルスなどのある種のウイルスなどが生成するカスパーゼ阻害物質の影響や、神経細胞のようにもともと細胞内におけるカスパーゼ活性が低い場合には、こうしたアポトーシスと呼ばれるプログラム細胞死の仕組みがうまく機能しないことがあると考えられていて、
そうしたアポトーシスによる細胞死の過程が阻害された細胞においては、細胞死のあり方は、
オートファジー(自食)と呼ばれる細胞小器官の一つであるリソソームにおける細胞内消化の機能を利用して細胞を構成するタンパク質を丸ごと分解していくという方法か、
ネクローシス(壊死)と呼ばれる細胞の膨張から無秩序な形での核融解を経て細胞膜の崩壊へと至るという
いずれか一方の細胞死の形態へと限定されてしまうことになると考えられることになるのです。
アポトーシスとネクローシスの中間にある細胞死としてのネクロトーシス
そして、
こうしたアポトーシスとオートファジー(自食)とネクローシス(壊死)と呼ばれる三つの細胞死のあり方において、一般的には、
最後に挙げたネクローシスと呼ばれる細胞死のあり方は、秩序立った自発的な細胞死のあり方であるアポトーシスの対極にある無秩序で受動的な細胞死のあり方であると考えられることになるのですが、
上述したようなアポトーシスによる細胞死の仕組みが阻害された細胞においては、本来はこうした無秩序で受動的な死のあり方であるはずのネクローシスが細胞内の内的なプロセスに従った自発的な形でもたらされるケースもあると考えられることになり、
具体的には、
カスパーゼ阻害剤などの影響によってカスパーゼが不活性化している細胞においては、その代替手段として、RIPK1(受容体共役タンパク質キナーゼ)と呼ばれるリン酸化酵素の一種を基軸として形成される細胞内のシグナル伝達経路が用いられることによって、
そうした細胞内の内的なプロセスに基づいてネクローシス様の細胞死が自発的にもたらされるケースがあると考えられることになります。
そして、そのようなケースでは、
外見上は、無秩序で破壊的な死のあり方をしているように見えていても、生体内の内的なプロセスにおいては細胞内における遺伝的なプログラムに従った秩序立った自発的な形での細胞死が進展していくことになるのですが、
つまり、
そうした細胞内の内的なプロセスに従って自発的に誘発されるネクローシス様の細胞死のあり方のことを指して、
それがアポトーシス(apoptosis)とネクローシス(necrosis)の中間に位置する細胞死のあり方であるという意味において、ネクロトーシス(necroptosis)という表現が用いられることになると考えられることになるのです。
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以上のように、
ネクロトーシスと呼ばれる細胞死のあり方は、
外見上の細胞構造の変化においては、細胞の膨張からミトコンドリアなどの細胞小器官の崩壊や核融解を経て細胞膜の崩壊へと至るというネクローシスと同様の経過をたどっていく細胞死のあり方でありながら、
生体内の内的なプロセスにおいては、アポトーシスと同様に、細胞内における遺伝的なプログラムに従ってもたらされる秩序立った自発的な細胞死のあり方であるという点において、
それは、アポトーシスとネクローシスと呼ばれる二つの細胞死のあり方の中間に位置する細胞死のあり方であると捉えることができると考えられることになるのです。
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次回記事:オートファジー(自食作用)とは何か?ギリシア語の語源と生物学的な仕組み
前回記事:人体の細胞におけるアポトーシスの八つの具体例、水晶体や脳の中枢神経から免疫システムの構築にまで関わる細胞死の仕組み
関連記事:アポトーシスとネクローシスの違いとは?八つの生物学的な特徴に基づく細胞死のプロセスのあり方の相違点
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