動物と植物の細胞におけるアポトーシスの具体的な仕組みとは?モミジとオタマジャクシにおけるプログラム細胞死のあり方
以前に「アポトーシスとは何か?ギリシア語の語源と生物学的な七つの特徴」の記事などで書いたように、
動物や植物の細胞における死のあり方には、大きく分けて、アポトーシスとネクローシスと呼ばれる二つの細胞死のあり方があると考えられることになります。
そして、
この内の前者であるアポトーシスとは、一言でいうと、生物の発生や成長のプロセスなどにおいて生じる細胞内に予め組み込まれているプログラムに従った秩序立った自発的な細胞死のあり方であると考えられることになのですが、
それでは、
こうした動物や植物の細胞において生じるアポトーシスの代表的な例としては、どのような事例が挙げられることになり、
それぞれの事例においては、具体的にどのような仕組みでアポトーシスと呼ばれる細胞死が進行していくことになると考えられることになるのでしょうか?
オタマジャクシからカエルへの形態変化におけるアポトーシスの仕組み
まず、
動物の発生と成長におけるアポトーシスの代表的な例としては、
幼生であるオタマジャクシ(お玉杓子)が成体であるカエル(蛙)へと成長していく際の形態の変化のあり方が挙げられることになります。
受精卵から孵化(ふか)したオタマジャクシは、頭部と胴体が一体となった丸い体に本体よりも長さの長い尾が付いた形態をして生まれていくことになるのですが、
オタマジャクシは生まれてから一か月半から数カ月ほどの間に徐々にその形態を変化させていき、胴部から手足が生えてくるとほぼ同時に、尾部が急速に短くなっていき、最終的には、尾が完全に消失した状態へと変化していくことになります。
そして、
こうしたオタマジャクシからカエルへの形態の変化においては、
生体内で予め定められた時期に、細胞内にカスパーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素を中心とするシグナル伝達経路が形成されることによってアポトーシスと呼ばれる細胞死が誘発され、
そうした生物の細胞内に予め組み込まれた遺伝的なプログラムに従った細胞死が連鎖的に進行していくことによって、
組織が不必要に破壊され過ぎてしまうことで傷跡が残るようなこともなければ、その反対に、不要な部分が取り残されてしまうようなこともない過不足のない整然とした形で生物体の形態の変化が進められていくことになるのです。
秋に紅葉して冬に舞い落ちるモミジにおけるアポトーシスの仕組み
それに対して、
植物におけるアポトーシスの代表的な例としては、
秋には葉が紅葉して、冬に差しかかると落葉して木の葉をはらはらと舞い散らせるカエデ(楓)やその別名であるモミジ(紅葉)などにおける木の葉の落葉のあり方が挙げられることになると考えられることになります。
カエデやモミジなどの落葉樹においては、秋から冬にかけての低温期の季節になると、
木の葉の柄の部分に離層(りそう)と呼ばれる細胞膜がゼラチン状に膨らんだり粘液化したりすることによって脆(もろ)くなった柔組織が形成されていくことになるのですが、
こうしたカエデやモミジなどの落葉樹における離層の形成においては、
まず、
秋から冬へと差しかかる予め定められた特定の時期になると、細胞内において老化ホルモンとも呼ばれる果実の熟成や成長抑制作用などを持つ植物ホルモンの一種であるエチレンガスが生成されていくことになり、
こうしたエチレンガスなどのホルモン物質が誘引となることによって、細胞内における遺伝的なプログラムに従った細胞死が進展していくことなります。
そして、
こうした予め遺伝的にプログラムされた細胞死、すなわち、アポトーシスとしての細胞死によって、
木の葉の柄の部分といった植物体の特定の部位においてのみ過不足のない整然とした形で細胞の消失と組織の脆弱化が進んで行くことにより、
カエデやモミジなどの落葉樹における秋から冬にかけての落葉の現象が説明されることになると考えられることになるのです。
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ちなみに、
以前にも書いたように、アポトーシス(apoptosis)という言葉は、もともと、
ギリシア語において「分離」や「離脱」のことを意味するapo(アポ)と、「下降」や「下垂」のことを意味するプトーシス(ptosis)という二つの単語が結びついてできた言葉であり、
こうしたアポトーシスという言葉は、そのもともとの語源における意味においては、
秋に紅葉した落葉樹の葉が、本体となる木から自然に「分離」して地面へと「下降」していくという「木から舞い落ちる枯れ葉」のような存在のことを意味する言葉であると考えられることになるのですが、
そういう意味では、
こうしたカエデやモミジなどの落葉樹における落葉現象をもたらすプログラムされた細胞死のあり方は、
アポトーシスと呼ばれる細胞死のあり方の一つの典型例を示しているとも捉えることができると考えられることになるのです。
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次回記事:人体の細胞におけるアポトーシスの八つの具体例、水晶体や脳の中枢神経から免疫システムの構築にまで関わる細胞死の仕組み
関連記事:アポトーシスとは何か?ギリシア語の語源と生物学的な七つの特徴
前回記事:細胞の自殺または安楽死としてのアポトーシスと他殺や事故死としてのネクローシス
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