アポトーシスとは何か?ギリシア語の語源と生物学的な七つの特徴
細胞における死のあり方は、生物学においては大きく分けて、
生物の成長の過程や、細胞のガン化などの遺伝子異常をきっかけとした細胞の内的な要因によって引き起こされる予めプログラムされた自発的な細胞死のあり方であるアポトーシスと、
外傷や火傷、細菌感染、血流不全などをきっかけとする細胞の外的な要因によって引き起こされる突発的で受動的な細胞死のあり方であるネクローシスという二つの死のあり方へと分類されることになると考えられることになります。
そこで、今回は、
こうしたアポトーシスとネクローシスと呼ばれる二つの細胞死のあり方のうちの前者にあたるアポトーシスとは具体的にどのような死のあり方であるのか?ということについて、
アポトーシスという言葉の語源と、その生物学的な特徴について順番に挙げていく形で詳しく考えてみたいと思います。
アポトーシスのギリシア語における語源と生物学的な七つの特徴
まず、
アポトーシスとネクローシスと呼ばれる二つの細胞死のあり方のうち、
はじめに挙げたアポトーシス(apoptosis※)とは、
ギリシア語において「~から離れて」といった「分離」や「離脱」のことを意味する前置詞であるapo(アポ)と、
同じくギリシア語やラテン語において「下降」や「下垂」のことを意味する名詞であるプトーシス(ptosis)とが結びつく形でつくられた造語であると考えられることになります。
※apoptosisという単語のつづりの二番目のpの文字は、英語では黙字(つづりの中では表記されていても実際には発音されない文字)とされる場合が多いので、通常の場合、アポプトーシスではなくアポトーシスと発音されるケースの方が多いと考えられることになります。
そして、
こうしたアポトーシスと呼ばれる細胞死のあり方においては、
アポトーシスのプログラムが発動した細胞は、隣接する他の細胞からは離れる形で孤立していき、自らの細胞体を急速に収縮させていくことになるのですが、
こうしたアポトーシスによる細胞体の収縮の際に、細胞核の内部では、細胞の遺伝情報を担うDNAが、染色体の基本構成単位であるヌクレオソームごとに分割されていく形でDNAの秩序立った断片化が進められていくことになります。
また、
こうした細胞体の全体の収縮とDNAの断片化が進んで行く際に、細胞質や細胞膜においても分割と凝縮が進んでいくことになるのですが、
その際、細胞核においてDNAの断片化が進められていくのとは異なり、ミトコンドリアやリソソームといった個々の細胞小器官は破壊されずに、基本的にはもととなる原形を保ったまま細胞質の分割が進められていくことになります。
そして、
こうした分割と凝縮が進んでいった細胞体は、内容物が細胞膜によって閉じ込められたまま多数のアポトーシス小胞と呼ばれる小球へと分離していくことによって、細胞としての生命活動が完全に停止することになるのですが、
その後、
こうしたアポトーシス小胞は、マクロファージなどの食作用をもつ他の細胞によって回収され、新たに生み出される他の細胞体の材料などとして再利用されていくことになるのです。
秋に舞い落ちる木の葉のような穏やかな死のあり方としてのアポトーシス
以上のように、
アポトーシス(apoptosis)とは、ギリシア語において「分離」や「離脱」のことを意味するapo(アポ)と、「下降」や「下垂」のことを意味するプトーシス(ptosis)が結びついてできた言葉であり、
こうしたアポトーシスと呼ばれる細胞死のあり方の生物学的な特徴としては、それが、
①細胞の内的な要因によって引き起こされる細胞の秩序立った自発的な死のあり方であり、
アポトーシスの過程においては、
②細胞核においてはDNAの断片化が進められていくのに対して、
③ミトコンドリアなどの個々の細胞小器官は原形を保ったまま細胞質の分割が進められていくことになり、
④最終的には、アポトーシス小胞と呼ばれる多数の小球へと分離していくという形で生命活動が停止されるということ、
そして、こうしたアポトーシスと呼ばれる細胞死においては、
⑤他の細胞からは隔離された形で細胞死へと至る変化が進んでいき、死んだ細胞の内容物はすべて細胞膜の内に閉じ込められたまま死を迎えることになるので、
⑥アポトーシスした細胞が隣接する他の細胞に損傷を与えることや、細胞の内容物の漏出などによる炎症が引き起こされなることはなく、
⑦細胞死を迎えた後のアポトーシス小胞は、マクロファージなどの食作用をもつ他の細胞によって回収され、他の細胞体の材料として再利用されていくことになる
といった全部で七つの主要となる生物学的な特徴を挙げることができると考えられることになります。
そして、そういう意味では、
アポトーシスとは、
ちょうど秋になると落葉樹の紅葉した葉が本体となる木から自然に「分離」して地面へと「下降」していくことによって枯れ葉としての自発的な死を迎え、やがて、土と混ざって分解されて木の養分となっていくというような
細胞内において予め定められた計画に従う形で訪れる自発的で秩序立った穏やかな死のあり方のことを意味していると考えられることになるのです。
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次回記事:ネクローシスとは何か?ギリシア語の語源と生物学的な六つの特徴
前回記事:リボソームとリソソームの違いとは?細胞内の破壊者としてのリソソームと創造者としてのリボソーム
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