酵母とは何か?①日本語の「酵母」と英語の「イースト」の語源と、日常的な狭義の意味における酵母の定義
「狭義と広義における菌類の定義の違い」の記事で書いたように、狭義における菌類である真菌類に分類される生物は、大きく分けて、キノコとカビ、そして、酵母という三つの形態へと区分されることになるのですが、
このうち、最後に挙げた酵母と呼ばれる菌類のあり方については、日常的に用いられている狭義における意味と、生物学的な広義における意味とで、大分定義のあり方が異なってくると考えられることになります。
それでは、
こうした狭義と広義における酵母の定義の違いとしては、具体的にどのような点が挙げられることになると考えられるのでしょうか?
今回は、まず、そうした日常的な狭義の意味における酵母の定義のあり方について、
日本語の「酵母」と、英語の「イースト」というそれぞれの言葉自体のもともと意味と、それらの言葉の大本の語源についてさかのぼっていく形で詳しく考えてみたいと思います。
日本語の「酵母」という言葉の語源と、日常的な狭義の意味における酵母の定義
酵母(酵母菌、イースト)という言葉が、日常的な狭義の意味において用いられる場合には、
それは、一義的には、有機物の内に含まれている糖分を分解してアルコール成分へと変換するアルコール発酵を行う子囊菌類(しのうきんるい)のことを指してこうした言葉が用いられていると考えられることになります。
こうした日常的な意味における酵母は、
ビールやワイン、日本酒といった醸造酒の醸造から、パンの製造、さらには、醤油や味噌といった様々なお酒や食品の製造の過程に深く関わっていて、
「酵母」という言葉自体も、もともと明治時代にヨーロッパから日本にビールの醸造法が伝えられた際に、
そうしたビールのアルコール発酵に用いられる成分のことを指す言葉であった英語のイースト(yeast)という単語の訳語としてできた言葉であったと考えられることになります。
つまり、
ビールやパンといったお酒や食品を製造する際に必要となるアルコール発酵をもたらす源となる成分、すなわち、発酵の母体となる成分という意味で、
日本語において「酵母」という言葉が用いられるようになっていったと考えられるということです。
英語のイースト(yeast)という単語の語源とは?
それでは、こうした日本語における「酵母」という言葉がつくり出される直接の由来となった英語の「イースト」という言葉自体の由来は、さらに、どこに求められることになるのか?ということについてですが、
こうした英語のイースト(yeast)という単語の語源をさらに大本にまでたどっていくと、
それは最終的に、英語を含めたあらゆるヨーロッパ系言語の源流にあたるインド・ヨーロッパ祖語において「泡」や「煮詰める」といった意味を表す語として用いられていたと考えられるイース(yes-)といった言葉に求められることになると考えられることになります。
つまり、
ビールやワインといった醸造酒や発酵食品などがつくり出される際に、材料を攪拌(かくはん)し、煮詰めていく煮沸(しゃふつ)の過程や、そうして互いに混ぜ合わされて溶け合った材料全体が発酵作用によってフツフツと泡立つ様子から、
そうした発酵作用をもたらす成分のことを指して、イースト(yeast)という言葉が用いられるようになっていったと考えられることになるのです。
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以上のように、
酵母(酵母菌、イースト)という言葉は、日常的な狭義の意味においては、
有機物の内に含まれている糖分を分解してアルコール成分へと変換するアルコール発酵を行う子囊菌類に分類される真菌類のことを意味する言葉であり、
日本語の「酵母」と英語の「イースト」という言葉自体の意味と、それぞれの言葉の大本の語源について考えていくと、
日本語の「酵母」という言葉は、ビールやパンなどのお酒や食品を製造する際に必要なアルコール発酵をもたらす源となる発酵の母体となる成分という意味を表していて、
それは、もともとは、英語のイースト(yeast)という単語の訳語として明治時代につくられた言葉であったと考えられるのに対して、
英語の「イースト」という言葉は、インド・ヨーロッパ祖語において「泡」や「煮詰める」といった意味を表す語にその大本の語源が求められることになり、
醸造酒や発酵食品などの材料が煮沸されたり、容器の内に入れられた材料が発酵してフツフツと泡立ったりしている様子のイメージからこうした言葉が用いられるようになっていったと考えられることになります。
そして、
こうした日常的な狭義の意味における酵母には、
ビール酵母やパン酵母、さらには、ワイン酵母や清酒酵母といったお酒や食品の発酵に用いられる人間にとって有用な菌類の種類が分類されることになるのですが、
それに対して、
詳しくはまた次回以降の記事で改めて考えていくように、生物学的な広義の意味おいては、これらのビール酵母やパン酵母といった人間にとって有益な菌類の他に、
人間の身体に害をもたらしたり、病気を引き起こしたりするような人間にとって有害な菌類の種類も、こうした酵母と呼ばれる真菌類の区分の内に含まれることになると考えられることになるのです。
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次回記事:酵母とカビとキノコの違いとは?生物学的な広義の意味における酵母の定義と、単細胞・群体・多細胞の違い、酵母とは何か?②
前回記事:粘菌が「カビ」と呼ばれることもある理由とは?粘菌とカビの見た目における共通点と生物体の構造上の本質的な相違点
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