ゴーストの語源とは何か?ゲルマン祖語と古ノルド語における大本の語源と、北欧神話における死と憤怒の神オーディン
ゴースト(ghost)という単語は、現代の英語においては、「幽霊」や「亡霊」あるいは、「影」や「幻」といった意味を表す言葉として捉えられることになりますが、
その大本の語源を古代へとさかのぼっていくと、それは、単に「幽霊」や「亡霊」といった死者の魂のことを意味する用途以外でも用いられていた言葉であったと考えられることになります。
今回は、こうした現代英語における“ghost”(ゴースト)という単語の語源を、古英語から、その大本の語源にあたるゲルマン祖語、さらには、それと深い関係にある古ノルド語へとさかのぼっていくことによって、
ゴーストの語源となる言葉が、古代ヨーロッパの言語において、具体的にどのような意味を表す言葉であったのか?ということについて詳しく考えていきたいと思います。
「ゴースト」の大本の語源となるゲルマン祖語と古ノルド語の言葉
現代英語における“ghost“(ゴースト)という単語は、もともと、古英語における“gast“(ガスト)あるいは“ghast“(ガースト)という単語に由来する言葉であり、
現代でも、“ghastly”(ガーストリー)というと、それは「恐ろしい」「ぞっとするような」「青ざめた」といった意味を表す形容詞または副詞として使われています。
そして、
こうした古英語における“gast”(ガスト)と“ghast”(ガースト)という単語の由来をさらに昔へとたどっていくと、
それは、最終的に、
イギリスやドイツ、フランスといった現在の西ヨーロッパ諸国を形成した人々の共通の祖先にあたるゲルマン民族が用いていたとされるゲルマン祖語と呼ばれる言語における“gaistaz“(ガイスタズ)という単語へと行き着くことになります。
さらに、
こうしたゲルマン祖語における“gaistaz“(ガイスタズ)という単語は、北欧神話の原典において用いられている言語として有名な古ノルド語(古北欧語)における“geisa“(ゲイサ)という単語ともそのルーツにおいて深い関わりを持つ概念であり、
古ノルド語において、“geisa”(ゲイサ)という単語は、「怒り」や「憤怒」といった意味を表す言葉として用いられていたと考えられることになるのですが、
こうしたことを踏まえると、
英語の“ghost”(ゴースト)の大本の語源にあたるゲルマン祖語における“gaistaz“(ガイスタズ)という単語も、
もともとは、「幽霊」や「亡霊」といった死者の魂のことを意味するだけではなく、「怒り」や「憤怒」といった生きている人間の感情や心のあり方を意味する言葉としても用いられていたと考えられることになるのです。
北欧神話における「死者の指揮者」と「憤怒の神」としてのオーディン
ところで、
こうした古ノルド語によって記されている北欧神話においては、その主神にあたる神の名として、オーディン(Odin)の名が挙げられることになりますが、
そうした北欧神話においてオーディンは、嵐と戦争の神にして、死を司る神でもあるとされることになります。
しかし、その一方で、
もともと、オーディン(Odin)の古ノルド語における表記である“Óðinn”(オージン)という単語は、
その語源となる意味においては、「憤怒」や「激怒」のことを意味する言葉として用いられていたと考えられることになります。
つまり、
北欧神話の主神オーディンは、人間の死とその魂を司る「死者の指揮者」であると同時に、自らの心の内には激情を宿した「憤怒の神」であるとも考えられるということです。
そして、
こうした北欧神話の最高神であるオーディンの神格の捉え方を見ても分かる通り、
古ノルド語において、死者の魂と怒りの感情は極めて近い関係にある概念として捉えられていて、
古ノルド語と深い関わりのあるゲルマン祖語においても、そうした言語における概念同士の関連性がある程度受け継がれていたと考えられることになるのです。
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以上のように、
英語の“ghost”(ゴースト)という単語の語源をたどっていくと、
それは、古英語における“gast“(ガスト)あるいは“ghast“(ガースト)という単語を経て、
最終的に、ゲルマン祖語における“gaistaz“(ガイスタズ)という単語と、それと深い関わりのある古ノルド語における“geisa“(ゲイサ)という単語へと行き着くことになると考えられることになります。
そして、
こうした英語の“ghost”(ゴースト)の大本の語源にあたるゲルマン祖語の“gaistaz“(ガイスタズ)という言葉は、具体的には、
「死者の魂」のことを意味すると同時に、「怒り」や「憤怒」といった生きている人間の感情や心のあり方、すなわち、「人間の心の動き」のことを意味する言葉としても用いられていたと考えられることになるのです。
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次回記事:ドイツ語のガイスト(Geist)と英語のゴースト(ghost)の意味の違いとは?
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