三段論法に基づく「偶像は神ではない」という命題の形而上学的な論証、妥当な三段論法の形式を用いた推論の具体例②
前回書いたように、一般的に人々が神に対して抱くイメージには、善性、完全性、絶対性、無限性、永遠性、唯一性、創造主といった様々な要素が存在すると考えられることになりますが、
このうち、キリスト教やギリシア神話、さらには、神道やゾロアスター教といった古今東西のあらゆる宗教に共通する神の性質としては、第一に、不滅性と永遠性、すなわち、「不死なる存在」としての神の性質が挙げられることになると考えられることになります。
すると、今度は、こうしたあらゆる宗教に共通する神の普遍的な性質の定義に基づいて、様々な形而上学的な論証を行うことができると考えられることになるのですが、
今回は、そのうちの一つの論証の例として、「偶像は神ではない」という形而上学的な命題の論証について考えてみたいと思います。
三段論法の推論に基づく偶像の物質性と可滅性の論証
まず、一般的に、
偶像崇拝とは、絵画・彫刻・自然物などの可視的な対象物を信仰の対象として崇拝することを意味するように、
この場合、神として崇められれる対象となる可能性のある偶像とは、絵画や彫刻といった人工物、あるいは、山や海や太陽といった自然物のいずれかを指すと考えられることになります。
そして、
人工物の場合でも、自然物の場合でも、それは物質的存在であることに変わりわないので、すべての偶像に共通する性質の一つとして、
「すべての偶像とは物質的存在である」と定義することができると考えられることになります。
そして、
あらゆる物質的存在は、生成と消滅を繰り返し、時間とともに常に変化していく存在であり、永遠に同じ姿を保ち続けるということがあり得ない可滅的な存在であると考えられるので、
「すべての物質的存在は可滅性を有する」、すなわち、「すべての物質的存在は不滅性を有さない」と定義づけることができると考えられることになります。
すると、上記の「偶像」と「物質的存在」と「不滅性」という三つの概念をめぐる二つの命題に基づいて、以下のような三段論法の推論を展開することができると考えられることになります。
大前提:すべての物質的存在は不滅性を有さない。(全称否定命題(E))
小前提:すべての偶像は物質的存在である。(全称肯定命題(A))
結論:ゆえに、すべての偶像は不滅性を有さない。(全称否定命題(E))
そして、
上記の三段論法の推論は、「24種類の妥当な三段論法の形式」の記事でまとめた前提が真であれば結論も必然的に真となる24通りの妥当な三段論法の形式のうちの第一格EAE式を用いた演繹的推論となるので、
この推論は、前提が真である限り、三段論法の形式のみによって、結論も論理必然的に真となる推論として認めることができると考えられることになるのです。
三段論法に基づく「偶像は神ではない」という形而上学的な命題の論証
以上のように、三段論法を用いた推論によって、「すべての偶像は不滅性を有さない」という命題が真であることが論証されたわけですが、
それに対して、
前回の記事で考察したように、あらゆる宗教に共通する神の普遍的な性質としては、「不死なる存在」であること、すなわち、不滅性と永遠性という性質が挙げられることになるので、
「すべての神は不死である」あるいは「すべての神は不滅性を有する」といった命題も真であると認めることができると考えられることになります。
すると、今度は、上記の「偶像」と「神」と「不滅性」という三つの概念をめぐる二つの命題に基づいて、以下のような三段論法の推論を展開することができると考えられることになります。
大前提:すべての神は不滅性を有する。(全称肯定命題(A))
小前提:すべての偶像は不滅性を有さない。(全称否定命題(E))
結論:ゆえに、すべての偶像は神ではない。(全称否定命題(E))
そして、
上記の三段論法の推論は、「24種類の妥当な三段論法の形式」のうちの第二格AEE式を用いた演繹的推論となるので、
この推論は、前提が真である限り、三段論法の形式のみによって、結論も必然的に真となる推論として認めることができると考えられることになり、
以上のような二つの三段論法の形式を用いた一連の演繹的推論によって、「偶像は神ではない」という命題が真であるということが形而上学的に論証されることになると考えられることになるのです。
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次回記事:三段論法に基づく「人間は神ではない」という命題の形而上学的な論証、妥当な三段論法の形式を用いた推論の具体例③
前回記事:あらゆる宗教に共通する神の普遍的な性質とは何か?「永遠性」すなわち「不死なる存在」としての神の定義
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