ジャメブ(未視感)と物忘れや認知症の症状との違いとは?
前々回の記事で書いたように、ジャメブ(未視感)とは、一言でいうと、自分にとって既知の認識であるはずの見慣れた事柄を初めて経験する未知の認識であるように感じてしまう認識のあり方のことを意味する概念であると考えられることになります。
このように言ってしまうと、一見すると、ジャメブ(未視感)とは、単なる物忘れや認知症の症状などと同じような状態を示す概念であるとも捉えられてしまうことになるのですが、
ジャメブ(未視感)と呼ばれる認知感覚のあり方についてより詳しく考えていくと、両者の概念の間には、明確な意味の違いが存在すると考えられることになります。
ジャメブ(未視感)と物忘れや認知症の症状との違い
例えば、単なる物忘れの場合には、昨日の夜に確かに食事をしたことは覚えているが、その食事のメニューが何だったか思い出せないといった部分的な記憶の欠落が問題になるのに対して、
認知症の症状の場合には、さっき食事をしたということ自体を忘れてしまい、食後1時間も経っていないのに、自分の食事の準備はまだか?と尋ねてしまうというように、より広範囲で全般的な記憶の欠如が問題となると考えられることになります。
このように、一般的には、単なる物忘れと認知症の症状には、過去の記憶の欠如が生じる範囲や程度の重さに大きな違いがみられると考えられることになりますが、
両者とも、現状の認識に対応する何らかの形の記憶の欠落が原因となって生じるという点では、互いに共通するところのある認識のあり方であると考えられることになります。
それに対して、ジャメブ(未視感)と呼ばれる現象の場合、
それは確かに、自分にとって見慣れている既知であるはずの経験を未知の認識であるように感じてしまうという点では、
一見すると、
食事をしたという既知の経験を忘れていしまい、まだ食事をしていないという未知の認識の状態へと陥ってしまうという上記の認知症の症状の例におけるような認識のあり方と、互いに似通った認識のあり方であるようにも思えてしまうことになります。
しかし、
ジャメブ(未視感)の場合には、物忘れや認知症の場合のように、現状の認識において実際に記憶の欠落が生じてしまっているわけではなく、
むしろ、
認識対象となる目の前の事物が、自分にとって見慣れた事柄であるという記憶はしっかりと残っていて、それが既知の認識であるということは頭でははっきりと分かっているものの、
そうした目の前に存在する現状の認識のあり方全体に、それを未知の認識であると感じさせるような感覚的なバイアスがかかっている状態がジャメブ(未視感)と呼ばれる認識のあり方であると考えられることになります。
つまり、
ジャメブ(未視感)とは、記憶の欠落によってではなく、現状の認識全体を包括する高次の認識という意味でのメタ認識において生じる感覚的なバイアスが原因となって生じる認知感覚の異常のことを意味する概念であり、
そうしたメタレベルの認識において生じる感覚的なバイアスによって、確かにかつて経験していてすでに知っているはずのものが、現状の認識においては、自分にとっては馴染みのない異質で未知な存在のように感じられてしまうことになるので、
やはり、それは、単なる物忘れや、知っていたということ自体や経験したということ自体を忘れてしまっている認知症の症状などとも、大きく異なった認識のあり方をしていると考えられることになるのです。
現状の認識とメタ的な認知感覚との不一致としてのデジャブとジャメブ
これは、自分にとっていまだ経験のない未知であるはずの認識がすでに経験した既知の認識であるように感じられてしまうというデジャブ(既視感)と呼ばれるジャメブ(未視感)と反対の関係にある認知感覚のあり方にも共通して言えることですが、
こうしたデジャブ(既視感)やジャメブ(未視感)と呼ばれる認識のあり方においては、未知のものを既知のものと感じたり、その反対に、既知のものを未知のものと感じたりするという感覚は、
既知であるはずのものに関する記憶の欠落や、未知のものを既知のものと取り違える記憶違いなどによって生じる現象ではなく、
現状の認識に対して、それを包括するメタ認識において形成される感覚的なバイアスが不整合な状態にあることによって引き起こされるタイプの認知感覚の異常であると考えられることになります。
つまり、
デジャブ(既視感)やジャメブ(未視感)といった認識のあり方は、一言でいうと、
現状の認識とそれに対する包括的でメタ的な認知感覚との間の不一致によって引き起こされる認知感覚の異常として捉えることができると考えられることになるのです。
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初回記事:ジャメブ(未視感)とは何か?フランス語における語源と日常表現としてのjamais vu
前回記事:デジャブ(既視感)におけるセピア色の認識としてのメタ的な認知感覚のあり方
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