個人主義と利己主義の違いとは?個人主義の背景にある二つの原理

個人主義individualismインディビジュアリズムとは、国家や社会の権威よりも個人の意義と価値を重視し、人間ひとりひとりの権利と自由を尊重する立場や思想のことを表す言葉であり、

一般的には、社会や他人のことはまったく考慮せずに、自分の利益や快楽のみを追求する利己主義egoismエゴイズムの思想とは区別されると考えられることになります。

しかし、その一方で、

『大辞泉』の定義においても、「個人主義」の項目の二番目の意味には、「利己主義に同じ」と書かれているように、

日常的な意味においては、個人主義も利己主義もだいたい同じような意味を持つ言葉として同義語的に用いられるケースもあります。

こうした個人主義利己主義という二つの思想には、具体的にどのような共通点と相違点があると考えられることになるのでしょうか?

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全体主義に対立する思想としての個人主義と利己主義の共通点

まず、両者の思想の共通点としては、

個人主義も利己主義も共に、個人によって構成される集団全体としての社会や国家の存在よりも個人の存在自体を一義的なものとして重視し、

基本的には、社会や国家全体の利益や秩序の維持よりも個人の自由や幸福の実現の方を優先する傾向を持つ思想であることが挙げられることになります。

そのような立場と真っ向から対立する思想としては、

個人の自由や幸福よりも国家全体の利益拡大社会全体の秩序維持といったより大きな利益のあり方を重視する全体主義の思想が挙げられることになりますが、

個人主義と利己主義は両者とも、こうした全体主義の思想に対立する思想であると考えられることになるのです。

例えば、

ある人物が自分が所属する社会や国家のあり方を批判する主張を展開し、その主張をまとめた本を出版しようとして、政府からその本の内容が現状の社会秩序を脅かしかねない社会や国家全体にとって有害な思想である可能性が高いと判断された場合、

全体主義の立場に立つと、それが社会や国家全体の利益を損なう本である以上、出版は差し止められ、その本を公刊しようとした著者は何らかの形で処罰されてしまうケースが多いと考えられることになります。

それに対して、

個人主義や利己主義の立場に立つと、社会や国家全体の利益や秩序の維持よりも、その本を出版しようとしている人物当人の個人としての自由と幸福の実現の方がより重視されることになるので、結果として出版が容認されるケースが多くなると考えられることになります。

このように、

個人主義も利己主義も、社会を構成している個人の自由や幸福以上にまさる価値はなく、そうした人間ひとりひとりの個人の幸福を犠牲にしてまで優先されるべき全体の幸福や国家の利益といったものの存在は認めないという点において、

両者の思想には大きな共通点があると考えられることになるのです。

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利己主義に欠けている個人主義に特有の原理とは?

それでは、

個人主義と利己主義という両者の思想は、互いに完全に一致する同一の思想であるのか?というと、決してそういうわけではなく、

利己主義には、個人主義には存在する重要な原理の一つが欠けていると考えられることになります。

個人主義も利己主義も、個人としての自分自身の権利や自由を強く主張し、そうした自分自身の幸福や利益を追求することを人生の目標として重視するという姿勢に大きな違いは見られないのですが、

個人主義においては、自分と同様に個人としての権利や自由を有する他者の幸福や利益の追求も自分自身の利益の追求と同等に尊重されるのに対して、

利己主義においては、優先されるのは自分自身の利益や快楽の追求のみで、同じ個人であっても他者の権利や自由はまったく考慮されないという点に大きな違いがあると考えられることになります。

つまり、

個人主義においては、個人の権利や自由が尊重されるための前提として、すべての人間は互いに同等の価値を持つ平等な存在であることを認めるという平等性の原理が働いていると考えられるのですが、

それに対して、

利己主義においては、そのような個人間の平等性の承認という観点が欠けているため、他者の権利や自由とは無関係に個人としての自分自身の利益と幸福の追求が無制限に行われ

たとえ自らの行為によって別の個人である他者の利益や幸福が損なわれ、他人を傷つけてしまうことになっても、自分の利益や快楽が増すのならば一向にかまわないという独りよがりな考え方へとつながっていってしまうと考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

個人主義と利己主義は、両者とも、社会や国家全体の利益や秩序の維持よりも個人の自由や幸福の実現の方を重視する思想であり、

個人よりも国家全体の利益を重視する全体主義と対立する思想であるという点において、互いに共通するところがある思想であると捉えられることになります。

しかし、

個人主義が、個人の権利と自由を重視する自由主義の原理と、自分も他者も含めたすべての人間に同等の価値と権利を認める平等性の原理という二つの原理によって成り立っているのに対して、

利己主義の場合は、後者である平等性の原理が欠如しているという点に、両者の思想の根本的な違いがあると考えられることになるのです。

・・・

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