ピエタが持つ二重の意味とは?聖母マリアと人間マリアの二重性とラテン語のピエタスの双方向的な愛のあり方
ピエタ(pietá)とは、イタリア語で哀れみや慈悲心のことを意味する言葉であり、
現代では主に、イエス・キリストの遺骸を抱いてその死を嘆き悲しむ聖母マリアの姿が描かれた絵画や彫刻の主題のことを意味する言葉として用いられています。
そして、
このイタリア語のピエタという言葉の語源は、もともとはラテン語のピエタスと呼ばれる愛の概念にあると考えられることになるのですが、
そのようにピエタという言葉をその大本の語源までたどっていくと、そこには単に目の前の人間の死を哀れみ、嘆き悲しむこととは別の側面を持った二重の意味が含まれていると考えられることになるのです。
ピエタにおける神と人間の双方向的な愛のあり方
詳しくは前回の記事で書いたように、
ラテン語における愛の概念の一つであるピエタス(pietas)とは、本来、人間の側から神へと向けられる慎み深い愛のあり方を表す言葉であり、
キリスト教的世界観においては、神を信じる心正しき人々が、超越的な存在である神にひたすら帰依することによって心の平安を得るという信仰の源にある敬虔で慎み深い静かな愛のあり方がピエタスという愛の概念が持つもともとの意味であると考えられることになります。
そして、そこから派生して、
ピエタスという言葉は、祖国に対する忠誠心や家族に対する情愛なども含めたより広い愛の形を意味する表現として使われるようになっていくのですが、
その中で、さらには、神の側から人間に対する応答の愛としての慈愛や慈悲の心もピエタスという言葉の意味の中に含まれていくようになります。
つまり、
イタリア語におけるピエタという言葉は、その大本の語源であるラテン語のピエタスという言葉の意味にまでさかのぼって考えていくと、
人間から神へと向けられる慎み深い敬虔さを表す愛の形と、その反対に、神から人間へと向けられる哀れみ深い慈悲を表す愛の形という双方向的な愛のあり方が一体となった愛の概念として捉えられるということです。
ピエタの二重の意味と聖母としてのマリアと人間としてのマリアの二重性
そして、以上のようなピエタの解釈にしたがうと、
古典絵画や彫刻の構図におけるイエス・キリストの遺骸を抱く聖母マリアの姿は、
もちろん、直接的には、自らの子であるイエスの死に対する母としての深い嘆きと悲しみを表していると考えられることになるのですが、
その一方で、
こうした絵画や彫刻の構図の内には、自らの息子であると同時に、自分自身をはるかに超えた神の子でもあるキリストに対する深い畏敬の念と、そうした自らを超えた崇高なる存在の前にひざまずくマリアの敬虔さも表現されていると考えられることになります。
つまり、
ピエタにおける聖母子像の姿には、聖母マリアの神のごとき深い哀れみと慈しみという同情心と慈愛の心が描かれると同時に、
そのマリアをも超えた崇高なる存在であるキリストに対する人間としてのマリアの慎み深い敬虔な心も描かれているということあり、
そこには、人を慈しみ愛する神のごとき哀れみの心と、神を敬愛する人間としての敬虔な心という二面的な愛のあり方が描かれていると考えられることになるのです。
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以上のように、
ピエタという言葉は、その語源であるラテン語のピエタスという愛の概念にまでさかのぼって考えると、
神から人間へと向けられる限りなく慈悲深い哀れみと、その反対に、人間から神へと向けられる慎み深い敬虔さという二重の意味を持った愛の概念が含まれていると考えられることになります。
そして、
そうした愛の概念が主題となった古典絵画や彫刻の構図としてのピエタにおいても、その主題の内には、
神のごとき存在としての聖母マリアから息子イエスへと向けられる哀れみや慈悲心と、
人間としてのマリアから神の子であるキリストへと向けられる深い畏敬の念と敬虔さという
複雑に絡まり合った感情表現と二重の意味を持った愛の形が描かれていると考えられることになるのです。
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前回記事:人間から神へと向けられる愛としてのエロスとピエタスの違い
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