生命の根本原理とは何か?自発的で能動的な恒常性の原理、生命とは何か?⑫

このシリーズの初回から前回までの一連の考察では、

生物を定義づける「自己と外界との境界」「エネルギーと物質の代謝」「自己複製」「恒常性」という四つの生命の要素のうち、

生物を生命として成り立たせている最も核心的な要素、すなわち、生命の根本原理とは、恒常性の原理にあるということを明らかにしてきました。

それでは、

この根本的な生命の原理となる恒常性の原理は、より一般な言葉で言うと、具体的にどのような活動のあり方のことを示す原理であると考えられることになるのでしょうか?

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生物にも無生物にも共通する秩序構造の維持機能

前回までの議論で書いたように、

生物学における概念としては、生物の個体全体のマクロレベルでも、個々の細胞のミクロレベルにおいても働き続けている恒常性という原理が、生命の本質を示すのに最も適切な概念であると考えられることになります。

そして、

詳しくは恒常性とは何か?の記事で書いたように、

恒常性ホメオスタシスhomeostasis)とは、生物の体内において働く、自分自身の内部環境を一定の状態に保とうとする生体機能のことを意味する概念であり、

体内から異物を排除して内部環境を一定の状態に保とうとする免疫系の機能や、体温調節機能、血圧や血糖値の調整機能や自律神経の機能といった、

生物の体内において働く、自らの生命と秩序状態の維持に関わる活動のほとんどが恒常性の機能に含まれる活動であると考えられることになります。

しかし、例えば、

地球の上空高くを取り巻き、それ自体は生命を持たない存在でありながら、まるで地上で生きる生物を有害な紫外線から守るためのバリアのような働きをするオゾン層においては、

紫外線を吸収した衝撃によって酸素原子へと分解したオゾン分子は、成層圏下部で再び酸素分子と結びつく化学反応を起こすことによって新たなオゾン分子として再生し、

古いオゾン分子の分解と新たなオゾン分子の生成というサイクルによって、オゾン層における秩序構造機械的に一定の状態に維持され続けていくことになります。

このように、

単に一定の秩序状態が保たれる活動という意味では、そうした活動は生命における恒常性の機能だけに固有の働きであるとまで言い切ることはできず、

それは、生物以外の無生物の世界にもある程度共通して見られる現象であると考えられることになります。

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生命だけに特有の自発的で能動的な恒常性の原理

それでは、

こうした無生物の世界の秩序構造には決して見られず、生物の秩序構造においてのみ見られる恒常性の仕組みの特徴としては、どのような点があげられることになるのでしょうか?

例えば、

オゾン層におけるオゾン分子の分解と生成は、宇宙からの紫外線の照射や成層圏下部における偶発的な原子同士の衝突といった外界からの偶発的な作用によってもたらされることになりますが、

それに対して、

免疫系や体温調節、自律神経といった生物における恒常性の機能では、そうした秩序維持の活動は、すべて生物自身が自らの内に有する内的なシステムの働きによって自発的に維持される活動であると考えられることになります。

このように、生物と無生物における秩序の維持システムの違いについては、

無生物における秩序構造は、外界からの偶発的な作用によって受動的に維持されるだけのものに過ぎないのに対して、

生物における秩序構造は、生物自身の内部システムの働きによって自発的かつ能動的に維持されるものであるという点に、両者の違いがあると考えられることになります。

したがって、

生物において自らの生命と秩序を維持する働きとしての恒常性の原理は、単に、自らの秩序構造が機械的に維持されるあり方のことを示す概念ではなく、

それは、より正確に言うならば、

無生物における秩序構造では働かずに、生物においてのみ働く、内部システムに基づく自発的かつ能動的な秩序構造の維持機能、

すなわち、生命だけに特有の働きである自発的で能動的な恒常性の原理であると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

生物において見られる、自らの内部環境を一定の状態に保つ秩序構造の維持機能自体は、生物以外の無生物の世界にもある程度共通して見られる現象であると考えられることになるのですが、

無生物における秩序構造は、外界からの働きを受けて受動的に維持されるものに過ぎないのに対して、

生物における秩序構造は、自分自身の内部システムに基づいて自発的かつ能動的に維持される秩序であるという点に、両者の秩序構造の維持機能の違いがみられることになります。

つまり、

生命の根本原理となる恒常性の原理とは、より正確には、生物における秩序構造においてのみ働く自発的で能動的な恒常性の原理のことを示す概念であり、

それは、より一般的な言葉で言うならば、

生物が自分自身の秩序を維持する自発的で能動的な活動のことを意味する概念であると考えられることになるのです。

・・・

このシリーズの初回記事生物の四つの定義とは何か?クモとイチョウの木のたとえ、生命とは何か?①

前回記事:恒常性の破綻としての生物の死と細胞レベルにおける自己複製の機能の破壊、自己複製と恒常性の原理のどちらが生命の根本原理なのか?③、生命とは何か?⑪

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