恒常性(ホメオスタシス)とは何か?生物の内部環境を一定の状態に維持する自発的で能動的な活動、生命とは何か?⑥

ここまでの数回の記事では、鉱物の恒常性人間の心における恒常性さらには生物の進化と恒常性との関係といった様々な恒常性のあり方について詳しく考えてきましたが、

それでは、以上のような考察を踏まえると、

生物の活動や人間の身体における恒常性のあり方とは、一般的にどのようなものであると考えられることになるのでしょうか?

今回は、

体温調節機能自律神経のバランスといった生物における恒常性の具体的なあり方について考察していくことを通じて、

自己複製の原理と恒常性の原理という生命の二つの原理のうちの一つを担う恒常性の原理の核心はどのようなところにあるのか?という問題について迫っていきたいと思います。

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生物における恒常性(ホメオスタシス)の具体的なあり方とは?

恒常性ホメオスタシスhomeostasis)とは、古代ギリシア語で「同様の似た」を意味する”homoiosホモイオス)”と「停滞静止」を意味する”stasisスタシス)”が結合してきた言葉であり、

一言で言うと、

恒常性ホメオスタシス)とは、自分自身の内部環境を一定の状態に保とうとする生体機能のことを意味する概念ということになります。

例えば、人間の身体でいうと、

体温調節や、血圧や血糖値の調整、血中のナトリウム濃度やカルシウム濃度の維持、自律神経系における交感神経と副交感神経のバランスや、免疫系におけるリンパ球と顆粒球のバランスといった

生命の維持に直接関わる、生物自身の生命活動の根本を支えるシステム全体が、恒常性の原理によって支えられていると考えられることになります。

そして、

こうした生物における恒常性のあり方とは、

生物の恒常性と鉱物の恒常性の違いの記事で詳しく考察したように、

単に、ある一定の物理的状態が機械的に保たれ続けるという硬直的なあり方をしているわけではなく、

それは、環境に合わせて自分自身も変容し、自らの生命を維持していくために必要な新たなバランスを見つけ出していく能動的で柔軟な側面も併せ持っていると考えられることになります。

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生物の内部環境を維持する自発的で能動的な活動

例えば、

人間の身体における最も代表的な恒常性の例である体温調節機能においても、

人間の体温は、ある特定の固定的な温度に常に保たれ続けているわけではなく、明け方には36.0℃程度の低めの体温であったものが、日中の活動が活発になる時間帯へ向けて体温が徐々に上がっていき、健康な人であれば、午後1時頃には37.0℃近くまで上昇していくことになります。

しかし、

こうした一日における体温の変化のあり方自体は、内部環境を一定の状態に保つという恒常性の概念と矛盾しているわけではなく、

むしろ、そうした人間自身の活動のリズムに合わせた体温変化自体が、体内における生命活動の最適なバランスを保つという恒常性の原理によって統御されていると考えられることになるのです。

また、

緊張と活動を司る交感神経と、弛緩と休息を司る副交感神経という自律神経系のバランスにおいては、

それが周囲の環境の変化に合わせて、生物の身体全体の状態を適切な状態へと変化させていく働きを担うシステムである以上、

例えば、どんな時でも交感神経50%、副交感神経50%といった固定された活動状態が保たれることには何の意味もないと考えられることになります。

それでは、どのような活動状態において、自律神経のバランスが適切に保たれているとみなすことができるのか?というと、

それは、例えば、

天敵に襲われた時などの緊急事態には、交感神経が活発に働くことによって、全身の筋肉を引き締めて全力で目の前の危機を回避する行動をとることを可能とし、

その反対に、夜にねぐらへと帰って体を休める時には、副交感神経が働くことによって、疲れた体の効率的な回復や、傷の修復なども図ることができるようにするというように、

環境の変化に合わせて柔軟に対応し、身体を適切なバランス状態へとスムーズに変化させていくというあり方こそが、自律神経のバランスが適切に保たれている状態、すなわち、恒常性が維持されている状態であると考えられることになるのです。

そしてさらに、生物の個体レベルでの活動で見れば、

どのようなタイミングでどれだけの量の食事をとり、どれだけの休息をとった後に、次の活動へと取り掛かるのか?といった

生物が自ら生きていくために行っている意識的な活動と本能的な行動のすべてが、自らの生命の存続という一定の状態を保とうとする恒常性の原理に基づいて営まれていると考えられることになります。

・・・

以上のように、

生物における恒常性ホメオスタシス)の概念とは、単にある一定の物理的状態を固定的に保ち続けようとする力のことを指しているわけではなく、

生物自身に内在するシステムに基づいて、自分自身のあり方を適切なバランス状態へと柔軟に変化させていくという生命の自発的で能動的な活動のあり方のことも示していると考えられることになります。

つまり、

生命の二つ原理のうちの一つを担う恒常性の原理とは、

環境の変化に応じて自分自身の個々の活動を柔軟に変化させていきながらも、全体としては自らの内部環境を一定の状態に維持しようとする生命の自発的で能動的な活動のことを示す概念であると考えられることになるのです。

・・・

次回記事ウイルスは生物か無生物か?乳酸菌が生物でウイルスが無生物である理由、生命とは何か?⑦

前回記事:生物における成長と進化の概念と恒常性の原理との関係、生命とは何か?⑤

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