四元素が水と空気と火と土であってそれ以外ではない理由とは?エンペドクレスの四元素とは何か?②

エンペドクレスの哲学の概要」で書いたように、

エンペドクレスは、世界に存在するすべての事物を形づくるもととなる
万物の始原となる要素は一つではなく、多数存在すると考え、

それは、

空気四元素であると結論づけたのですが、

それではなぜ、

万物の始原としての元素は、空気
四つであると定められることになったのでしょうか?

万物の始原が一つの元素ではなく、多数の元素から成ると考えられた理由
については前回詳しく考えましたが、

多数であるとされた元素の数がぴったり四つであって、
それ以上の数でもそれ以下の数でもないとされた理由、

そして、その四つの元素が水と空気と火と土であって
他の要素ではないとされた理由はどこにあるのか?

ということについて考えてみたいと思います。

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なぜ水、空気、火、土という四要素が選ばれたのか?

まず、

エンペドクレスを含む自然哲学たちの研究手法に倣って、
世界を構成する自然の総体を俯瞰するように観察してみると、

自然の中で個々の事物を形成するのに不可欠となる
特権的な要素の数々が徐々に浮かび上がってくることになります。

例えば、

木々や草花は、土の上に水が注がれることによって育ちますし、
人間などの生物が生きていくためには、水や空気、そして、
土によって育まれる作物の存在が不可欠ということになります。

また、は人間が明かりや暖を取るために重要であるだけでなく、
やその状態変化である氷の対極に位置する要素でもあり、
熱と冷という対となる性質を担う要素として不可欠な存在でもあります。

また、

動物が生きていくための糧となる作物の恵み
すべて大地からもたらされることになりますが、

その大地に恵みをもたらすのは雨と川の水であり、
川は流れていくなかで互いに合わさって、最後にはそのすべてが
へと注がれることになります。

海の水はやがて蒸発して天空へと至り、雲を形づくることになりますが、
この天空には、太陽が輝いていて、

そうした太陽の光と熱も、地に生きる生物が育まれるためには
欠かせない存在ということになります。

このように、

自然の総体を長く俯瞰するように観察していくと、
世界におけるあらゆる生物や事物を生み出す
自然界における重要な要素は、

大地、そして、太陽という
四つの偉大なる自然の姿に代表される

、そして、空気という
四つの要素に集約していくと考えられることになるのです。

あるいは、

こうした経験的・感覚的な説明では
あまり納得がいかないという場合は、

哲学史の流れを詳しく見ていくと、もう少し別の視点からも
これらの四元素が選ばれた理由について考えることができます。

アナクシメネスの循環における四様態の独立

エンペドクレスに遡ることおよそ100年前の哲学者である
アナクシメネスは、

古代ギリシア哲学における最初の学派にして自然哲学の学派でもある
ミレトス学派に属する三人の哲学者の最後の一人にあたる哲学者であり、
万物の始原は空気であると考えたのですが、

彼は、世界のすべての存在は空気という
ただ一つの始原から生じていると考えると同時に、

この唯一の始原である空気が希薄化したり濃密化したりしていくなかで、
それがになったりにもなったりするという
空気の様態変化の循環によって世界が成り立っているとも考えていました。

つまり、

アナクシメネスにおいて、万物の始原は一つであり、
その基本となる本質的な姿は空気ではあるのですが、

その空気が、同時に、という他の三要素にも様態変化していくという
四つの顔を併せ持つ存在としても捉えられていたということです。

これに対して、エンペドクレスは、

空気一つの元素の様態変化ではなく
それぞれが独立した元素として存在していて、

独立した元素としての空気と火と水と土という四つの元素
互いに混合分離を繰り返すことによって
多様性をもった自然の姿が形成されていると考えたと言えるのですが、

このように、

エンペドクレスは、彼に先行するミレトス学派の哲学者であった
アナクシメネスにおける

空気を基点とする水と空気と火と土の四様態の循環
それぞれの要素を独立させる形で

四元素説を生み出したと考えることができる
ということになるのです。

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ピタゴラスのテトラクテュス(四元数)との関係

また、

万物の始原としての元素の数
ぴったり四つであって、三つでも五つでもない理由については、

他に、ピタゴラスとの関係からも考えることができます。

ピタゴラス学派では、

テトラクテュスtetraktys四数体四元数(1から4までの最初の4つの整数の和が10であることを、10個の点をピラミッド型に配置することによって図形化した図形数)に象徴されるように、

」という数自体が、神聖視されていて、
それがすべての存在を形づくる宇宙の構成原理である
とも考えられていたのですが、

一つの点だけでは孤立して何も生み出すことができないものが、
二つの点を結ぶと線分
三つの点を結ぶと三角形、すなわち、となり、

そこにさらに一つの点を加えて
四つの点を結ぶと三角錐、すなわち、立体となり、
三次元空間としての現実の世界を形づくることができるように、

エンペドクレスも、

四つの点四つの元素が互いに組み合わさっていくことによって
多様で多彩な現実の世界を形づくることができるという発想に至ったと
考えることもできるのです。

ちなみに、

ピタゴラスにおける数の意味の割り当てでは、

」が正義真理、さらにすべての存在の構成原理
象徴する数とされているのに対して、

その前後の数である「3」と「5」については、それぞれ、

」は、始め・中・終わりといった事柄の順番としての全体
女性の「2」に理性の「1」を足したものとしての男性を意味し、

」は、女性である「2」と男性である「3」の和としての
結婚を意味することになりますが、

やはり、ピタゴラス学派における
これらの数の意味づけの中でも、

」は、万物の根源的要素である元素の数
最もふさわしい意味を象徴する数となっていると
考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

エンペドクレスは、彼に先行する
アナクシメネスピタゴラスといった哲学者たちの影響も受けつつ、

大地、そして、太陽という

神秘的とさえ言える
大いなる自然の姿を深く洞察していくことによって、

空気という四元素によって
自然の総体が成り立っていると考える

四元素説の思想へとたどり着くことになったと考えられるのです。

・・・

このシリーズの前回記事:一元論のモノトーンの世界観から多元論の多彩な世界観への転換、エンペドクレスの四元素とは何か?①

このシリーズの次回記事:エンペドクレスの四元素とギリシア神話の神々との関係とは?エンペドクレスの四元素とは何か?③

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