古代オリンピックの三つの格闘競技の具体的な特徴の違いとは?パンクラチオンとボクシングとレスリングの最初の優勝者の名前
前回までの一連の記事のなかで書いてきたように、古代ギリシアにおけるオリンピアの祭典を中心とする古代のオリンピックにおいては、
レスリングとボクシングとパンクラチオンと呼ばれる三つの競技種目へと分かれていく形で格闘競技が行われていたと考えられることになるのですが、
それでは、
こうした古代オリンピックのレスリングとボクシングとパンクラチオンという三つの格闘競技におけるルールや競技内容についての具体的な特徴の違いとしては、どのような点が挙げられることになると考えられることになるのでしょうか?
古代オリンピックにおけるレスリングとボクシングとパンクラチオンの具体的な特徴の違い
そうすると、まず、こうした古代オリンピックにおける三つの格闘競技においては、どの競技においても、基本的には、競技への参加者は、下着すら身につけない全裸の状態で戦うことになっていて、
急所への攻撃や噛みつき、さらには、相手の目を指で突くといった行為がすべての競技に共通する禁じ手とされていたほか、
対戦相手は体重などに関係なくすべてくじ引きで決められたうえで、それぞれの試合時間は無制限で、トーナメント方式で一人の優勝者が決まるまで対戦が繰り返されていくことになっていたと考えられることになります。
そして、こうした三つの古代の格闘競技のうち、
はじめに挙げたレスリング競技は、古代ギリシア語では、「戦う」「格闘する」といった意味を表す動詞にあたるパライオ(παλαίω)を語源とするパレー(πάλη)という言葉で呼ばれていたと考えられ、
そうした古代ギリシア語でパレーと呼ばれる古代オリンピックのレスリング競技における具体的な競技のルールについては、
殴打や蹴りなどといた打撃攻撃が禁止されていたほか、前述したように、急所や眼球への攻撃あるいは噛みつきなどといった行為も禁じ手とされていて、
組み技や投げ技などによって相手の肩や背中や尻を地面に着けること、または、絞め技や関節技などによって相手を降参させること、あるいは、相手を30メートル四方ほどの競技場の範囲外へと押し出すことによってもポイントが入ることになっていて、
3ポイント先取のポイント制で勝敗の決着がつけられることになっていたと考えられることになります。
そして、それに対して、
その次に挙げたボクシング競技は、古代ギリシア語では、「拳」(こぶし)のことを意味するピグメ(πυγμή)という名詞に、「戦い」のことを意味するマキア(μαχία)という接尾辞がついてできたピグマキア(πυγμαχία)という言葉で呼ばれていたと考えられ、
そうした古代ギリシア語でピグマキアと呼ばれていた古代オリンピックのボクシング競技における具体的な競技のルールについては、
レスリングの場合とは反対に、組み技や投げ技などが禁止されたうえで、手や腕や肘などを用いた打撃攻撃のみが認められていて、
どちらかの選手が人差し指を伸ばした状態で手を上に挙げることによって対戦相手に対して降参の意思を示すか、打撃によって意識を失い戦闘不能の状態になることによって勝敗の決着がつけられることになっていたと考えられることになります。
そして、それに対して、
最後に挙げたパンクラチオン(παγκράτιον)と呼ばれる競技は、古代ギリシア語において、「すべての」「あらゆる」といった意味を表すパン(παν)という接頭辞に、「力」や「強さ」といった意味を表すクラトス(κράτος)という名詞がついてできた言葉であると考えられ、
そうした古代ギリシア語でパンクラチオンと呼ばれていた古代オリンピックの格闘競技における具体的な競技内容やルールについては、
前述したレスリングとボクシングにおける競技内容をすべて合わせたようなものになっていて、
パンクラチオンにおいては、急所や眼球への攻撃や噛みつきなどを除く、打撃攻撃や組み技や投げ技さらには関節技などといったほとんどすべての攻撃が有効な攻撃として認められていて、
基本的には、ボクシングの場合と同様に、対戦相手が自ら敗北を認めて人差し指を伸ばした状態で手を上に挙げることによって降参の意思を示すことによって勝敗が決まることになっていたほか、
ノールールに近い危険な格闘競技でもあったため、競技の最中に、対戦相手のことを気絶させる、あるいは、骨折などの重傷を負わせることによって戦闘不能にすることによって勝敗が決まるケースや、
極端な場合には、対戦相手が結果として死亡してしまうことによって勝利が認められるケースもあったと考えられることになります。
以上のように、
こうした古代オリンピックにおけるレスリングとボクシングとパンクラチオンと呼ばれる三つの格闘競技における具体的な特徴の違いについて、一言でまとめると、
①古代ギリシア語においてパレーと呼ばれていた古代オリンピックのレスリングにあたる競技は、組み技や投げ技によって相手の肩や背中を地面に着けて組み伏せる、あるいは、絞め技や関節技によって相手を降参させることによって得点が入るという3ポイント先取のポイント制で勝敗の決着がつけられていた格闘競技、
②古代ギリシア語においてピグマキアと呼ばれていた古代オリンピックのボクシングにあたる競技は、手や腕や肘などを用いた打撃攻撃のみが認められた対戦相手が降参するか意識を失って戦闘不能になることによって勝敗の決着がつけられていた格闘競技、
③古代ギリシア語においてパンクラチオンと呼ばれていた古代オリンピックの格闘競技は、急所への攻撃などのわずかな禁じ手を除く打撃攻撃や組み技や投げ技さらには関節技などといったほとんどすべての攻撃が有効な攻撃として認められていて、
対戦相手が降参するか重傷を負って戦闘不能になるか、場合によっては、対戦相手の死をもって勝敗の決着がつけられることもあった古代の総合格闘技にあたる格闘競技としてそれぞれ位置づけられることになると考えられることになるのです。
古代オリンピックの三つの格闘競技における最初の優勝者の名前
また、
古代オリンピックにおいて、こうしたレスリングとボクシングとパンクラチオンと呼ばれる三つの格闘競技のそれぞれがオリンピックにおける正式な種目として採用されていくことになっていった歴史的な経緯としては、
まずは、紀元前776年に行われた古代オリンピックの第1回大会の68年後にあたる
紀元前708年に開催された古代オリンピックの第18回大会において、徒競走にあたる種目以外で初めてオリンピックに採用された競技として、
レスリング競技が早くも古代オリンピックにおける最初の格闘競技の種目として取り入れられることになったと考えられます。
そして、その後、その20年後の
紀元前688年に開催された古代オリンピックの第23回大会において、ボクシング競技がオリンピックの正式種目として採用されたのち、
さらに、その40年後の
紀元前648年に開催された古代オリンピックの第33回大会において、古代の総合格闘技にあたるパンクラチオンがオリンピックにおける正式種目として新たに採用されることによって、
こうした古代オリンピックにおける三つの格闘競技のすべてが揃うことになっていったと考えられることになります。
ちなみに、
古代オリンピックにおいて、こうしたレスリングとボクシングとパンクラチオンという三つの格闘競技がはじめて行われることになったそれぞれの大会において、それぞれの競技の最初の優勝者となった人物の名前としては、
紀元前708年に行われた古代オリンピックの第18回大会において、オリンピックにおけるレスリング競技の最初の優勝者となったのはスパルタのエウリュバトス(Eurybatos )、
紀元前688年に行われた古代オリンピックの第23回大会において、オリンピックにおけるボクシング競技の最初の優勝者となったのはスミルナのオノマストス(Onomastus)、
紀元前648年に行われた古代オリンピックの第33回大会において、オリンピックにおけるパンクラチオンの最初の優勝者となったのはシラクサのリグダミス(Lygdamis)、
という三人の人物の名前が挙げられることになると考えられることになるのです。
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