桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑩赤痢菌の具体的な特徴とO157などの腸管出血性大腸菌のベロ毒素との関係
前回の記事では、桿菌と呼ばれる細菌のグループに分類されることになる代表的な細菌の種類のうち、ペスト菌や仮性結核菌いったエルシニア属に分類される細菌の具体的な特徴について詳しく考察してきましたが、
今回の記事では、それに引き続いて、
赤痢菌と呼ばれる桿菌の種類の具体的な特徴と、人間の腸内において赤痢菌が生産する毒素である志賀毒素とベロ毒素の関係といったことについて、順番に詳しく考察していきたいと思います。
赤痢菌の具体的な特徴と「シゲラ」と「赤痢菌」という病原菌の名称の由来
まず、こうした
赤痢菌と呼ばれる細菌は、幅0.4~0.7マイクロメートル、長さ2~4マイクロメートルほどの大きさをした鞭毛を持たない非運動性の棒状の形状をしたグラム陰性の嫌気性桿菌の一種であり、
こうした赤痢菌と呼ばれる細菌の種族の正式な学名にあたるシゲラ(Shigella)という名称は、1897年にこの細菌を世界で発見した赤痢菌の発見者にあたる日本の細菌学者である志賀潔(しがきよし)の名前に由来していると考えられることになります。
そして、
こうした赤痢菌と呼ばれる細菌は、人間だけではなく、イヌやサル、ウシやブタなどといった様々な種類の哺乳類の腸管に寄生している細菌の種族であると考えられることになるのですが、
そうした人間以外の動物の腸内に寄生している間は症状が現れることはなく、主に、人間やゴリラといった霊長類の一部に対して感染したときにのみ、急性大腸炎などの症状を引き起こすことになると考えられ、
そうした赤痢菌を保有する患者の排泄物の処理する際に、細菌が手指に付着することによって感染してしまうケースや、そうした赤痢菌による汚染がハエやゴキブリなどを介して飲食物などに混入することによって経口感染するケースがあると考えられることになります。
そして、
赤痢菌によって引き起こされる細菌感染症である赤痢においては、大腸へと到達した赤痢菌が大腸粘膜を形成している腸管上皮細胞に侵入して増殖していくことになり、
その際に、志賀毒素(シガトキシン)と呼ばれる毒素を生産していくことによって、大腸粘膜に潰瘍性の炎症が引き起こされていくことにより、
下腹部を中心とする腹痛や発熱、渋り腹や粘血便の混じった頻回の下痢といった急性胃腸炎の症状が引き起こされていくことになると考えられることになります。
そして、
こうした赤痢菌によって引き起こされることになる粘血便の混じたった下痢、すなわち、血液の混じった赤い下痢という特徴的な症状から、こうした「赤痢菌」と呼ばれる名称が付けられることになったと考えられることになるのです。
O157などの腸管出血性大腸菌が生産するベロ毒素と赤痢菌が生産する志賀毒素との関係
また、
こうした赤痢における大腸粘膜の出血性の炎症の原因となる志賀毒素(Shiga toxin、シガトキシン)と呼ばれる毒素は、
O157に代表されるような腸管出血性大腸菌が生産するベロ毒素(verotoxin、ベロトキシン)と呼ばれる毒素とほぼ同じような構造を持った毒素であるということが知られていて、
こうしたベロ毒素と呼ばれる毒素は、志賀様毒素または志賀毒素群毒素といった名称でも呼ばれることになります。
そして、
こうしたO157に代表されるような腸管出血性大腸菌を原因とする食中毒においては、大腸の内部において、赤痢菌が生産する志賀毒素とほぼ同じような構造を持ったベロ毒素と呼ばれる毒素が生産されていくことになるため、
赤痢菌の場合と同様に、腸管の出血を伴うような重症の細菌性大腸炎の症状が引き起こされてしまうことになると考えらえることになるのです。
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