桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑨ペスト菌や仮性結核菌といったエルシニア属に分類される細菌の具体的な特徴
前回の記事では、桿菌と呼ばれる細菌のグループに分類されることになる代表的な細菌の種類のうち、リステリア菌とブルセラ菌と呼ばれる人獣共通感染症の原因となる細菌の一種として位置づけられる二つの桿菌の種類の具体的な特徴について詳しく考察しましたが、
今回の記事では、それに引き続いて、
ペスト菌や仮性結核菌といったエルシニア属に分類される桿菌の種類とその具体的な特徴といったことについて、順番に詳しく考察していきたいと思います。
ペスト菌の具体的な特徴と「黒死病」という病名の由来
まず、はじめに挙げた
ペスト菌(Yersinia pestis、エルシニア・ペスティス)とは、幅0.5マイクロメートル、長さ1マイクロメートルほどの大きさをした鞭毛を持たない非運動性の卵円型の形状をしたグラム陰性の嫌気性桿菌の一種であり、
14世紀のヨーロッパにおけるペストの大流行においては、当時のヨーロッパの人口の約3分の1にあたる人々が命を落とすことになったと考えられている人類の歴史のなかで最も多くの人間の命を奪ってきた人類史上最悪の病原菌の一つとして位置づけられることになると考えられることになります。
そして、
こうしたペスト菌と呼ばれる細菌は、感染者の咳などを介した飛沫感染によって感染するケースのほかに、主な感染経路としては、ペスト菌の自然宿主にあたるネズミなどの小動物からノミなどの昆虫を介して人間に対して感染を広げていくケースが挙げられ、
ペスト菌を原因とする細菌感染症であるペストは、病原菌であるペスト菌が感染を広げていく人体の部位の違いに応じて、腺ペストや肺ペスト、さらには、皮膚ペストや眼ペスト、敗血症ペストといった多様な病態へと分かれていくことになると考えられることになります。
そして、
このうち、最も代表的なペストの病態である腺ペストにおいては、ノミに噛まれた部位からリンパ管へと侵入したペスト菌がリンパ節において感染を広げていくことによって、リンパ節の腫大や痛みといった症状が引き起こされていくことになり、
その後、こうした全身のリンパ節を拠点としてペスト菌が感染を広げていくことにより、肝臓や脾臓などといった全身の様々な部位において毒素が生産されていくよって病状が悪化していき、
最終的にはそうした全身を巡る毒素によって意識混濁や心臓衰弱、敗血症といった重篤な症状が引き起こされていくことにより死に至ることになると考えられることになります。
また、その他にも、
敗血症ペストと呼ばれる病態においては、リンパ節の腫大といった腺ペストに典型的な局所的な症状を示さないまま全身の血液中において急激にペスト菌の感染が広がっていくことによって、
手足の末端部分などから急速に壊死の症状が進行していき、全身の体表面に黒いあざのような紫斑が多数出現していったのち、数日のうちに死亡してしまうことになるのですが、
ペストの別名である黒死病という病名は、一義的には、
そうした敗血症ペストにおいて見られる全身に紫斑などの黒いあざが現れたのち、患者がすぐに死んでいってしまうことになるといった病態のことを指して、こうした「黒死病」と呼ばれる病名が付けられることになったと考えられることになるのです。
仮性結核菌とエルシニア・エンテロコリチカの特徴と「仮性結核菌」という病原菌の名前の由来
そして、
こうしたペスト菌と同様に、エルシニア属に分類される人間に対して病原性を示す桿菌の種類としては、その他にも、仮性結核菌やエルシニア・エンテロコリチカといった病原菌の種類が挙げられることになるのですが、
こうしたエルシニア属に分類されるその他の細菌は、基本的には、イヌやネコ、ウシやブタやヒツジといった動物が腸内に保有している細菌が、これらの動物の排泄物などを介して汚染された食品や水を摂取することによって人間に対して感染してしまうケースがあると考えられ、
後者のエルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)によって引き起こされる細菌感染症の場合には、
軽い腹痛や水様性の下痢、といった症状が現れることになるほか、発熱や咽頭痛といった症状が現れることがあるため、一般的には風邪による下痢といった診断が下されることとが多い感染症の種類として位置づけられることになります。
そして、それに対して、
前者の仮性結核菌(Yersinia pseudotuberculosis、エルシニア・シュードツベルクローシス)の場合には、
前述したエルシニア・エンテロコリチカの場合と同様に、腹痛や下痢といった急性胃腸炎の症状などが現れるケースのほかに、発熱や咽頭炎、発疹や紅斑といった多様な症状が引き起こされてしまうケースがあり、
比較的少ないケースではあるものの、心臓の冠動脈などの炎症や急性腎不全といった重篤な合併症状が引き起こされてしまう危険性などもある注意が必要な病原菌の種類として位置づけられることになると考えられることになります。
また、
こうしたエルシニア属に分類されるペスト菌に近い関係にある細菌の種類に対して、仮性結核菌という結核菌に由来する名称が付けられる理由としては、
こうした仮性結核菌と呼ばれる細菌は、人間ではなく、ネズミやウサギ、イヌや鳥類といった動物たちに対して感染するケースでは、
人間に対する感染によって引き起こされる急性胃腸炎のような症状ではなく、咳や喀血といった呼吸器系の症状などを中心とする結核によく似た症状が引き起こされていくことになるため、こうした「仮性結核菌」という名称が付けられることになったと考えられることになるのです。
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次回記事:桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑩赤痢菌の具体的な特徴とO157などの腸管出血性大腸菌のベロ毒素との関係
前回記事:桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑧リステリア菌とブルセラ菌の具体的な特徴と「ブルセラ」という名称の由来
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