風邪を治す特効薬が存在しない理由とは?ウイルス粒子の構造とウイルスの種類の多様性に起因する抗ウイルス薬の開発の難しさ

前回の記事で書いたように、風邪と呼ばれる疾患は8090%程度が細菌ではなくウイルスが原因となることによって引き起こされている感染症であり、

そうした風邪を治すための治療薬としては、細菌を標的とする治療薬である抗生物質や抗菌薬といった薬剤の使用はあまり効果的ではないと考えられることになります。

それでは、

抗生物質や抗菌薬などではなく、そうした風邪の原因となるウイルスに対応した特効薬となるようなウイルス薬やワクチンのようなものは存在するのか?というと、

現代の医学においては、そもそも、そうしたすべての風邪を治してしまうような万能の抗ウイルス薬や、あらゆる風邪の感染を予防するような万能ワクチンといった風邪を治す特効薬にあたるような薬自体がいまだに発見されていないと考えられることになります。

それでは、このように、

現代の医学における先進的な知識と技術をもってしても、そうした人間にとって極めて日常的な疾患にあたる風邪のウイルスに対する特効薬をつくり出すことができないということには、いったい具体的にどのような理由があると考えられることになるのでしょうか?

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ウイルス粒子の構造と遺伝子の構造に起因する抗ウイルス薬を開発すること自体の難しさ

こうした風邪の原因となるウイルスに対する抗ウイルス薬やワクチンをつくることが難しい具体的な理由としては、

まずは、そもそも、

風邪の原因となるウイルスだけに限らず、ウイルスと呼ばれる病原体自体が、細菌などのほかの病原体と比べて、その治療薬となる薬剤を開発することが難しい種類の病原体にあたるという点が挙げられることになります。

一般的なウイルスの大きさは、細菌の大きさと比べてだいたい10分の1から100分の1の大きさにすぎず、

ウイルス粒子の構造自体もカプシドと呼ばれるタンパク質の殻と遺伝情報を担うDNAやRNAといったウイルス核酸などのみから構成される非常に単純でシンプルな構造をしていると考えられることになるのですが、

このように、病原体の構造が単純でシンプルであるということは、それだけ治療薬が標的とするべき弱点も見つけにくいということを意味していると考えられることになります。

また、

粒子全体の構造が単純でシンプルな構造をしているウイルスは、その内部にあるDNAやRNAといったウイルス核酸のうちに含まれている遺伝子の情報量についても、細菌と比べても50分の1から500分の1程度といった極めて少数の遺伝子によって構成されていて、

特に、遺伝子の構造が二重らせん構造をもったDNAではなく、一重らせん構造線状や環状といったより不安的な構造をもったRNAによって構成されているRNAウイルスにおいては、

細菌における遺伝子の突然変異のスピードと比べても、極めて速いスピードで遺伝子が変化していくことになると考えられることになります。

そして、このように、

病原体としての構造がシンプルであるため治療薬の標的とするべき弱点を見つけ出すことが難しく、遺伝子が変異していくスピードも速いといった性質をもつウイルスに対しては、

細菌に対して効力を示す抗生物質や抗菌薬といったほかの薬剤の開発と比べて、継続的で安定的な効力を発揮する抗ウイルス薬を開発すること自体が非常に多くの困難がともなう作業となると考えられることになるのです。

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風邪の原因となるウイルスの種類の多様性に基づく特効薬や万能ワクチンの開発の難しさ

そして、

風邪の原因となるウイルスに対する抗ウイルス薬やワクチンをつくることが難しいことを具体的に説明するもう一つの理由としては、

風邪の原因となる最も代表的なウイルスである鼻風邪などの原因となるライノウイルスだけに限っても、そのウイルス型のタイプは100種類以上にものぼるというように、

ひとくちに風邪と言っても、せき発熱頭痛のどの痛みといった一連の風邪の症状の原因となるウイルスの種類の数は少なくとも数百種類以上にもおよぶことになるといった点も挙げられることになります。

つまり、

結核に対するペニシリンや、天然痘に対する天然痘ワクチンといった特定の一つの種類の細菌やウイルスに対する治療薬やワクチンの開発ならばある程度は可能であるとしても、

そうした数百種類以上にもおよぶ風邪の原因となるウイルスのすべてを一気に退治してしまうような都合のいい特効薬や万能ワクチンのようなものをつくり上げることは原理的にも不可能に近い非常に困難な作業であると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

風邪の原因となる主要な病原体であるウイルスは、

病原体としての構造自体が非常に単純でシンプルな構造していて、細菌などのほかの病原体と比べて固有の弱点となる部分を見つけ出すことが難しく、遺伝子レベルにおける変異のスピードも非常に速いため、そうした特定の一つのウイルスの種類に対応する抗ウイルス薬の開発自体がそもそも困難であると考えられるうえに、

ひとくちに風邪と言っても、そうした一連の風邪の症状の原因となるウイルスの種類は数百種類にもおよぶことになるので、そうした風邪の原因となるすべてのウイルスを一気に退治してしまうような治療薬やワクチンの開発はさらに難しくなる

という二重の意味において、

風邪の特効薬となるような抗ウイルス薬やワクチンといった薬剤の開発は現時点の医学においてはほとんど不可能であると言っていいほどの大きな困難をともなう試みであると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:ワクチンと抗ウイルス薬の違いとは?予防薬と治療薬としての病原体となるウイルスに対して用いられる二つの薬剤の特徴の違い

前回記事:風邪に抗生物質が効かない理由とは?抗生物質と抗ウイルス薬の違いと細菌性の風邪に対する予防的な抗生物質の投与の問題点

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