心身症と心気症の違いとは?胃潰瘍や過敏性腸症候群は心身症と心気症のどちらに分類されることになるのか?
前々回と前回の記事を通して考えてきたように、自我の防衛機制の働きの一つある「身体化」と呼ばれる心の働きといった人間の心の内における心理的な要因がきっかけとなって引き起こされる疾患や症状の種類としては、
大きく分けて、神経症や心身症そして心気症といった種類の疾患の分類のあり方が挙げられることになると考えられるのですが、
今回の記事では、そした心の病と体の病の中間に位置する疾患や症状の分類のあり方のなかでも、
特に、心身症と心気症と呼ばれる病気の分類のあり方に焦点を絞ったうえで、両者の間には具体的にどのような特徴の違いが存在すると考えられるか?といったことについて詳しく考えてみたいと思います。
心身症と心気症の具体的な特徴の違いとは?
前々回の記事で書いたように、心身症(psychosomatic diseases)とは、身体的な症状を主症状とする疾患のうち心理的要因が大きく関与しているもののことを意味する言葉として定義されることになるのに対して、
前回の記事で書いたように、心気症(ヒポコンドリー、hypochondria)とは、物理的な病変や身体的な疾患を伴わない身体感覚の異常に強くとらわれて自分が重大な病気にかかっていると思い込むことによって陥る強い不安感や抑うつ状態のことを意味する言葉として定義することができると考えられることになるのですが、
こうした両者の概念の間に存在する明確な特徴の違いについて、一言でまとめると、
前者の心身症に分類される疾患においては、身体的な症状の直接的な原因となっている肉体面における物理的な病変や明確な機能障害などが比較的容易に検出されるのに対して、
後者の心気症においては、そうした身体的症状や身体感覚の異常に対応するような物理的な病変や機能障害が見られないという点に、両者の間の大きな違いがあると考えられることになります。
心身症としての胃潰瘍や過敏性腸症候群と心気症における原因不明の腹痛との違い
具体的な例を挙げるとするならば、例えば、
異常な腹痛などの症状を自覚して病院での診察や精密検査を受けた場合、その結果、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎といった胃腸などの臓器における物理的な病変が実際に見つかり、
問診などを通じて、そうした身体的な疾患の背景にある種の心理的ストレスや社会的ストレスが関与していることが明らかとなった場合には、そうした心身の異常は心身症と呼ばれる疾患の分類のうちへと位置づけられることになりますし、
それに対して、
各種の専門医療や総合診療などに関わる数多くの医者があらゆる検査手段や診断技術を駆使しても、そうした身体感覚の異常に対応する物理的な病変や機能障害をまったく見つけ出すがことができないケースでは、
それは、原因不明の腹痛として身体的な治療が必要な対象から除外されたうえで、それでも患者自身がそうした身体的異常に関する不安感や抑うつ的な症状を強く訴える場合には、精神医学的な治療の対象となる心気症と呼ばれる疾患の分類のうちへと位置づけられていくことになると考えられることになるのです。
そして、
胃潰瘍や潰瘍性大腸炎におけるような胃腸における明確な物理的な病変が必ずしも見られない過敏性腸症候群(過敏性大腸炎)といった心身症のケースにおいては、
それが胃腸などの消化器官における神経症的な反応として捉えられていくことによって、胃腸神経症といった広い意味における神経症の一部として分類されるケースもあると考えられることになるのですが、
そのようなケースにおいても、問診や胃腸の運動機能検査などを通じて消化器官における明確な機能障害の所見を把握することができるので、
やはり、こうした過敏性腸症候群といった明確な物理的な病変を伴わない形で機能障害を引き起こす可能性のある疾患も、患者本人の思い込みや身体感覚の過敏さのみに由来する可能性のある心気症とは明確に区別される疾患として,
心身症または神経症のいずれかの疾患の分類のうちへと位置づけられていくことになると考えられるのです。
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次回記事:心身症と神経症と心気症における共通点と相違点とは?身体的病変の重症度と心理的な要因が占める割合から見た三者の関係性
前回記事:心気症(ヒポコンドリー)とは何か?古代ギリシア語における語源と「憂うつ」を意味するメランコリーとの関係
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