アシモフの銀河帝国興亡史において人類しか知的生命体が登場しない理由とは?③ 「永遠人」の意志の力で選び取られた宇宙
前回書いたように、アシモフの「銀河帝国興亡史」シリーズのなかの『ファウンデーションの彼方へ』(Foundation’s Edge)の後半部分においては、
惑星全体の集合意識であるガイアにおいて語り伝えられてきたとされる一つの寓話のなかに出てくる話として、
宇宙の内で生じる様々な出来事のコースの分岐に応じて、宇宙自体の側においても可能的な宇宙の分岐が無限に枝分かれしていく木のようにどこまでも限りなく広がっていくことになるという多元宇宙論的な宇宙観が示されていくことになります。
そして、さらに、
こうしたガイアが示す一連の寓話のなかでは、「永遠人」と呼ばれる人々についての物語が新たに語られていくことによって、
そうした無数に存在するとされる可能的な宇宙のうちから、銀河系の内に人類しか知的生命体が存在しない宇宙のあり方が選び取られ理由が解き明かされていくことになるのです。
ガイアが語る「永遠人」の存在と彼らが最終的に下した決断とは?
『ファウンデーションの彼方へ』の後半部分において、ガイアに伝えられてきた一連の寓話について、この物語の主人公であるトレヴィズたちに語り聞かせてきたこの星の共同体の長老であるドムは、
さらに以下のような形で、「永遠人」と呼ばれる人々についての話を彼らに語っていくことになります。
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「次のように想像してください。人間は、無限の数の宇宙のすべてを凍結することができ、意のままに、これからあれにと飛び移ることができ、
そして、どの宇宙を“現実”にするか選ぶことができるとね――“現実”というこの言葉が、この関連において、どんな意味を持つかはともかくとして」
(中略)
「…実際に時間の外に出て、潜在的現実の無限の連鎖を調べることができる者たちがいたと、その寓話はいうのです。
これらの人々は、<永遠人>と呼ばれ、かれらが時間の外にいる時は、<永遠>の中にいる、といわれました。」
(アイザック・アシモフ著、岡部宏之訳『ファウンデーションの彼方へ(下)』、早川書房、237~238ページ。)
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そして、
こうしたガイアにおいて伝えられている寓話においては、
こうした「永遠人」と呼ばれる人々は、そうした無数の可能的な宇宙における多種多様な潜在的現実のうちから、
自分たちが属する人類という種族にとって最も適切な宇宙のあり方を選び取るために、結局、以下のような選択を行う決断を下したと説明されていくことになります。
・・・
「人類に最も適する現実を選ぶことが、かれらの仕事でした。かれらは果てしもなく修正を行いました。…
結局かれらは、地球が、高度なテクノロジーを考案する能力のある知的種族を発達させることができるとともに、全銀河系で複雑な生態系を用いる唯一の惑星であるような、そういう宇宙を見いだした。…
それが、人類が最も安全でいられる状況だと、かれらは結論したのです。かれらはその出来事の連鎖を現実として凍結し、それから活動をやめました。今われわれは、人類だけが住み着いている銀河系に暮らしています。」
(アイザック・アシモフ著『ファウンデーションの彼方へ(下)』、238ページ。)
・・・
「永遠人」たちの意志の力によって選び取られた現在の宇宙のあり方
以上のように、
こうした『ファウンデーションの彼方へ』の後半部分において登場するガイアが語る一連の寓話における話の流れのなかにおいては、
「無限の数」存在するとされる無数の可能的な宇宙のうちから、「どの宇宙を現実として選ぶ」のが適切であるのかを判断していくという
「永遠人」たちによる試行錯誤の選択の末に、現在の宇宙の姿が現実となる宇宙として定まっていくことになったという
現在の宇宙のあり方の創造に関する壮大な形而上学的な叙事詩が語られていると考えられることになります。
そして、そういう意味では、
こうしたアシモフの「銀河帝国興亡史」シリーズにおいて、広大な銀河系の内に人類しか知的生命体が登場しないことを整合的な形で説明する理由としては、
かつて、無数に存在するすべての可能的な宇宙のあり方を調べ尽くし、そうした可能的な宇宙のあり方のすべてを俯瞰することによって、時空を超えて人類の未来のあるべき道筋を決めてきた「永遠人」たちの意志の力によって選び取られた宇宙の姿こそが、
そうした銀河系の内に人類しか知的生命体が存在しないという現在における宇宙のあり方であったということに、その本当の理由が求められることになると考えられることになるのです。
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次回記事:永遠人とは何か?アシモフの『永遠の終り』において語られる無限の時間軸を包む空虚な永遠の世界を手に入れた人々の姿
前回記事:アシモフの銀河帝国興亡史において人類しか知的生命体が登場しない理由とは?②多元宇宙論に基づく無数の可能的な宇宙の存在
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