アシモフの銀河帝国興亡史において人類しか知的生命体が登場しない理由とは?①「人類の宇宙」として宇宙観
前回の記事で書いたように、アイザック・アシモフの「銀河帝国興亡史」シリーズにおいては、
広大な銀河系の内に、異星人などの人類以外の知的生命体は存在せずに、人類同士の間でおいてのみ、宇宙戦争や帝国や諸国家の興亡が繰り広げられていくことになるという
近現代のSF作品においては、比較的珍しい特殊な宇宙観に基づいて物語が展開していくことになると考えられることになります。
それでは、
こうしたアシモフの「銀河帝国興亡史」シリーズにおいて、人類しか知的生命体が登場しない理由としては、具体的にどのような点が挙げられることになるのでしょうか?
『ファウンデーションの彼方へ』における地球から銀河系全体への人類の植民活動の展開についての記述
アシモフの「銀河帝国興亡史」シリーズの三部作の続編にあたる作品である『ファウンデーションの彼方へ』(Foundation’s Edge)と題される小説においては、
その前半部分の話の流れのなかで、人類の発祥問題に取り組んでいる老学者であるペロラットと、この物語の主人公であるトレヴィズの間で以下のような会話が交わされていくことになるのですが、
そこでは、こうしたな銀河系の内に知的生命体は人類だけしか存在しないという「銀河帝国興亡史」の物語の背景にある宇宙観のあり方について、かなり具体的な形で語られていくことになります。
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「…もっと驚くべきことは、固有の種――つまり、単一の惑星にのみ見出され、それ以外には見出されない種――は、数が少ないということだ。
特に、人類(ホモ・サピエンス)を含めて、現存する種の大部分は、銀河系の居住世界のすべて、あるいは大部分に行き渡っている。
(中略)
結論は、銀河系内の一つの世界は、それ以外の世界とは異なっているということだ。銀河系内の何千万個もの世界――正確な数はだれも知らないが――が生命を発達させた。それは単純な生命、貧弱な生命、弱々しい生命だった――それほど多様でなく、容易に持続せず、容易に広がらなかった。
一つの世界、ただ一つの世界だけが何百万種もの生命を発達させ、その中のあるものは非常に特殊化し、高度に発達し、繁殖して広がる傾向が非常にあり、われわれがそれに含まれている。
われわれは文明を形成し、ハイパースペース飛行を発達させ、銀河系に植民するほどの知性を持った…」
「よく考えてみれば」トレヴィズはむしろ冷淡にいった。
「それは理屈に合っていると思う。つまり、これは人類の宇宙ということだ。…」
(アイザック・アシモフ著、岡部宏之訳『ファウンデーションの彼方へ(上)』、早川書房、173ページ。)
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「人類の宇宙」としてのアシモフの「銀河帝国興亡史」における宇宙観
以上のように、
『ファウンデーションの彼方へ』の前半部分において出てくる上述した引用箇所の場面においては、この物語の時代において、銀河系全体に広く居住している人類は、そのすべてが「銀河系内の他の世界とは異なった唯一の世界」である地球から発祥し、
そこから銀河系の全体へと植民活動が進めていくことによって、現在の銀河系内における人類を中心とする生態系のあり方が形づくられていったという銀河系内における生命の歴史が語られていると考えられることになります。
そして、そこでは、
こうした銀河系内における人類と生命の歴史の流れのなかで、銀河系の隅々まで広がっていった人類は、
その植民活動の途上において、自分たち以外のいかなる知的生命体とも出会うことなく淡々とその居住範囲を広げていくことになっていったとされていくことになるのですが、
つまり、こうした上記の『ファウンデーションの彼方へ』の前半部分からの引用箇所において語られているように、
アシモフの「銀河帝国興亡史」シリーズにおいて、人類しか知的生命体が登場しない理由としては、ひとまずは、
人類が地球から銀河系全体へと植民活動を進めていく際に、彼らが行き着いた地球以外の銀河系各地の惑星においては、それぞれの惑星において固有な原始的な土着の生物などが存在するケースは多々あったものの、
それらの土着の生物は、そのすべてが人類のような知的生命体には遠く及ばない「単純な生命、貧弱な生命、弱々しい生命」に過ぎなかったということがその直接的な理由として挙げられることになります。
そして、
この物語の主人公であるトレヴィズが「これは人類の宇宙ということだ」と語っているのように、
以上のような形で、アシモフの「銀河帝国興亡史」シリーズにおける人類以外の知的生命体は存在しない宇宙が形づくられていくことになったと考えられることになるのです。
そして、
こうした人類の発祥と宇宙における人類以外の知的生命体の存在の可否についての謎は、さらに、物語の後半部分へと引き継がれていくことになり、
そこでは、詳しくは次回また改めて考察していくように、
多元宇宙論と永遠人と呼ばれるこの物語を支える新たな二つの概念が導入されていくことによって、
なぜ、地球以外の生命が生存可能な惑星においては、人類のような知的生命体が誕生することがなかったのか?という問いについての新たな解答がもたらされていくことになると考えられることになるのです。
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次回記事:アシモフの銀河帝国興亡史において人類しか知的生命体が登場しない理由とは?②多元宇宙論に基づく無数の可能的な宇宙の存在
前回記事:アシモフの「銀河帝国興亡史」とカードの『エンダーのゲーム』における宇宙観の違いとは?人類以外の知的生命体の存在の可否
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