『エンダーのゲーム』におけるハイブマインド(集団知性)とは何か?バガーが有する女王を中心とする種族全体の集合的な意識
前回書いたように、1982年に発表されたアイザック・アシモフの「銀河帝国興亡史」シリーズのなかの『ファウンデーションの彼方へ』(Foundation’s Edge)という作品においては、
ユングの集合的無意識へも通じるある種の集団意識を持った存在として、ガイアと呼ばれる惑星全体や銀河系全体に広がる集合的な意識の構造を持った生態系の存在についての言及がなされていくことになるのですが、
SF小説のなかで、こうしたユングの集合的無意識へも通じるような集合意識を持った生物についての言及がなされている代表的な例としては、その他に、
1977年に発表された短編小説が1985年に長編化される形で出版されたオースン・スコット・カード(Orson Scott Card、1951年~)のSF小説である
『エンダーのゲーム』(Ender’s Game)において登場するハイブマインド(集団知性)を挙げることができると考えられることになります。
『エンダーのゲーム』におけるバガーが有するハイブマインド(集団知性)についての記述
『エンダーのゲーム』(Ender’s Game)においては、主人公であるエンダーたちが人類の存亡をかけた戦争を繰り広げていくことになる相手となる異星人の名として、
バガー(bugger)と呼ばれるの昆虫型の姿をした高度な文明と優れた科学技術を持った知的生命体の存在が登場することになりますが、
そこでは、
例えば、以下のような箇所において、
そうしたバガーたちが持つ人類とは異なる精神構造のあり方として、ハイブマインド(Hive Mind、集団知性)と呼ばれる概念についての言及がなされていくことになります。
・・・
「バガーの集団知性(ハイヴ・マインド)はたいそう優れたものだが、一時に二、三の物事にしか集中できない。…」
(オースン・スコット・カード著、野口幸夫訳『エンダーのゲーム』、ハヤカワ文庫、451ページ。)
・・・
ここで述べられているハイブマインド(Hive Mind)とは、その言葉自体の意味としては、文字通り、hive(蜂の巣、蜂の群れ)のような一体となった集団を形成しているmind(知性、精神)の構造を意味する言葉ということになるのですが、
それでは、
こうしたバガーたちのハイブマインド(集団知性)と呼ばれる知性や意識のあり方とは、より具体的にはどのようなものであると考えられることになるのでしょうか?
それについては、例えば、
この物語の主人公であるエンダーの戦術面における師であるメイザー・ラッカムと、エンダー自身との会話のなかで、
以下のような形でバガーたちが有する思考や精神構造の特徴についての言及がなされていくことになります。
・・・
「バガーたちは話さない。思考を互いに伝える、そして、それは瞬時のものだ。…
あらゆる船が、一箇の有機体の一部のように行動する。その対応ぶりは、戦闘中のきみの肉体の対応さながら、異なる幾つもの部分が、やることになっているあらゆることを自動的に、考えなしにやっているのだ。
彼らは、異なる思考プロセスを持つ人々と、精神的な会話をしているのではない。すべての彼らの思考が、同時に、いっせいに、存在するのだ。」
「一箇の個人なんですね、そして各バガーは手や足のようなものだ、と?」
(『エンダーのゲーム』、438ページ。)
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女王を中心とする種族全体の集合的な意識としてのハイブマインド
つまり、
こうしたバガーたちが持つハイブマインド(集団知性)と呼ばれる知性や意識のあり方においては、
一つ一つの個体としてのバガーの意識と、彼らを統括する女王を中心とする種族全体の集合的な意識との間には、
ちょうど人間の体における手足などの身体の各部分の細胞と、その全体を統括する一つの頭脳との間の関係のようなものが成立していると考えられ、
そうした女王を中心とする種族全体の集合的な意識であるハイブマインド(集団知性)の働きによって、言語などを通じた思考の伝達のタイムラグが生じることになしに、個々のバガーたちが織りなす隅々まで統率の行き届いた完全な集団行動が可能となると考えられることになります。
そして、以上のように、
一つ一つの個体としてのバガーには個性を持った個別の意識は独立したものとしては存在せず、その代わりに、種族としての意識全体が、女王を中心とする一つの集団的な意識のもとに統一されることによって、
種族全体が一つの頭脳を持った生命体であるかのような完全に統一された一つの意識を共有しているというのが、
こうした『エンダーのゲーム』のなかで語られているバガーと呼ばれる昆虫型の知的生命体が有するハイブマインド(集団知性)と呼ばれる異質な精神構造のあり方であると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:「銀河帝国興亡史」のガイアと『エンダーのゲーム』のハイブマインドの違いとは?両者の概念の間に存在する共通点と相違点
前回記事:アシモフの「銀河帝国興亡史」におけるガイアとユングの集合的無意識の関係とは?生命の発展と集合的な意識の顕在化
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