アシモフの「銀河帝国興亡史」におけるガイアとユングの集合的無意識の関係とは?生命の発展と集合的な意識の顕在化

前回までの記事で考察してきたように、

アシモフの「銀河帝国興亡史シリーズ」(ファウンデーションシリーズ)の集大成として位置づけられる作品である『ファウンデーションの彼方へ』Foundation’s Edgeで語られている

人間の自由意志を重視する第一ファウンデーションと、秩序と平和を重視する第二ファウンデーション、そして、そうした対立関係にある両者を超越する構造を集合意識を持つ新たな段階へと進んだ生命において見いだそうとするガイアという三者の間の対立構造においては、

自由と秩序という二つの対立する概念がより高次の次元において発展的に解消され、新たな段階における統一が果たされることによって、ガイアやガラクシアと呼ばれる宇宙論的な生命の本質構造が提示されていくという

ヘーゲルの弁証法哲学における生命のアウフヘーベンの構造へと通じる思想を読み解いていくことができると考えられることになります。

そして、その一方で、

こうしたアシモフの「銀河帝国興亡史」において出てくるガイアと呼ばれる超生命体的な集団意識のあり方は、別な見方をすれば、

ユングの心理学あるいは超心理学における集合的無意識の概念とも非常によく似通った特徴を持つ概念であるとも考えられることになります。

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ユングの『自我と無意識』における集合的無意識についての記述

集合的無意識Kollektives Unbewusstes、コレクティーフ・ウンベブステス)とは、

20世紀前半スイスの心理学者であるカール・グスタフ・ユングCarl Gustav Jung、1875年~1961年)の心理学または超心理学において中心となる位置を占める概念であり、

それは、一言でいうと、

すべての人々の「無意識」(Unbewusste、ウンベヴステ)「集団の」(kollektiv、コレクティーフ)状態になったもの、

すなわち、

すべての人間の無意識の最深層に存在する全人類に共通する普遍的な意識や心の構造のことを指す概念であると考えられることになるのですが、

ユング自身は、こうした集合的無意識集合的心と呼ばれる精神の構造のあり方について、具体的には、彼の主著の一つである『自我と無意識との諸関係』Die Beziehungen zwischen dem Ich und dem Unbewußtenのなかで、

それは、例えば、以下のようなものであると語っています。

・・・

私たちの意識的・個人的な心の基盤には、それ自体としては無意識の、遺伝的で普遍的な心的素質が幅広く横たわっており、私たちの個人的な心の集合的心に対する関係は、いわば個人の社会に対する関係に等しい

そう考えるのが、おそらく最も真理に近いだろう。

(C.G.ユング著、松代洋一/渡辺学訳『自我と無意識』、早川書房、50~51ページ。)

・・・

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銀河帝国興亡史におけるガイアとユングの集合的無意識との関係とは?

そして、それに対して、

アシモフの「銀河帝国興亡史」シリーズの『ファウンデーションの彼方へ』のなかで提示されているガイア(Gaiaと呼ばれる一つの惑星の上に生きているあらゆる生物たちの意識が一体となって形成される集団意識のあり方は、

より具体的には、例えば、以下のようなものであると語られています。

・・・

わたしの意識は、個々の細胞の意識を超えてはるかに進んでいる――信じられないほど、はるかに進んでいる。

しかし、わたしたちがより高次元の、もっとずっと大きな集団の意識の一部であるということは、わたしたちを細胞のレベルに引き下げるものではない。

わたしたちは依然として人間である――しかし、わたしたちの上には、わたしの理解をはるかに超える集団意識がある

それはちょうど、わたしの意識が、わたしの二頭筋の筋肉細胞ひとつの意識をはるかに超えているのと同じことだわ。」

(アイザック・アシモフ著、岡部宏之訳『ファウンデーションの彼方へ(下)』、早川書房、224~225ページ。)

・・・

つまり、

こうした人類全体において共有されている集合的無意識ガイアと呼ばれるある種の集団意識の存在については、

ユングは、上記の引用箇所における記述において、それを一人一人の人間における個々の意識の基盤において存在する遺伝的で普遍的な心の素質として捉えたうえで、

個人社会の関係といった社会学的な観点における比喩から、そうした集合的無意識あるいは集合的心の存在を明らかにしようとしているのに対して、

アシモフは、そうした集団意識の概念を、一人一人の人間の内部に存在する個々の細胞とその集合体としての人間の関係という、より生物学的な観点における比喩を通じて改めて捉え直そうとしているとも考えられることになります。

そして、そういう意味では、

ユングが主張する集合的無意識集合的心と呼ばれている人類全体に共通する普遍的な意識のあり方が、人間だけではなく、生命体全体銀河系全体へと、さらに拡張されていき、

人間の生命が新たな段階へと発展していくことによって、そうした宇宙全体へと広がる普遍的な集団意識のあり方が人間の意識においても自覚されるようになり、

集合的な無意識ではなく、自覚的な意識として顕在化する状態へと発展していったものが、

銀河帝国興亡史シリーズのなかの『ファウンデーションの彼方へ』においてアシモフが提示している

ガイアやガラクシアと呼ばれる惑星全体や銀河系全体に広がる集合的な意識の構造のあり方であるとも捉えることができると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:『エンダーのゲーム』におけるハイブマインド(集団知性)とは何か?バガーが有する女王を中心とする種族全体の集合的な意識

前回記事:自由と秩序のアウフヘーベンとしての生命の本質的な構造とは?「銀河帝国興亡史」のガイアとは何か?③

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