三段論法の格式の覚え歌(Barbara, Celarent, Darii, Ferio…)のラテン語の発音と詩全体のおおよその意味の和訳とは?
前回書いたように、中世から近世にかけてのヨーロッパにおいては、伝統的な論理学における19通りの妥当な三段論法の形式をすべて暗記するために以下のようなラテン語で記された三段論法の格式の覚え歌が用いられていました。
Barbara, Celarent, Darii, Ferioque prioris.
Cesare, Camestres, Festino, Baroco secundae.
Tertia Darapti, Disamis, Datisi, Felapton, Bocardo, Ferison habet.
Quartae insuper addit Bramantip, Camenes, Dimaris, Fesapo, Fresison.
そして、上記の三段論法の格式の覚え歌におけるラテン語の単語の発音をそのまま記していくと以下のようになります。
バルバラ・ケラレント・ダリイ・フェリオクエ・プリオリス
ケサレ・カメストレス・フェスティノ・バロコー・セクンダエ
テルティア・ダラプティ・ディサミス・ダティシ・フェラプトン・ボカルド・フェリソン・ハベット
クアルタエ・インスペル・アディト・ブラマンティプ・カメネス・ディマリス・フェサポ・フレシソン
三段論法の格式覚え歌のラテン語の発音と詩全体のおおよその意味の和訳
それでは、こうした三段論法の格式覚え歌におけるラテン語の個々の単語には、具体的にどのような意味があるのか?ということについてですが、
例えば、現代でも、元素の周期表における「H He Li Be B C N O F Ne Na Mg Al Si P S Cl Ar K Ca」といった原子番号の順番を覚えるための一つの方法として、
「水兵リーべ僕の船、七曲がりシップスクラークか」といった覚え歌が用いられることがありますが、
こうした周期表の覚え歌においても、歌の中に出てくる個々の単語や言葉同士のつながりには、あまり明確な意味はないように、
冒頭に挙げた「三段論法の格式のラテン語の覚え歌」においても、詩の中で用いられている一つ一つのラテン語の単語自体にあまりきちんとした意味はなく、
それは、言わば、様々な架空の人物の名前がただ漠然と呪文のように並んでいるような詩として捉えればいいと考えられることになります。
しかし、上記の三段論法の格式覚え歌のなかでも、
三段論法の格式を示している太字で記した箇所を除いた部分にあたるprioris、secundae、Tertia、Quartaeといった単語の部分は、言わば、この詩全体の枠組みを担う部分にあたるので、こうした部分に関しては通常のきちんとした意味を持ったラテン語として解釈することができ、
上記の格式覚え歌の太字になっていない部分の単語の意味を列挙していくと以下のようになります。
-que(クエ):「~と」といった並列の意味を表す接尾辞
prioris(プリオリス):「最初の」、「第一の」を意味する形容詞primusの比較級priorの属格の形。
secundae(セクンダエ):「第二の」を意味する形容詞secundusの属格の形。
Tertia(テルティア):「三分の1」、「三番目」を意味する女性名詞tertiaの主格の形。
habet(ハベット):「持つ」、「~がいる」を意味する動詞habeoの三人称単数現在形。
Quartae(クアルタエ):「四分の1」、「四番目」を意味する女性名詞quartaの属格の形。
insuper(インスペル):「~の上に」を意味する副詞および前置詞。
addit(アディト):「付け加える」、「追加する」を意味する動詞addoの三人称単数現在形。
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そして、以上のことを踏まえた上で、上記のラテン語の三段論法の格式の覚え歌全体を多少意訳していく形で、そのおおよその意味を和訳してみると、それは以下のようになります。
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Barbara(バルバラ)、Celarent(ケラレント)、Darii(ダリイ)とFerio(フェリオ)が一番目。
Cesare(ケサレ)、Camestres(カメストレス)、Festino(フェスティノ)、Baroco(バロコー) が二番目に。
三番目に、 Darapti(ダラプティ)、Disamis(ディサミス)、Datisi(ダティシ)、Felapton(フェラプトン)、Bocardo(ボカルド)、Ferison(フェリソン)がやって来て、
四番目には、Bramantip(ブラマンティプ)、Camenes(カメネス)、Dimaris(ディマリス)、Fesapo(フェサポ)、Fresison(フレシソン)が加わった。
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そして、ちょうど現代の学校で学ぶ生徒たちが掛け算の九九の暗唱を行ったり、元素の周期表における原子番号の順番をある程度そらじたりすることができるのと同じように、
中世の時代に生きたヨーロッパの若き学僧たちは、こうした格式覚え歌の四つの段のそれぞれに含まれる太字の単語の母音字の部分を順番に拾っていくことで、
第一格AAA式から第四格EIO式までの全部で19通りの妥当な三段論法の形式をすべてそらんじることができていたと考えられることになるのです。
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次回記事:三段論法を用いることの具体的な効用と妥当な三段論法の形式を用いた推論の具体例①、ウイルスが無生物であることの論証
前回記事:三段論法の格式覚え歌(Barbara, Celarent, Darii, Ferio…)におけるラテン語の19個の単語と19通りの推論形式との対応関係
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