矛盾対当とは何か?対当関係における四つの真偽関係の違い①、直接推論に分類される推論の形式②
前回書いたように、伝統的な論理学においては、命題の種類は、全称・特称と肯定・否定という論理学的な量と質の違いに基づいて、
①全称肯定命題・②特称肯定命題・③全称否定命題・④特称否定命題という全部で四種類の命題の区分へと分類されることになります。
そして、こうした四つの命題の形式の間に成立する普遍的な真偽関係を示す直接推論の形式として、対当関係と呼ばれる推論形式が挙げられることになるのですが、
さらに、こうした対当関係と呼ばれる推論関係は、矛盾対当・反対対当・小反対対当・大小対当と呼ばれる全部で四つの対当関係の種類へと分類することができると考えられることになります。
今回は、上記の四つの命題の形式の間でこうした四つの対当関係がそれぞれどのような形で成立しているのか?ということを簡単に図示したうえで、
まず、はじめに、こうした四つの対当関係のうちの矛盾対当と呼ばれる対当関係における推論のあり方について詳しく考察していきたいと思います。
四つの命題形式の間に成立する四つの対当関係
上図で示したように、
対当関係と呼ばれる推論のあり方には、矛盾対当・反対対当・小反対対当・大小対当という四つの種類があり、
こうした四種類の対当関係においては、全称肯定命題・特称肯定命題・全称否定命題・特称否定命題という四つの命題形式のうちの特定の二つの命題同士の間で成立する普遍的な真偽関係が示されることになります。
それでは、こうした四つの命題形式の間で成立する四つの対当関係は、それぞれ具体的にどのような概念として定義されることになり、
それぞれの対当関係においては、具体的にどのような形で推論が進められていくと考えられることになるのでしょうか?
矛盾対当とは何か?両者の命題の同時成立が不可能となる真偽関係
まず、上図の中央に示した矛盾対当と呼ばれる対当関係が具体的にどのような概念として定義されることになるのか?というと、
それは、①全称肯定命題と④特称否定命題、そして、②特称肯定命題と③全称否定命題という二通りの関係の間に成立する命題同士の普遍的な真偽関係のことを意味する概念であり、
矛盾対当の関係にある命題同士においては、いずれか一方の命題が真ならば他方は必ず偽であり、その反対に、いずれか一方の命題が偽ならば他方は必ず真となるという真偽関係が成立することになります。
例えば、
「すべての馬は動物である」という全称肯定命題が真であるとするならば、
この命題と矛盾対当の関係にある「ある馬は動物ではない」という特称否定命題は偽であるということが必然的に結論づけられることになります。
また、その反対に、例えば、
「ある哺乳類は陸生ではない」という特称否定命題が真であるとするならば、
この命題と矛盾対当の関係にある「すべての哺乳類は陸生である」という全称肯定命題は偽であるということが必然的に結論づけられることになります。
このように、上記のような矛盾対当と呼ばれる対当関係においては、どちらか一方の命題が成立すると、必ずもう一方の命題が不成立となるというように、
両者の命題が同時に成立することが不可能な関係にあるという意味で矛盾対当という言葉が用いられていると考えられることになるのです。
反証可能性を基礎づける普遍的な推論関係としての矛盾対当
ちなみに、
科学哲学においては、学問における仮説や理論が科学的な信頼性を満たす仮説であるかどうかを見極めるための基準の一つとして反証可能性と呼ばれる概念が用いられることがありますが、
こうした反証可能性といった概念も、もともとは、こうした矛盾対当と呼ばれる推論関係によって基礎づけられる概念であると考えられることになります。
例えば、
上記の例で取り上げた「すべての哺乳類は陸生である」という仮説は、クジラやアザラシなどが海生哺乳類であることを示すことによって得られる「ある哺乳類は陸生ではない」という実証的事実によって反証されることになりますが、
こうした「すべての~は…である」という普遍的な仮説理論となる全称肯定命題が、「ある~は…ではない」という特称否定命題が真であることによって反証されるという推論の道筋自体は、上記の矛盾対当という推論関係によって基礎づけられていると考えられることになるのです。
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以上のように、
対当関係とは、全称肯定命題・特称肯定命題・全称否定命題・特称否定命題という四つの命題形式の間に成立する普遍的な真偽関係のことを示す直接推論の形式のことを意味する概念であり、
こうした対当関係と呼ばれる推論のあり方には、矛盾対当・反対対当・小反対対当・大小対当という全部で四つの種類の推論関係があると考えられることになります。
そして、こうした四つの対当関係のうちの矛盾対当とは、一言でいうと、
いずれか一方の命題が真ならば他方は必ず偽であり、その反対に、いずれか一方の命題が偽ならば他方は必ず真となるという命題同士の普遍的な真偽関係のことを意味する概念であり、
こうした矛盾対当と呼ばれる対当関係は、全称肯定命題と特称否定命題、および、特称肯定命題と全称否定命題の間で成立する推論関係として位置づけられることになるのです。
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次回記事:反対対当とは何か?対当関係における四つの真偽関係の違い②、直接推論に分類される推論の形式③
前回記事:全称・特称と肯定・否定という量と質の違いに基づく四種類の命題区分、論理学における量と質の意味とは?
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