自己複製と恒常性の原理のどちらが生命の根本原理なのか?②生物の個体レベルにおける恒常性と自己複製の機能の喪失、生命とは何か?⑩

前回書いたように、

「自己複製」と「恒常性」の原理のうち、どちらの原理がより根本的な生命の原理なのか?という問題について明確に答えるためには、

生物とされる個体から、上記の二つの原理の内、いずれか一方の機能を取り去ってしまった場合でも、その個体は生命を持った存在と言えるのか?という問題について考えていくことが必要となります。

そして、

自己複製」と「恒常性」という二つの原理は、生命体において、個体全体というマクロレベルと、生命体を構成する個々の細胞というミクロレベルの両方のレベルにおいて働く生命の原理であると考えられることになるのですが、

今回は、まずはじめに、

細胞レベルではなく、個体レベルにおいて、両者の原理のうちのいずれか一方が失われてしまったケースにおいて、その個体がそれでもなお生命を持った存在として成立しうるのか否か?という問題について考えていきたいと思います。

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生物の個体レベルにおいて恒常性の機能が失われた状態とは?

それでは、第一のケースとして、

生物の個体レベルにおいて、恒常性の機能が完全に失われた状態について考えてみることにします。

そうすると、まず、

個体レベルにおける恒常性の機能とは、生物において見られる、現状の生存状態を維持するためのあらゆる機能のことを指す概念であり、

外界から侵入する異物を排除して自らの内部環境を一定の状態に維持しようとする免疫系の機能から、血中の酸素飽和度を維持し全身の細胞に隈なくエネルギーを送り続けるための呼吸や心臓の拍動といった生物自身の生命と健康状態を維持しようとするあらゆる活動が、個体レベルにおける恒常性の機能に含まれると考えられることになります。

そして、

こうした免疫呼吸血流といった生物の個体レベルにおけるあらやる恒常性の機能が停止した場合、

それは、免疫の破綻呼吸停止心停止といった生命活動そのものの停止を意味することになります。

したがって、

生物の個体レベルにおける恒常性の機能の喪失とは、生物の個体としての死に直結する現象であり、

個体レベルにおける恒常性の維持機能なしには、生物は生命体として存在し続けることが不可能であると考えられることになるのです。

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生物の個体レベルにおいて自己複製の機能が失われた状態とは?

それでは、次に、第二のケースとして、

生物の個体レベルにおいて、もう一方の生命の原理である自己複製の機能が完全に失われてしまった状態について考えてみることにします。

個体レベルにおける自己複製の機能とは、すなわち、生物が自分と同じ種族の個体を再生産することができるという分裂や生殖の能力のことを意味すると考えられることになります。

そうすると、個体レベルにおける自己複製の機能が失われた状態としての生殖機能の喪失の例としては、

例えば、

犬や猫などのペットの不必要な繁殖を防止するための虚勢手術不妊手術などの例が挙げられることになりますが、

そうした個体としての自己複製の能力を失う手術の前後において、そのペット自身が生きているという、犬や猫という生物の個体自体における生命の本質的な状態のあり方が変わってしまうということはまったくあり得ないと考えられることになります。

つまり、

少なくとも、生物の個体全体というマクロのレベルにおいては、その生物自身が生命を持った存在として現に生きているということと、その個体自体に自己複製の機能があるかどうかということは、ほとんど無関係な問題であると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

生物の個体レベルというマクロレベルで考えた場合、

恒常性の原理が免疫系の機能や、呼吸や心拍といった生命の維持に直接かかわる、生命の存続と不可分な関係にある機能であるのに対して、

もう一方の自己複製の原理の方は、その生物自身の生命の本質的なあり方自体とのかかわりは比較的薄い付随的な機能であると考えられることになります。

しかし、その一方で、

生物の個体全体のマクロレベルではなく、生命体を構成する個々の細胞というミクロレベルにまで考察の範囲を広げていくと、

例えば、上記の犬や猫の不妊手術の例でも、手術によって生殖能力、すなわち、個体としての自己複製の能力は失われることになったとしても、

犬や猫の体内において、細胞分裂が行われ、新陳代謝が進んでいくという、生物の身体を構成する細胞自体における自己複製の能力は失われていないと考えられることになります。

したがって、

冒頭で挙げた「自己複製」と「恒常性」の原理のうち、どちらの原理がより根本的な生命の原理なのか?という問題についてのより核心的な解答を見いだすためには、

生物を構成する個々の細胞の隅々に至るまで自己複製の能力あるは恒常性の機能徹底的に破壊され尽くしてしまった場合でも、その生物はなお、生命体として存在し続けることができるのか?という

生物の細胞レベルにおける自己複製と恒常性の原理の探究へと議論を進めていくことが必要となると考えられることになるのです。

・・・

次回記事恒常性の破綻としての生物の死と細胞レベルにおける自己複製の機能の破壊、自己複製と恒常性の原理のどちらが生命の根本原理なのか?③、生命とは何か?⑪

前回記事:自己複製と恒常性の原理のどちらが生命の根本原理なのか?①引き算によって浮き彫りにされる生命の本質的な定義、生命とは何か?⑨

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