武神と水神としての青竜と黄竜の位置づけのあり方とは?関羽と青竜の関係と黄帝と黄竜との関係、青竜と黄竜の違い②
前回書いたように、中国神話において東西南北といった方位を司る守護神として位置づけられる四神の中で、竜に関わる神獣としては、
東方を司る神獣である青竜(せいりゅう)のほかに、四方の中心に座する四神の長にもあたる神獣として位置づけられている黄竜(おうりゅう)と呼ばれる竜の名も挙げられることになると考えられることになります。
そして、
こうした青竜や黄竜といった竜に関係する神獣たちは、空を自在に駆け巡り、天地の間を自由に上り下りする天と地をつなぐ存在として捉えられていたことから、基本的に、古代中国においては、
竜は、雨や風などの天候を司る神や、水を司る水神のような存在として位置づけられていたと考えられることになるのですが、
その一方で、
そうした絶大なる力を持つ竜の存在は、それを武力として用いることによって、戦況を一気に味方に有利になるように切り開いていく武神にも連なる存在として位置づけられていくようになっていったとも考えられることになります。
武神としての関羽と青竜との関係
中国において、戦いを勝利へと導く武神や軍神の名としては、第一に、
中国が魏・呉・蜀の三国に分立していた三国志の時代に、蜀の国の創始者にして、漢帝国の皇帝の末裔でもあるとされる劉備に仕え、
白馬の戦いで敵軍の将を一撃で打ち取った武功や、赤壁の戦いで曹操が率いる大船団を大敗へと追い込むことによって、魏による天下統一の野望を打ち砕くことに成功したことなどで勇名をはせた英雄にして豪傑である関羽(かんう)の名が挙げられることになりますが、
こうした蜀の武将である関羽が自らを象徴する武器として愛用していた刀が青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)、または、単に青龍刀と呼ばれる大刀の一種であり、
青龍偃月刀は、その名の通り、刃の部分に青竜の姿が描かれた装飾が施されているため、こうした名称で呼ばれていると考えられることになります。
そして、
関羽は、その死後に神格化されて、関帝(かんてい)と呼ばれるようになり、中国各地に神となった関羽を祭る廟として、関帝廟(かんていびょう)と呼ばれる社(やしろ)や祠(ほこら)が数多く建てられていくことになるのですが、
それに伴って、
関羽がその身に常に携えていた武器である青龍偃月刀に描かれている青竜の姿も、その死後に武神として広く民衆に崇められていくことになった関羽のことを象徴する存在として位置づけられるようになっていったと考えられることになるのです。
古代の戦神である蚩尤を倒した応竜と黄竜との関係
また、
こうした竜の存在が、戦いや武力のようなものを象徴する存在として描かれているケースは、青竜の場合だけではなく、黄竜の場合においても見いだすことができると考えられることになるのですが、
中国神話においては、漢民族の祖であるとされる黄帝(こうてい)は、牛頭人身の異形の姿をした古代の戦神である蚩尤(しゆう)が率いる魑魅魍魎の軍勢を打ち破る際に、
応竜(おうりゅう)と呼ばれる竜の助けを得て敵軍と戦ったとされていて、伝承によっては最終的に敵将である蚩尤の首を打ち取ったのも応竜であるとされることになります。
そして、例えば、
古代中国における妖怪やもののけのたぐいが記された6世紀頃に書かれた怪異書である『述異記』(じゅついき)においても、
「水に棲む蝮(まむし)は五百年で蛟(みずち、雨竜)となり、蛟は千年で竜となり、竜は五百年で角龍(かくりゅう)となり、角竜は千年にして応竜(おうりゅう)になり、年老いた応竜は黄竜(おうりゅう)と呼ばれる」
と記されているように、
もともと、水神としての蛟(みずち)と竜、そして、応竜と黄竜と呼ばれる存在は、互いに同一視される存在であったとも考えられることになるのですが、
こうしたことを踏まえると、
応竜と黄竜と呼ばれる竜の存在は、詳しくは前回の記事で取り上げたように皇帝を象徴する竜であると同時に、戦いを勝利へと導く武神のような存在としても位置づけられていると考えられることになるのです。
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以上のように、
青竜や黄竜といった竜に関係する神獣たちは、中国神話において基本的には、雨や風などの天候を司る神や、水を司る水神のような存在として位置づけられていると考えられることになるのですが、
その一方で、
青竜は、中国における武神や軍神の名の筆頭として挙げられる関羽のことを象徴する存在として位置づけられていて、
黄竜は、漢民族の祖である黄帝を助け、古代の戦神である蚩尤を倒した応竜と同一視される存在としても位置づけられていることなどからも分かる通り、
こうした中国神話における青竜や黄竜といった竜たちは、風雨や水を司る水神であるとされると同時に、その絶大なる力によって戦いを勝利へと導く武神にも連なる存在としても位置づけられていると考えられることになるのです。
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次回記事:青竜・白虎・朱雀・玄武が青・白・赤・黒の四色で表される理由とは?陰陽五行説に基づく色と季節と方位との対応関係
前回記事:青竜と黄竜の違いとは?①東方を司る緑色の竜と皇帝を象徴する金色に輝く竜
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