アモーレの語源とは何か?ローマ神話の愛の神アモールとキューピッド
アモーレ(amore)とはイタリア語で「愛」または「愛する人」のことを意味する言葉ですが、この言葉のもともとの語源はどこにあると考えられることになるのでしょうか?
そして、さらに、
同じラテン系の言語に属するスペイン語や、それらの言語の源流にあるラテン語においては、こうした愛の言葉は具体的にどのような形で表現されることになるのでしょうか?
今回は、そうしたアモーレの語源と、ラテン系の言語における愛の表現のあり方について、考えてみたいと思います。
ローマ神話の愛の神アモールとキューピッド
まず、
イタリア語のアモーレ(amore)の語源についてですが、
それは、もともとは、ラテン語におけるアモール(amor、愛、愛する人)に由来する言葉ということになります。
そして、さらに、
ラテン語におけるアモールの語源は、ローマ神話における同名の愛の神であるアモール(Amor)に由来する言葉であると考えられることになるのですが、
ローマ神話における愛の神アモールは、同じく愛の神であるとされるクピド(Cupido)と同一視されることになります。
そして、
クピドは、英語読みではキューピッドとなるように、翼を持った無垢な幼児のような姿で天使のように人々の前に舞い降りて、
黄金の矢によって恋人たちのハートを射ぬくことによって男女の間の愛を取り持つ、気まぐれな恋愛の神でもあるとされることになるのです。
つまり、
イタリア語のアモーレやラテン語におけるアモールといったラテン系言語における愛の言葉は、もともとは、ローマ神話における愛の神の名であるアモール、さらには、それと同一視される翼を持った恋の天使であるキューピッドに由来する言葉であると考えられることになるのです。
ラテン語とイタリア語とスペイン語における愛の表現
そして、次に、
こうしたイタリア語やラテン語といったラテン系の言語における愛の表現、すなわち、英語の“I love you“にあたる表現はどのようなものであるのか?ということについてですが、それは以下のように表現されることになります。
まず、はじめに、
イタリア語における”I love you”の表現についてですが、
イタリア語で「あなたを」を意味する二人称単数の直接目的語はti(ティ)であり、「愛する」を意味する動詞amare(アマーレ)の一人称単数の現在形はamo(アモ)となるので、
「私はあなたを愛する」という表現は、イタリア語では、
Ti amo.(ティ・アモ)
と表現されることになります。
次に、
イタリア語と同じロマンス諸語(ラテン語から分化した言語の総称)に属する言語であるスペイン語では、
「あなたを」を意味する二人称単数の対格(直接目的語)はte(テ)、「愛する」を意味する動詞amar (アマール)の一人称単数の現在形はamo(アモ)となるので、
「私はあなたを愛する」という表現は、スペイン語では、
Te amo.(テ・アモ)
と表現されることになります。
そして、
これらのロマンス諸語の源流にある大本のラテン語においては、
「あなたを」を意味する二人称単数の対格(直接目的語)はte(テー)、「愛する」を意味する動詞amare(アマーレ)の一人称単数の現在形はamo(アモー)となるので、
「私はあなたを愛する」という表現は、ラテン語では、
Te amo.(テー・アモー)
と表現されることになります。
このように、イタリア語とスペイン語の両者とも、もともとはラテン語にルーツを持つ言語ということになるので、上記のどの言語における愛の表現もかなり似通った表現となるのです。
ラテン語における語末の母音の発音の長母音化
ちなみに、
上記の愛の表現の内、スペイン語とラテン語における表現は、どちらも表記上は、”Te amo“という全く同じ表記になっているのに、スペイン語の方の発音表記が「テ・アモ」で、ラテン語の発音表記が「テー・アモー」と異なる発音となっているのはなぜか?ということですが、
それは、イタリア語やスペイン語では語末の母音は短く発音されることが多いのに対して、ラテン語では短母音と長母音の発音がかなり厳格に区別され、通常、単語末の母音は長母音として発音されることが多いということがその理由となります。
したがって、
ラテン語の方の”Te amo.”は、「テー・アモー」とそれぞれの単語の語尾の母音を長く発音する方が正しい発音であると考えられることになるのです。
ラテン系言語における主語の省略と主語を強調する表現
最後に、もう一つ書き加えると、
上記の三つの言語における”I love you“の表現では、イタリア語では”Ti amo.”、スペイン語とラテン語では”Te amo.”というように、
文中において、”I“にあたる主語を表す単語が省略されているわけですが、これはなぜか?というと、
それは、ラテン語系の言語においては、動詞の変化形の中に主語を示す表現がすでに組み込まれているので、改めて主語を書き加える必要がないということが理由として挙げられることになります。
例えば、
ラテン語の動詞amāre(愛する)の現在形は、主語の人称と数の変化に応じて、それぞれ、
amō(アモー)=私は愛する
amās(アマース)=あなたは愛する
amat(アマト)=彼(彼女)は愛する
amāmus(アマームス)=私たちは愛する
amātis(アマーティス)=あなたたちは愛する
amant(アマント)=彼ら(彼女ら)は愛する
と活用されることになるので、
通常は、上記のようなすでに主語に応じた活用変化がなされている動詞に加えて、わざわざ改めて主語を書き加える必要はないと考えられることになるのです。
ちなみに、
どうしても英語の“I“や、「私は」という主語に相当する言葉を補いたいという場合は、通常の文脈ではかなり不自然な表現になってしまうものの、主語を強調する意味で書き加えて改めて主語を明示することも文法的に間違いとまでは言えないので、
その場合は、「私は」にあたる一人称単数の主語であるイタリア語の”io “(イオ)、スペイン語の”yo“(ヨ)、ラテン語の”Ego “(エゴー)という単語を文頭に書き加えて、
イタリア語では、Io ti amo.(イオ・ティ・アモ)
スペイン語では、Yo te amo.(ヨ・テ・アモ)
ラテン語では、Ego te amo. (エゴー・テー・アモー)
といった表現が英語の“I love you“に相当する表現になると考えられることになります。
・・・
次回記事:イタリア語とラテン語のアモーレの意味の違いとは?『蒼天航路』における曹操と水晶の悲恋
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