彼岸とは何か?サンスクリット語と仏教思想における由来と西方浄土や日想観の思想と暦の区分としての彼岸という言葉の関係
前回の記事で書いたように、二十四節気と呼ばれる日本古来の暦の区分のあり方における春分と秋分の日を中心とする春と秋の彼岸の期間は、それぞれ現在の暦の日付においては、
春の彼岸の期間は3月18日から3月24日ごろまでの7日間の期間、秋の彼岸の期間は9月20日から9月26日ごろまでの7日間の期間としてそれぞれ位置づけられることになり、
こうした彼岸(ひがん)と呼ばれる暦の期間は、
太陽が真東から昇って真西へと沈んでいくように観測されることによって、一日における昼と夜の長さがほぼ等しくなる春と秋というそれぞれの季節の中心にあたる期間として位置づけられることになると考えられることになります。
それでは、
こうした太陽が真東から昇って真西へと沈んでいくという春と秋の季節の中心として位置づけられる暦の期間のことを意味する言葉として、
彼岸という言葉が用いられていくようになっていったということには、具体的にどのような由来があると考えられることになるのでしょうか?
サンスクリット語と仏教思想における「彼岸」という言葉の由来
そうすると、まず、
こうした彼岸という言葉は、
仏教の経典などにおいても広く用いられている古代インドの言語であるサンスクリット語におけるパーラミター(pāramitā、波羅蜜多)という言葉の意訳にあたる到彼岸(とうひがん)という言葉が略されてできた言葉であると考えられていて、
こうしたサンスクリット語におけるパーラミターや、日本語における到彼岸という言葉は、一般的な解釈においては、
生死の輪廻を繰り返す煩悩の多い迷いの世界である現世としての此岸(しがん)を越えて永遠の平和と安らぎに満ちた涅槃の境地へと至ることを意味する言葉として解釈することができると考えられることになります。
そして、
こうした彼岸あるいは到彼岸を通じて得られる悟りの境地のことを意味する言葉として位置づけられている涅槃(ねはん)という言葉は、
それと同時に、仏教の開祖にあたる釈迦の死のことを意味する言葉としても用いられることがあることからも分かるように、
春と秋の彼岸の期間は、祖先の霊や死者の鎮魂と極楽浄土を願う期間としても位置づけられることになると考えられることになるのです。
『阿弥陀経』における西方浄土や『観無量寿経』における日想観との関係
そして、
こうした彼岸の期間において願われることになる一切の煩悩や穢れから離れた仏が住む清浄な世界としての極楽浄土の世界というのは、
浄土教の聖典の一つにもあたる『阿弥陀経』(あみだきょう)などの仏教の経典の記述に基づいて、現世から西の方角に十万億の仏の世界を隔てた所にあるとされている阿弥陀如来(あみだにょらい)を教主とする浄土、すなわち、西方浄土(さいほうじょうど)といった言葉によっても呼び表されることになります。
また、
同じく浄土教の聖典の一つにあたる『観無量寿経』(かんむりょうじゅきょう)においては、そうした極楽浄土や西方浄土へと至るための悟りの境地を開くための修行法の一つとして、
浄土が存在するとされている西の方角へと沈んでいく太陽を見て、その欠けるところのなき真円の姿を自らの心の内へと留めることによって、自らの心の内にそうした極楽浄土や西方浄土と呼ばれる清浄な世界の姿を見いだしていくという
日想観(にっそうかん)と呼ばれる修行法の存在についての言及もなされていくことになるのですが、
それに対して、冒頭でも述べたように、
暦の上での春と秋の彼岸の期間においては、春夏秋冬のそれぞれの季節における太陽の年周軌道における位置の変化のあり方に基づいて、夏の季節には北寄りの空は、冬の季節には西寄りの空へとずれていってしまうことになる太陽の日の出と日没の方角が、
こうした彼岸の期間だけに限っては真東から昇って真西へと沈んでいくことになると考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
前述した『阿弥陀経』における西方浄土や、『観無量寿経』における日想観などといった仏教思想における考え方に基づいて、
太陽が沈んでいく方角が極楽浄土や西方浄土と呼ばれる永遠の平和と安らぎに満ちた清浄な世界が存在するとされている真西の方角へとぴったり一致していくことになる春分と秋分の日を中心とする一年における暦の期間のことを意味する言葉として、
こうした西方浄土や涅槃といった言葉と深い関わりを持つ「到彼岸」そしてその略語にあたる「彼岸」という言葉が用いられていくようになっていったと考えられることになるのです。
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次回記事:お盆の期間はいつからいつまでなのか?江戸時代から明治の改暦へと続く日本国内におけるお盆の時期の歴史的な変遷
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