コレラ菌の具体的な特徴と経口補水液や輸液療法を用いたコレラの治療法の確立、らせん菌に分類される代表的な細菌の種類とは?③
前々回と前回の記事では、らせん菌と呼ばれる細菌のグループに分類される代表的な細菌の種類のなかでも、細菌性の胃腸炎の原因菌として位置づけられることになる、
カンピロバクターとヘリコバクターと呼ばれる二つのらせん菌の種類の具体的な特徴について順番に詳しく考察してきましたが、
それに引き続いて、今回の記事では、
コレラ菌と呼ばれるらせん菌の具体的な特徴と、コレラ菌によって引き起こされることになるコレラと呼ばれる細菌感染症の症状および現代における具体的な治療法の確立といった点について詳しく考察していきたいと思います。
コレラ菌の具体的な特徴と激しい下痢と重度の脱水症状を主症状とする危険な伝染病としてのコレラの位置づけ
まず、はじめに挙げた
コレラ菌(ビブリオ・コレラエ、Vibrio cholerae)とは、幅0.4~0.6マイクロメートル、長さ1~3マイクロメートルほどの大きさをした菌体の端に1本の鞭毛を持つことによって運動性を持つグラム陰性の嫌気性らせん菌に分類される細菌であり、
上述したコレラ菌のラテン語における学名にあたるビブリオ・コレラエという名称からも分かる通り、ビブリオ属と呼ばれる細菌のグループに分類される細菌の種類として位置づけられることになります。
そして、
こうしたコレラ菌と呼ばれる細菌は、主に、河川や海などといった水中に存在する細菌の種類として位置づけられることになるのですが、
もともとは水中に存在していたコレラ菌が生水や氷、加熱が不十分な状態にある魚介類、あるいは、不衛生な調理環境などにおいてコレラ菌が付着した食材などを介して経口感染によって人間に対して感染していくことになると考えられることになります。
そして、
こうしたコレラ菌によって引き起こされる細菌感染症である
コレラ(Cholera)においては、コレラ菌が生産するコレラ毒素とよばれるタンパク質毒素の働きによって、小腸の粘膜における水分や電解質の吸収が著しく妨げられていくことになり、
1~3日程度の潜伏期間の後に、1日に数十回におよぶような激しい水様性下痢を主症状とする消化器系の症状が引き起こされることになるのですが、
そうした激しい下痢やおう吐といった症状により急速に脱水症状が進行していくことによって、血圧低下や頻脈、筋肉の痙攣や虚脱といった症状が引き起こされてしまうことにより、かつては感染者の50%以上死亡することもあったと考えられているように、
こうしたコレラとよばれる激しい下痢による重度の脱水症状を主症状とする細菌感染症は、人類の歴史において長い間、天然痘やペストなどと並んで、人々の命を次々に奪っていってしまうことになる非常に危険な伝染症として位置づけられてきた感染症であったと考えられることになるのです。
経口補水液や輸液療法を用いたコレラの治療法の確立
しかし、その一方で、
現代においては、こうしたコレラの治療については、
経口補水液(ORS、Oral Rehydration Solution、オーラル・リハイドレーション・ソリューション)と呼ばれる食塩とブドウ糖を混ぜ合わせたうえで水に溶かした溶液を患者に飲ませることによって、
激しい下痢やおう吐の症状を発症しているコレラ患者においても小腸の内部にける水分の十分な吸収を図ることがある程度可能となっているほか、
すでに重度の脱水症状に陥っていて口からの水分補給を一切受けつけなくなってしまった患者についても、点滴を通じた輸液療法などによって、比較的容易に安全な形で水分や電解質の補給を行っていくことができるようになったので、
細菌感染症の主要な症状に対する明確な対処法が確立されている感染症の種類としても位置づけられていると考えられることになります。
そして、以上のように、
こうしたコレラと呼ばれる細菌感染症は、現代においては、上述したような輸液療法や抗生物質を投与といった適切な治療を行うことによって、
かつては50%以上もあった死亡率が、現在では1~2%ほどにまで大きく低下したと考えられているというように、
現代における医療技術の大きな発達によって、死亡リスクを大きく下げることに成功した感染症の種類としても位置づけられることになるのです。
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次回記事:ナグビブリオとコレラ菌の違いとは?血清型に基づく両者の区別とナグビブリオという病原菌の名称の由来、らせん菌に分類される代表的な細菌の種類とは?④
前回記事:ピロリ菌の具体的な特徴とハイルマニ菌などのその他のヘリコバクター属に分類される細菌の種類、らせん菌に分類される代表的な細菌の種類とは?②
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