吸虫による寄生虫感染症の原因となる代表的な12種類の吸虫の種類とは?②日本住血吸虫症の病原体の発見と撲滅までの歴史
前回の記事では、横川吸虫、肝吸虫、肝蛭といった食中毒や肝機能障害を引き起こす原虫感染症の原因となる代表的な吸虫の種類について順番に取り上げてきましたが、
今回の記事では、それに引き続き、
かつては、日本国内における風土病の一種としても位置づけられていた日本住血吸虫症の病原体である日本住血吸虫と呼ばれる寄生虫の具体的な特徴と、
そうした寄生虫感染症の病原体が発見されて、日本国内から根絶されていくまでの一連の歴史についても、一通り考察していきたいと思います。
日本住血吸虫
まず、日本住血吸虫(にほんじゅうけつきゅうちゅう)とは、体長15~20ミリメートルほどの長さをした細長い糸状あるいはひも状の形状をした吸虫の種族であり、
こうした日本住血吸虫と呼ばれる吸虫は、ミヤイリガイと呼ばれる小型の巻貝を中間宿主として幼虫の段階にまで成長したのち、宿主である貝の体表を突き破って水中へと泳ぎ出していていき、
その後、水田や側溝あるいはため池といった水場や湿地などに足を踏み入れた人間の体表に取り付いたのち、皮膚を食い破っていくような形で人間の体内へともぐり込んでいくことになります。
そして、
こうした日本住血吸虫の感染によって引き起こされる日本住血吸虫症と呼ばれる寄生虫感染症においては、まずは、吸虫が侵入した皮膚の部位の周囲に皮膚炎の症状が引き起こされたのち、
腸内へ移動した吸虫が腸壁に卵を産む付けることによって、腹痛や下痢といった消化器系の症状が引き起こされることになります。
そして、その後、
腸壁に産み付けられた虫卵が血流に乗って体内の様々な部位へと運ばれていくことによって、主に、血管内や肝臓の門脈の部位を中心に寄生していくことになり、
特に、そうした体内において大量に発生した虫卵によって肝臓や脳の血管の塞栓が引き起こされることによって、
黄疸や大量の腹水の貯留などを特徴とする寄生虫性の肝硬変の症状や 脳炎などの神経系の症状といった重篤な症状が引き起こされていくことになると考えられることになるのです。
日本国内における住血吸虫症の病原体の発見と撲滅までの歴史
そして、
こうした日本住血吸虫症と呼ばれる吸虫を原因とする寄生虫感染症は、こうした感染症の名称に「日本」という言葉が付されていることからも分かるように、
かつては、山梨県の甲府盆地などを中心とする日本の農村の各地に流行がみられていた日本国内において固有の風土病のような存在として位置づけられてきた感染症でもあり、
1874年には、こうした甲府盆地にほど近い宮沢村と大師村と呼ばれる二つの村を中心に日本住血吸虫症の患者が数多く発生して村自体が壊滅に近い状態へと追い込まれたことによって、
村に住む農民たち全員が、自分たちが住み慣れた土地をすべて捨てて、湿地の少ない高台へと村を移転させる離村という苦渋の決断を下すに至ったという事例なども記録に残されています。
そして、その後、
1913年に、こうした日本住血吸虫症と呼ばれる感染症の病原体となる吸虫が、前述したミヤイリガイと呼ばれる小型の巻貝を中間宿主として増殖していくことになるといった病原体の生態が解明されると、
日本住血吸虫症の根絶のために、中間宿主であるミヤイリガイ自体を撲滅していく取り組みが徹底的に推し進められていくことによって、感染者数が徐々に減少へと転じていくことになり、
1978年に山梨県の韮崎市で発生した1名の感染者の報告を最後に、その後の継続的な検査においても、新たな感染者の発生は確認されないまま18年の時が経過していったのち、
最終的に、
1996年に、日本国内における最大の感染地域であった山梨県において日本住血吸虫病流行の終息宣言が出されることによって、
こうした日本における日本住血吸虫症と呼ばれる寄生虫感染症との医療の分野における闘いの歴史が、病原体となる寄生虫自体の根絶によって幕を閉じることになったと考えられることになるのです。
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次回記事:吸虫による寄生虫感染症の原因となる代表的な12種類の吸虫の種類とは?③ビルハルツやマンソンなどのその他の住血吸虫の種族
前回記事:吸虫による寄生虫感染症の原因となる代表的な12種類の吸虫の種類とは?①横川吸虫と肝吸虫と肝蛭の具体的な特徴
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