不完全なウイルスであるサブウイルス粒子の三つの分類とは?ウイロイドとプリオンとサテライトウイルスの特徴の違い
宿主となる細胞に寄生して自らの遺伝子の複製を実行させることによって自己増殖していくというウイルスとしての性質を持ちながら、
DNAやRNAといった核酸、あるいは、そうした遺伝物質を包み込んでいるカプシドと呼ばれるタンパク質の殻と持つといったウイルスとしての定義を十分には満たしていない不完全なウイルスとして位置づけられることになるサブウイルス粒子に分類される病原体の種類は、
サテライトウイルスとウイロイドとプリオンと呼ばれる全部で三つのグループへと区分することができると考えられることになります。
それでは、こうした三種類のサブウイルス粒子のグループは、それぞれ具体的にどのような特徴を持った病原体のグループであり、それぞれのグループに分類される代表的な病原体の種類としてはどのような病原体の名が挙げられることになると考えられることになるのでしょうか?
サテライトウイルスの特徴と分類される代表的な病原体の種類
まず、
こうした三つのグループのはじめに挙げたサテライトウイルス(Satellite virus)は、
サテライトすなわち衛星という呼び名の通り、自らの遺伝子の複製を助けてくれるヘルパーウイルスと呼ばれる本体となるウイルスと協力によって生体内の細胞への感染と増殖を進めていくウイルスであり、
こうしたサテライトウイルスと呼ばれるサブウイルス粒子のグループに分類される病原体は、
宿主細胞に寄生しても自分自身の力だけでは自らの遺伝子の複製を実行させることができず、自己増殖のために同じ宿主細胞に寄生している他のウイルスの助けを必要とするため、不完全なウイルスとして位置づけられることになると考えられることになります。
そして、
こうしたサテライトウイルスに分類される代表的な病原体の種類としては、
タバコモザイクサテライトウイルス、タバコ壊死サテライトウイルス、キュウリモザイクサテライトウイルス、トウモロコシ白線モザイクサテライトウイルス
などのように、タバコやキュウリやトウモロコシといった様々な種類の植物の細胞に感染することによって、植物の感染症における症状を悪化させる働きをもたらす病原体が数多く挙げられることになるのですが、
それに対して、
ミツバチ慢性麻痺サテライトウイルス、D型肝炎サテライトウイルス
のように、動物や人間の細胞に感染するサテライトウイルスの種族もある程度は存在していて、
特に、後者のD型肝炎サテライトウイルスは、医学の分野においては通常の場合、単にD型肝炎ウイルスと呼ばれていて、
こうしたD型肝炎ウイルスと呼ばれるサテライトウイルスは、人間の肝細胞に感染して本体となるウイルスであるB型肝炎ウイルスの活動が活発化させることによって、
劇症肝炎を発症するリスクや、慢性肝炎から肝硬変の移行を加速させてしまうといった人体に対して悪影響をおよぼすサブウイルス粒子の一種としても位置づけられることになるのです。
ウイロイドの特徴と分類される代表的な病原体の種類
そして、
その次に挙げたウイロイド(Viroid)は、
200~400個程度という極めて少ない塩基数のゲノム(遺伝情報)によって形づくられている短い環状の一本鎖RNAのみによって構成される植物細胞に対して感染性を示す病原体のグループであり、
こうしたウイロイドと呼ばれるサブウイルス粒子のグループに分類される病原体においては、
一般的なウイルスの構造において存在するカプシドと呼ばれるタンパク質の殻の構造がまったく見られずに、RNAだけが剥き出しの状態で存在しているため、
ウイルスとしての一般的な構造を満たさない不完全なウイルスとして位置づけられることになると考えられることになります。
そして、
こうしたウイロイドに分類される代表的な病原体の種類としては、
アボカドサンブロッチウイロイド、ジャガイモやせいもウイロイド、トマト退緑萎縮ウイロイド、ココナッツカダンカダンウイロイド
といったアボカドやジャガイモ、トマトやココナッツといった様々な植物の細胞に感染して、成長の阻害や組織の萎縮といった症状を引き起こすことによって、
農業生産などにおける経済的な面においても重大な影響をおよぼす危険性のある病原体の種類が挙げられることになるのです。
プリオンの特徴と分類される代表的な病原体の種類
そして、
最後に挙げたプリオン(Prion)とは、
動物や人間の細胞の内部におけるタンパク質の合成などの際に、誤った形で折りたたまれることによって異常な立体構造をした異常タンパク質となった病原性を持つタンパク質のことなどを意味する言葉であり、
こうしたプリオンと呼ばれるサブウイルス粒子のグループに分類される病原体においては、
一般的なウイルスの構造において存在するRNAやDNAといった遺伝物質は一切存在せず、病原体全体がタンパク質のみによって構成されているため、
ウイルスとしての一般的な構造を満たさない不完全なウイルスとして位置づけられることになると考えられることになります。
そして、
こうしたプリオンによって引き起こされる代表的な疾患の種類としては、
スクレイピー、ウシ海綿状脳症、ネコ海綿状脳症、伝達性ミンク脳症、慢性消耗病、 外来性有蹄類脳症
といった主に人間以外の動物に対して病原性を示し、脳組織を中心とする中枢神経系に存在する神経細胞を構成しているタンパク質を自らの構造と同じ異常タンパク質へと変性させていくことによって脳組織全体が海綿すなわちスポンジ状に崩れていってしまい、
不随意運動や運動失調や神経過敏といった神経症状を引き起こしたのち、数か月から1年程度といった比較的短い期間の内に死に至ることになる中枢神経疾患が挙げられることになるほか、
人間に対して病原性を示すプリオンによって引き起こされる代表的な疾患としては、クロイツフェルト・ヤコブ病が挙げられることになり、
クロイツフェルト・ヤコブ病においては、前述した動物における伝達性海綿状脳症の場合と同様に、脳組織を中心とする中枢神経系に存在する神経細胞を構成しているタンパク質が病原性プリオンによって異常タンパク質へと変換されていってしまうことによって脳組織にスポンジ状の穴が形成されていくことになり、
不随意運動や認知症、運動失調や行動変化や人格変化といった症状が現れた末に、最終的には、症状が出てから1年から2年ほどの短期間のうちに死に至ることになってしまうと考えられることになるのです。
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次回記事:ノロウイルスという名前はいつ頃から使われるようになったのか?国際ウイルス学会での命名の見直しとサポウイルスとの関係
このシリーズの前回記事:プリオンが引き起こす代表的な疾患の種類とは?哺乳類プリオンと真菌プリオンの違いとそれぞれの疾患の具体的な特徴
前回記事:狂牛病の原因が肉骨粉にあるとされる具体的な理由とは?共食いによる生物濃縮としての狂牛病の感染拡大
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