サテライトウイルスに分類される代表的なウイルスの種類と具体的な特徴とは?植物および動物や人間に感染する代表的な種類
前回の記事で書いたように、広義におけるウイルスのなかには、宿主細胞に寄生しても自分自身の力だけでは自らの遺伝子の複製を実行させることができず、自己増殖のために同じ宿主細胞に寄生している他のウイルスの助けを必要とする不完全なウイルスの種族である
サテライトウイルス(衛星ウイルス)、あるいは、欠損ウイルスと呼ばれるウイルスの種族も存在していて、
こうしたサテライトウイルスと呼ばれるウイルスの種族は、ウイルス学上の厳密な定義においては、一般的なウイルスからは区別される形で、サブウイルス粒子として分類されることもあるのですが、
それでは、
こうしたサテライトウイルスと呼ばれる広義におけるウイルスあるいはサブウイルス粒子に分類されるウイルスの種族には、
具体的にどのような種類のウイルスが分類されることになると考えられることになるのでしょうか?
植物に感染するサテライトウイルスの代表的な種類とその具体的な特徴
自らの遺伝情報を記録するRNAやDNAといった核酸と呼ばれる構造体や、そうした核酸を取り囲むカプシドと呼ばれるタンパク質の殻といったウイルスとしての基本的な構造をすべて満たしながら、
自己増殖のために同じ宿主細胞に寄生している他のウイルスの助けを必要とする点では不完全なウイルスとして位置づけられることになるサテライトウイルスに分類される代表的なウイルスの種類としては、
タバコモザイクサテライトウイルス(Tobacco mosaic satellite virus)
タバコ壊死サテライトウイルス(Tobacco necrosis satellite virus)
キュウリモザイクサテライトウイルス(Cucumber mosaic virus satellite virus)
トウモロコシ白線モザイクサテライトウイルス(Maize white line mosaic satellite virus)
といった植物に感染するウイルスの種類が数多く挙げられることになります。
そして、例えば、
タバコモザイクサテライトウイルスがその自己増殖を助けてくれるヘルパーウイルスにあたるタバコモザイクウイルスとの同時感染や重複感染を引き起こすと、
タバコモザイクウイルスによって引き起こされることになるタバコなどの葉にモザイク状の斑点ができ葉の成長が悪くなるタバコモザイク病と呼ばれる植物の感染症の悪化が加速度的に進んでいくことになるというように、
こうしたサテライトウイルス(衛星ウイルス)と呼ばれるウイルスの種族は、自らの遺伝子の複製を助けてくれる本体となるウイルスと協力して生体内の細胞への感染を拡大していくことによって、
本体となるウイルスによって引き起こされる感染症の症状を悪化させるといった働きをもたらしていくことになると考えられることになるのです。
動物や人間に感染するサテライトウイルスの代表的な種類とその具体的な特徴
また、
こうしたサテライトウイルスと呼ばれるウイルスの種族のなかには、かなり少数派ではあるものの、植物や細菌ではなく動物や人間に対して感染するウイルスの種類も挙げられることになり、
そうした動物や人間に感染するサテライトウイルスの具体的な種類としては、
ミツバチ慢性麻痺サテライトウイルス(Chronic bee paralysis satellite virus)
D型肝炎サテライトウイルス(Hepatitis D satellite virus)
などが挙げられることになります。
このうちの前者であるミツバチ慢性麻痺サテライトウイルスは、その名の通り、ミツバチ慢性麻痺ウイルスと呼ばれるウイルスをヘルパーウイルスとして、その助けを借りることによって自己増殖していくことが可能となるウイルスであり、
このウイルスのヘルパーウイルスであるミツバチ慢性麻痺ウイルスは、ウイルスに感染したミツバチの神経系を破壊することによって、羽と体の震え、飛行能力の喪失といった症状を呈したのちに数日以内に死亡させてしまうというかなり凶悪なウイルスであり、
ミツバチの成虫に感染したのち、そのミツバチのコロニー全体に感染を広げていくことによって、蜂群崩壊症候群と呼ばれるミツバチのコロニー全体の突発的な消失の原因となる可能性のあるウイルスの種類としても位置づけられることになります。
そして、こうしたもともと強力なウイルスであるミツバチ慢性麻痺ウイルスに対して、さらにミツバチ慢性麻痺サテライトウイルスの感染が加わることによって、ミツバチのコロニー全体へのウイルス感染の蔓延の速度が高まっていくことになり、
ミツバチのコロニーが全滅してしまうリスクが上昇していくことになると考えられることになるのです。
そして、それに対して、
後者のD型肝炎サテライトウイルスと呼ばれるウイルスは、医学の分野においては、D型肝炎と呼ばれるウイルス性の肝炎を引き起こす原因となるウイルスという意味で、単にD型肝炎ウイルスと呼ばれることが多いウイルスの種類でもあり、
詳しくは、「D型肝炎ウイルスとB型肝炎ウイルスの関係」の記事で詳しく書いたように、
こうしたD型肝炎サテライトウイルスすなわちD型肝炎ウイルスが、ウイルス性肝炎を引き起こす代表的なウイルスの種類として挙げられることになるB型肝炎ウイルスとの同時感染や重複感染を引き起こすと、
ウイルス同士の相乗効果によりヘルパーウイルスとなる側であるB型肝炎ウイルスの活動が活発化することによって、
急性肝炎や劇症肝炎を発症するリスクが高まってしまう、あるいは、慢性肝炎から肝硬変そして肝臓がんといったより重篤で致命的な肝疾患への病状の進行を加速させてしまうといった悪影響がもたらされることになってしまうと考えられることになるのです。
・・・
次回記事:ウイロイドとは何か?一般的なウイルスとの具体的な構造の違いと人間の細胞や大腸菌とのゲノムサイズの違い
前回記事:サテライトウイルス(衛星ウイルス)とは何か?不完全なウイルスとしての定義とヘルパーウイルスとの間に成立する共存関係
「医学」のカテゴリーへ
「生物学」のカテゴリーへ