細菌とウイルスを同じ薬で両方いっぺんに死滅させることはできないのか?消毒薬と抗生物質やウイルス薬における機能の違い
前回の記事で書いたように、細菌やウイルスといった病原体によって引き起こされる感染症の治療に用いられる薬剤の種類においては、
抗生物質や抗菌薬と呼ばれる薬剤は細菌を標的する薬剤であるのに対して、ウイルス薬や抗ウイルス剤と呼ばれる薬剤はウイルスのみを標的とする薬剤であるというように、
こうした抗生物質と抗ウイルス薬と呼ばれる薬剤は、どちらか一方の薬剤をもちいることによって、細菌とウイルスの両者を一気に死滅させることはできないと考えられることになります。
しかし、その一方で、
こうした細菌とウイルスと呼ばれる病原体の両方を一気に死滅させてしまうことができる薬剤がまったく存在しないのか?というと必ずしもそういうわけでもなく、
具体的には、
一般的な薬剤の分類においては消毒薬などとして分類される薬剤などは、そうした細菌やウイルスの両者をまとめていっぺんに死滅させてしまうことができる薬剤の代表例として挙げられることになります。
消毒薬における細菌とウイルスをいっぺんに死滅させる非選択的な病原体処理のプロセス
細菌やウイルスといった病原体の殺菌や不活化に用いられる消毒薬の代表的な種類としては、
アルコールや塩素、過酸化水素水(オキシドール)やヨウ素剤(ヨードチンキ)あるいは次亜塩素酸ナトリウムといった薬剤の種類が挙げられることになりますが、
例えば、
アルコール消毒を行えば、インフルエンザウイルスと結核菌の両方をいっぺんに死滅させることができますし、
同じ次亜塩素酸ナトリウムを使った消毒によって、食中毒の原因となるノロウイルスと大腸菌を同時に死滅させることができると考えられることになります。
このように、
消毒薬に代表されるようなシンプルな化学反応によって攻撃の対象となる病原体を非選択的に死滅させていくタイプの薬剤の種類においては、
病原体となる細菌とウイルスを同時に攻撃することもある程度可能であると考えられることになるのです。
抗生物質や抗ウイルス薬における特定の細菌やウイルスのみを標的とした選択的な病原体処理のプロセス
しかし、それに対して、
抗生物質や抗ウイルス薬といった人間の体内において直接用いられるタイプの薬剤においては、
消毒薬のようにシンプルな化学反応によって様々な病原体を一気に死滅させてしまうような方法を用いると、それに伴って人体の細胞にも深刻なダメージを与える危険性が高まってしまうことになるため、
特定の細菌の弱点となる部分に集中攻撃を加えたり、特定のウイルスが自己複製を行うプロセスの一部を阻害したりするといったより間接的で複雑な方法を用いることによって、そうした病原体となる特定の細菌やウイルスの死滅や不活化が図られていくことになります。
そして、
こうした抗生物質や抗ウイルス薬といった人体の細胞に対するダメージは防ぎつつ病原体にのみを攻撃するという人間の体内における複雑で繊細な働きが必要とされるタイプの薬剤の種類においては、
細菌とウイルスという互いに性質や構造が大きく異なる病原体のタイプを同じ一つの薬剤によって同時に処理していくといったことはほぼ不可能となってしまうと考えられることになるのです。
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以上のように、
消毒薬と抗生物質やウイルス薬と呼ばれるそれぞれの薬剤の種類における病原体処理の具体的なプロセスにおいては、
消毒薬の場合には、シンプルな化学反応によって攻撃の対象となる病原体を非選択的に死滅させていくことによって、病原体となる細菌とウイルスを同時に攻撃することもある程度可能であると考えられるのに対して、
抗生物質やウイルス薬の場合は、人体への副作用を抑えつつ特定の細菌やウイルスのみを選択的に死滅させていくという複雑で繊細な働きが求められることから、消毒薬の場合と同じように細菌とウイルスを同じ一つの薬剤によっていっぺんに死滅させてしまうことはできないと考えられることになるのです。
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次回記事:風邪の原因となる四つの代表的なウイルスの種類とは?それぞれのウイルスによって引き起こされる風邪の主症状と具体的な特徴
前回記事:抗生物質と抗ウイルス薬の違いとは?病原体への攻撃方法の具体的な特徴の違い
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