フェルミ推定とドレイクの方程式の関係とは?論理展開の構造の共通点と統計学的な推論の宇宙論的な問題への適用
このシリーズの初回から前回までの記事で詳しく考察してきたように、
フェルミ推定と呼ばれる統計学的な推論の議論においては、都市の人口や一世帯の平均人数といった極めて限定された基礎的なデータのみから、純粋な推論を積み重ねていくことによって、
その都市に居住する調律師の数といった特定の職業に就いている人の人数や、その職種の将来的な展望といったことに至るまで、幅広い分野の多様な事柄について統計学的に妥当な概算値を算出していくことができると考えられることになります。
そして、こうしたフェルミ推定と呼ばれる推論のあり方は、のちにそれが地球外知的生命体の存在可能性といった宇宙論的な問いへと結びつけられていくことによって、
次回から取り上げていくフェルミのパラドックスと呼ばれる一連の議論へと発展していくことになるのですが、
宇宙物理学や天文学の分野において、こうしたフェルミ推定と呼ばれる推論と深い関係にある主要な議論としては、
そのほかにも、以前の記事のなかで詳しく考察したドレイクの方程式と呼ばれる数式の存在も挙げることができると考えられることになります
フェルミ推定とドレイクの方程式における論理展開の構造の共通点とは?
冒頭でも述べたように、フェルミ推定においては、それが社会学などの通常の議論の文脈において用いられる場合には、
都市の人口や一世帯の平均人数といった基礎的なデータから、その都市で働いている調律師の人数といった直接的に把握することが難しい対象についての具体的な数量の統計学的な概算が行われていくことになると考えられることになるのですが、
それに対して、
ドレイクの方程式の場合には、以前に「ドレイクの方程式における七つの項の具体的な意味とは?」の記事などで詳しく考察したように、
N=R*×f p×n e×f l×f i×f c×L
という方程式において示されている数式の各項のそれぞれが、
N=銀河系内に現存する人類とコンタクトをとることが可能な地球外文明の数
R*=銀河系内において一年間に誕生する恒星の数
f p=そうして誕生した恒星のうちの一つが惑星を持つ確率
n e=そうした惑星を持つ恒星系の内に存在する生命の存在が可能な惑星の平均数
f l=生命の存在が可能な条件を備えた惑星において実際に生命が誕生する確率
f i=そうして誕生した生命体が知性を備えた知的生命体にまで進化する確率
f c=そのような知的生命体へと進化した生物が宇宙空間に自らの存在を示す信号を送るような高度な科学技術を持った文明を築き上げる確率
L=そのような高度な科学技術を持った地球外文明が存続し続ける年数
といった意味を表す項として定義されることになります。
そして、
こうしたドレイクの方程式において、人類とコンタクトをとることが可能な地球外文明の数Nを導き出すことになる数式の右側の七つの項のうちのR*とf p、すなわち、銀河系内において「一年間に誕生する恒星の数」とそうした恒星が「惑星を持つ確率」のことを表すはじめの二つの項については、
大型の電波望遠鏡などを用いた大規模な宇宙観測によって得られる実証的なデータに基づいてある程度正確な値を得ることができる部分であると考えられ、
ドレイクの方程式においては、そうした「一年間に誕生する恒星の数」と一つ一つの恒星が「惑星を持つ確率」という二つの基礎的なデータに基づいて、
そこから統計学的な推論が積み重ねられていくことによって全体の方程式を構成する一連の論理展開が成立していくことになると考えられることになるのです。
フェルミ推定における統計学的な推論の地球外文明の存在可能性という宇宙論的な問題への適用
以上のように、
フェルミ推定を用いた社会学の分野などにおける一般的な議論においては、例えば、「都市の人口」や「一世帯の平均人数」といった二つ程度の基礎的なデータからの統計学的な論理の積み重ねによって、
「その都市で働く調律師の数」といった直接的に把握することが難しい対象についての具体的な数量の概算が行われていくことになるのと同様に、
ドレイクの方程式においては、「一年間に誕生する恒星の数」と一つ一つの恒星が「惑星を持つ確率」という二つの基礎的なデータからの統計学的な論理の積み重ねによって、
「人類とコンタクトをとることが可能な地球外文明の数」という直接的に把握することが難しい対象についての具体的な数量の概算が行われていくことになるという点に、
こうしたフェルミ推定とドレイクの方程式の間における論理展開の構造の共通点を見いだしていくことができると考えられることになります。
そして、そういった意味では、
こうしたフェルミ推定における統計学的な推論を、地球外文明や地球外知的生命体の存在、すなわち、宇宙人の存在と人類との接触の可能性という宇宙論的な問題へとそのまま適用していくことによって導き出された数式が、
こうしたドレイクの方程式と呼ばれる数式の正体であると解釈することができると考えられることになるのです。
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次回記事:フェルミのパラドックスとは何か?着想が生まれた具体的な経緯と地球外知的生命体の議論に関する根本的な矛盾となる問題
前回記事:「東京都にはピアノ調律師が何人いるのか?」「20年後までに何人の調律師が減るのか?」フェルミ推定に基づく推論の応用例
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