フェルミ推定とは何か?論理的推論に基づく統計学的な概算法を用いる様々な問題の具体例と原子爆弾の爆発のエネルギーの算定
フェルミ推定(Fermi estimate)あるいはフェルミの問題(Fermi problem)とは、一言でいうと、
実験や調査によって実際に正確な値を得ることが困難な数量について、限られた情報や値に基づいた論理的な推論によって短時間で適切な近似値を導き出すことを目的とした概算方法や思考実験のことを意味する言葉であり、
フェルミ推定と呼ばれる言葉自体は、こうした統計学的な論理的推論を得意としていた物理学者であるエンリコ・フェルミの名に由来することになるのですが、
それでは、エンリコ・フェルミ自身は、学問的探究や物理学的実験などの分野においては、具体的にどのような形でこうしたフェルミ推定と呼ばれる推論を用いていて、
こうしたフェルミ推定と呼ばれる推論の具体例としては、どのような事例を挙げていくことができると考えられることになるのでしょうか?
物理学者フェルミのマンハッタン計画への参加と原子爆弾の爆発のエネルギーの強さのフェルミ推定を用いた算定
冒頭で述べたフェルミ推定と呼ばれる概算方法の発案者であるエンリコ・フェルミ(Enrico Fermi、1901年~1954年)は、イタリア出身の物理学者であり、統計力学や量子物理学などの分野において特に優れた業績を残した人物として位置づけられることになるのですが、
ユダヤ人の妻をもつことによって、のちにヒトラーのナチス政権とも手を組むことになるムッソリーニのファシスト政権下の母国イタリアにおいて強い迫害を受けることになったフェルミは、
1938年、わずか37歳の若さでノーベル物理学賞を受賞し、授賞式への出席のためにイタリアを出国してスウェーデンのストックホルムへと赴いた際に、そのまま夫人と共にアメリカへと亡命し、その後はこの国で生涯を終えるまで研究生活を続けていくことになります。
そして、その後、
原子核物理学の分野においても優れた能力を発揮していた彼は、第二次世界大戦中のアメリカにおいて、原子爆弾の実験と製造のために進められた計画であるマンハッタン計画にも携わっていくことになるのですが、
そうした一連の原子爆弾の製造計画の中で1945年に行われた人類最初の核実験であるトリニティ実験の際に、
原子爆弾の爆風を受けて自分の手元から飛んで行ってしまった紙切れを目にしたフェルミは、
自らの手元を離れた紙切れが吹き飛ばされた距離から、その原因となった原子爆弾の爆発のエネルギーの強さの近似値をのちにフェルミ推定と呼ばれるような論理的な推論に基づく概算方法によって的確に導き出したというエピソードが伝えられています。
この時にフェルミが導き出した原子爆弾の爆発エネルギーの概算値がTNT爆薬に換算して10キロトンのエネルギーであったのに対して、
その後、実際に実験場の土壌の内に含まれる放射性物質の分析などによって明らかとなった爆発のエネルギー量の実測値はTNT爆薬に換算して約18.6キロトンのエネルギーであったとされているのですが、
このように、
フェルミ自身も、こうしたのちにフェルミ推定と呼ばれる論理的な推論に基づく概算方式を用いることによって、
紙切れが吹き飛ばされた距離という極めて限定された有効性の乏しいデータから、実測値の二倍程度の誤差の範囲という統計学的には非常に近い概算値を導き出すことに成功するという実績を残していたと考えられることになるのです。
フェルミ推定と呼ばれる概算方法を用いて解くことができる様々な問題の具体例
それでは、こうしたフェルミ推定と呼ばれる概算方法を用いて解くことができる問題の具体例としては、どのような種類の問題を考えていくことができるのか?ということについてですが、
結局、その問題について考えていくためのもととなる基礎的なデータはいくつかあるものの、問題の答え自体を実験や調査によって直接的に知ることは難しいといったタイプの問題であるならば、
物理学や社会学、生物学や地理学といった特定のジャンルにこだわることなく、あらゆる学問分野において、こうしたフェルミ推定に関わる問題を見つけ出していくことは可能であると考えられることになります。
例えば、一般的には、
「日本国内にある歯科医院の数は全部で何軒か?」
「東京都内には全部で何個のマンホールがあるのか?」
「大阪市内を今日走っているすべてのタクシーの走行距離は合計何キロメートルか?」
といった問題が、こうしたフェルミ推定の問題として取り上げられることが多い社会学的な問題の事例として挙げられることになりますが、
その他にも、
「世界中で現在飼われている犬の数は全部で何匹か?」
「地球上に現在生息する蚊の成虫の総数は何匹か?」
といった問題、あるいは、さらに、
「山手線の一車両をビー玉で満杯にするには全部で何個のビー玉が必要か?」
「高尾山の土を削り取って平地にしてしまうには全部でのべ何台のトラックが必要か?」
といった少し突拍子もない思考実験的な問題なども、こうしたフェルミ推定と呼ばれる概算方式の特徴を生かして考察を進めていくことができる問題の具体的な事例として挙げていくことができると考えられることになるのです。
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