「東京都にはピアノ調律師が何人いるのか?」「20年後までに何人の調律師が減るのか?」フェルミ推定に基づく推論の応用例
前回の記事では、「日本にはピアノ調律師が全部で何人いるのか?」という問いについて、フェルミ推定を用いた統計学的な推論に基づいて解答を導いていく方法論を一から組み立てていきましたが、
今回の記事では、さらに、そうしたフェルミ推定に基づく推論の応用例として、
「東京都にはピアノ調律師が何人いるのか?」「20年後の日本にはピアノ調律師は何人いるのか?」そして「現在から20年後までに日本では何人の調律師が減ることになるのか?」
といった三つの問いについて、前回と同様のフェルミ推定を用いた推論によってその概算値の推定を行ってみたいと思います。
「東京都にはピアノ調律師が全部で何人いるのか?」という問いに対するフェルミ推定に基づく解答
前回のフェルミ推定を用いた推論においては、2018年現在の日本全国における人口の総計1億2770万7259人と、一世帯あたりの平均人数2.20人という二つの基礎データから、
①日本全国の人口の総計は、1億2770万7259人
②日本に住んでいる人の総世帯数は、1億2770万7259÷2.20≒5800万世帯
③10世帯に1世帯がピアノを保有しているとすると、日本に存在するピアノの総数は、5800万÷10=580万台
④そのうち3台に1台が定期的な調律が行われているとすると調律が行われているピアノの総数は、580万÷3≒193万台
⑤調律が行われている個々のピアノは平均1年に1回調律が行われているとすると、すべてのピアノに対する1年間の調律回数の総計は、193万×1=193万回
⑥それに対して、調律師が1日に調律するピアノの台数を3台、週休二日を目安に1週間に5日間、1年では260日程度働くとして、その際の調律予定の入り方すなわちピアノ調律の平均稼働率を70%くらいと仮定すると、1人の調律師が1年間で行う調律の平均回数は、3×260×0.70=546回
となり、⑤と⑥より、日本全国に存在する調律師の人数は全部で、
193万÷546=3535人
と推定することができるというフェルミ推定に基づく概算値の算出を行いましたが、
冒頭で挙げた一つ目の問いである
「東京都にはピアノ調律師が何人いるのか?」という問いに対する解答は、上記のフェルミ推定に基づく推論の形式をそのまま用いることによって、比較的に簡単に示すことができると考えられることになります。
この問いにおいては、「日本全国」の代わりに「東京都」における調律師の人数についての概算が求められているので、
単純に上記の推論の形式における①の部分に、「日本全国の人口の総計」の代わりに「東京都の総人口」を代入すればいいと考えられ、
東京都総務局の発表によると、平成30年すなわち2018年における東京都の人口は1375万4059人となっているので、
この値を上記の推論の①の部分に代入したうえで、あとはまったく同じ形式に基づいた推論を展開していくとそれは以下のようになります。
①東京都の人口の総計は、1375万4059人
②東京に住んでいる人の総世帯数は、1375万4059人÷2.20≒625万世帯
③10世帯に1世帯がピアノを保有しているとすると、東京に存在するピアノの総数は、625万÷10=62万5000台
④そのうち3台に1台が定期的な調律が行われているとすると調律が行われているピアノの総数は、580万÷3≒20万8300台
⑤調律が行われている個々のピアノは平均1年に1回調律が行われているとすると、すべてのピアノに対する1年間の調律回数の総計は、20万8300×1=20万8300回
⑥それに対して、調律師が1日に調律するピアノの台数を3台、週休二日を目安に1週間に5日間、1年では260日程度働くとして、その際の調律予定の入り方すなわちピアノ調律の平均稼働率を70%くらいと仮定すると、1人の調律師が1年間で行う調律の平均回数は、3×260×0.70=546回
となり、⑤と⑥より、現在の東京都に存在する調律師の人数は全部で、
20万8300÷546=381人
と推定することができると考えられることになるのです。
「20年後の日本にはピアノ調律師は何人いるのか?」という問いに対するフェルミ推定に基づく解答
それでは今度は、さらに応用編として日本と東京という場所や地域の違いだけではなく、現在と20年後という時間軸の違いに基づく推論についても考えてみることにして、
冒頭で挙げた二つ目の問いである
「20年後の日本にはピアノ調律師は何人いるのか?」という問いに対するフェルミ推定に基づく推論を用いた解答を考えていきたいと思います。
そうすると、まず、
20年後の日本においては、現在の日本と比べて総人口が変化するだけではなく、一世帯あたりの平均人数についても変化が生じていくことになると考えられるので、
今度は、そうしたことも考慮に入れて、「20年後の日本の人口」と「20年後の日本における一世帯あたりの平均人数」という二つの要素に着目していくことが必要であると考えられることになるのですが、
2018年の総務省発表の「住民基本台帳に基づく人口動態」のデータにおいては、
2018年現在から20年後、すなわち、2038年の日本の人口は1億758万8000人、そして、2038年の一世帯あたりの平均人数は約2.09人という推測が示されているので、
こうした一連の基礎データに基づいて同様の形式に基づいた推論を展開していくとそれは以下のようになります。
①20年後の日本の人口の総計は、1億758万8000人
②20年後の日本に住んでいる人の総世帯数は、1億758万8000人÷2.09≒5148万世帯
③10世帯に1世帯がピアノを保有しているとすると、20年後の日本に存在するピアノの総数は、5148万÷10=514万8000台
④そのうち3台に1台が定期的な調律が行われているとすると調律が行われているピアノの総数は、514万8000÷3≒171万6000台
⑤調律が行われている個々のピアノは平均1年に1回調律が行われているとすると、すべてのピアノに対する1年間の調律回数の総計は、171万6000×1=171万6000回
⑥それに対して、調律師が1日に調律するピアノの台数を3台、週休二日を目安に1週間に5日間、1年では260日程度働くとして、その際の調律予定の入り方すなわちピアノ調律の平均稼働率を70%くらいと仮定すると、1人の調律師が1年間で行う調律の平均回数は、3×260×0.70=546回
となり、⑤と⑥より、20年後の日本に存在する調律師の人数は全部で、
171万6000÷546=3143人
と推定することができると考えられることになるのです。
「現在から20年後までに日本では何人の調律師が減ることになるのか?」という問いに対するフェルミ推定に基づく解答
そして、
こうした20年後の日本に存在する調律師の人数の概算値である3143人という値と、前回の記事で一からフェルミ推定に基づく推論を組み立てていくことによって得られた現在の日本に存在する調律師の人数の概算値である3535人という値と比較した場合、その差は、
3535-3143=392人
であるということを示すことができると考えられることになるわけですが、
つまり、
こうしたフェルミ推定を用いた統計学的な推論に基づくと、役所のホームページなどで示されている人口や世帯数といった極めて基礎的なデータだけから、純粋な推論を幾重にも積み重ねていくことによって、
現在から20年後までの間に、日本全国では全部で392人の調律師が姿を消していくことになるといったことまで明らかにしていくことができると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:フェルミ推定とドレイクの方程式の関係とは?論理展開の構造の共通点と統計学的な推論の宇宙論的な問題への適用
前回記事:「日本にはピアノ調律師が全部で何人いるのか?」フェルミ推定に基づく解答とその概算値の統計学的な妥当性の検証
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