心理学における「打ち消し」と「取り消し」の定義と罪悪感や超自我の働きとの関係性、防衛機制とは何か?⑨
精神分析学の祖として有名なジークムント・フロイトの娘にあたるイギリスの心理学者であるアンナ・フロイトの手によって分類された
「抑圧」、「退行」、「反動形成」、「隔離」、「打ち消し」、「投影」、「取り入れ」、「自己自身への向け換え」、「逆転」、「昇華と置き換え」
という心理学における全部で十種類の防衛機制のあり方のうち、「打ち消し」と「昇華」を除く八種類の防衛機制の働きについて一つ一つ詳しく考察してきました。
そして、こうした人間の心において生じる防衛機制の働きは、
主に、意識的な選択や行動の決定や、そうした意識的あるいは無意識的な心の働き全体の統制を担う心の領域である自我を中心として機能する心の働きであると考えられることになるのですが、
その一方で、
残りの「打ち消し」と「昇華」と呼ばれる二つの心の働きについては、それらの防衛機制の働きは、自我だけではなく、
人間の心の階層構造の内部において、「~すべきだ」「~してはならない」といった道徳的命令や社会的規範を司る心の部分にあたる超自我と呼ばれる心の領域とも深い関係性を持った心の働きとして位置づけられることになると考えられることになります。
心理学における「打ち消し」や「取り消し」の定義とその具体例とは?
こうした「打ち消し」と「昇華」という二つの防衛機制のあり方のうち、前者にあたる「打ち消し」あるいは「取り消し」(Undoing)と呼ばれる心の働きとは、一言でいうと、
自分自身の人格にとって受け入れがたい行動をとってしまった後になって、そうした行為がもたらす罪悪感や負の感情から逃れるために、その行為の代償となるような行動をとることによって埋め合わせをしようとする心の働きとして定義されることになると考えられることになります。
そして、
こうした「打ち消し」や「取り消し」と呼ばれる防衛機制の働きの具体的な例としては、例えば、
子供にかまってあげる時間を十分にとれていないことをどこか負い目に感じている親が、子供が欲しがる物を過度に買い与えることによって、無意識の内にその埋め合わせをしようとしているケースや、
いわゆる免罪符といった言葉に代表されるように、普段から多少はあくどいことをして利益を上げていることを負い目に感じているような富裕者が、その利益の一部を献金や寄付などの形で社会に還元させることによって自らの心の平安を得ているといったケースが挙げられることになると考えられることになります。
超自我の働きを原動力とする自我の防衛機制の働きとしての位置づけ
そして、
こうした「打ち消し」や「取り消し」と呼ばれる心の働きにおいても、そうした自分自身の心の平静な状態を保つための行動をとる判断は、
最終的には、自らの心の働き全体の統制を担う領域である自我の部分において下されていると考えられることになるので、
それは、精神分析学などの深層心理学の分野においては、自我の防衛機制の働きの一つとして分類されることになると考えられることになるのですが、
その一方で、
こうした「打ち消し」や「取り消し」と呼ばれる心の働きのあり方は、自分が過去にとった行動が、自分自身が理想とする人格にそぐわない悪しき行動であったと感じる罪悪感を原動力として導かれる心の働きであるとも考えられることになるので、
それは、冒頭で挙げた人間の心の階層構造の内部において「~すべきだ」「~してはならない」といった道徳的命令や社会的規範を司る部分にあたる超自我の働きとも深い関わりのある心の働きとしても捉えられることになると考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
こうした「打ち消し」や「取り消し」と呼ばれる自我の防衛機制のあり方は、
自分自身が意識的にとった行動や選択の道徳的な善悪に関する裁定を自我に対して突きつけてくる超自我の働きがきっかけとなって、
そうした超自我から突きつけられる理想的な振る舞いのあり方と、自分自身が行っている実際の行動との間に生じているギャップの埋め合わせをすることによって、両者の間の適切なバランスを保とうとする自我の防衛機制の働きとして位置づけられることになると考えられることになるのです。
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次回記事:心理学における「置き換え」の定義とは?現実的な観点と道徳的な観点に基づく二つのパターンと「昇華」との関係、防衛機制とは何か?⑩
前回記事:自虐とマゾヒズムの違いとは?心理学における自我の防衛機制の働きに基づく感情の方向性の転換と欲望の質的な変化
このシリーズの前回記事:「同一視」の過程において他者への愛情が憎しみへと反転していく原理と二重の心理的過程において進行していく自我の防衛機制のあり方、防衛機制とは何か?⑧