自由と秩序のアウフヘーベンとしての生命の本質的な構造とは?「銀河帝国興亡史」のガイアとは何か?③
このシリーズの初回から前回までの記事で詳しく考察してきたように、
アイザック・アシモフの代表的なSF小説シリーズである「銀河帝国興亡史」の集大成として位置づけられる作品である『ファウンデーションの彼方へ』(Foundation’s Edge)のなかでは、
ガイアやガラクシアと呼ばれる一つの惑星全体、さらには、銀河系全体が一つの有機的な集合体として統一された生命のより高次の段階における統一的な集団意識の概念が提示されたうえで、
人類が進んで行くべき真に理想的な社会へと通じる道は、
第一ファウンデーションが標榜する「自由意志」に基づく自由と闘争の道でも、第二ファウンデーションが標榜する「指導と平和」に基づく秩序と平和の道でもなく、
こうしたガイアが主張する「生命」の道のうちに求められることになるという結論が下されていくことになります。
そして、
こうした自由と秩序と生命という三つの根源的な価値のうちから、ガイアが説く生命の道が選び取られるに至る議論の構造のあり方について、さらに、より哲学的な観点から議論を進めていくと、
そこには、自由と秩序という互いに対立する二つの概念の両者がより高次の次元において統一されるというアウフヘーベンの構造が示されているとも捉えることができると考えられることになります。
ヘーゲルの弁証法哲学と銀河帝国の興亡シリーズにおける生命論との関係
以前に、「ヘーゲルの弁証法の原型となる『精神現象学』における植物についての生命の弁証法的展開の構造」の記事で書いたように、
ヘーゲルの哲学における弁証法の原型となる構造は、花の生は蕾の死によってのみ成立し、実の生は花の死によってのみ成立するといった
生命における生と死のアウフヘーベンの構造のうちに見いだすことができると考えられることになります。
つまり、
こうしたヘーゲルの弁証法哲学におけるアウフヘーベンの構造においては、
生と死という二つの概念の両者は、直接的には互いに互いを否定し合う存在でありながらも、より高次の次元である生命体全体のレベルにおいては、
そうした生と死の両者が共に含まれることによって生命全体の有機的な統一と調和がもたらされることになるという生命の本質的な構造が示されていると考えられることになるということです。
そして、
こうしたヘーゲルの弁証法哲学におけるアウフヘーベンの構造の生命論的な解釈に基づいて、改めて冒頭で挙げたテーマについて考えていくと、
アシモフの銀河帝国の興亡シリーズの『ファウンデーションの彼方へ』においては、
そうした一つ一つの生物の個体のレベルにおいてではなく、一つの惑星全体や銀河系全体といった社会集団や宇宙全体のレベルにおける生命のアウフヘーベンの構造のあり方が示されているとも考えられることになるのです。
自由と秩序のアウフヘーベンとしての宇宙論的な生命の本質構造
そして、
こうしたヘーゲルの弁証法哲学におけるアウフヘーベンの構造に基づく哲学的な視点に立つと、
『ファウンデーションの彼方へ』のなかで言及されている人類が目指すべき究極の理想的な社会のあり方とは、
第一ファウンデーションが求めるような無制限な自由の追求でもなければ、個人の意思とは無関係に予め定められた既存の計画に隷属することによってもたらされる秩序と平和の維持でもなく、その両者の概念のより高次の段階における統一であると考えられることになり、
そうした自由と秩序、あるいは、闘争と平和といった互いに対立する関係にある根源的な価値の両者が、より高次の次元において発展的に解消された構造こそが、
社会論あるいは宇宙論的な意味における生命、すなわち、ガイアやガラクシアと呼ばれる統一的な集団意識のあり方であると考えられることになります。
つまり、そういう意味では、
個体レベルの生命においては、生と死のアウフヘーベンこそが生命の本質的な構造であると考えられることになるのに対して、
アシモフの銀河帝国の興亡シリーズのなかで言及がなされている宇宙論的なレベルにおける生命においては、
自由と秩序のアウフヘーベン、あるいは、闘争と平和のアウフヘーベンこそが生命の本質であるということが示されていると考えられることになり、
そこでは、
そうした自由と秩序のアウフヘーベンとしての宇宙論的な生命の本質構造に基づいて、
未来において人類が築き上げていくべき理想的な人間社会のあり方についての重大な示唆が提示されているとも解釈することができると考えられることになるのです。
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次回記事:アシモフの「銀河帝国興亡史」におけるガイアとユングの集合的無意識の関係とは?生命の発展と集合的な意識の顕在化
前回記事:ガイア(世界意識)からガラクシア(宇宙意識)へと至る生命の自己展開の運動、「銀河帝国興亡史」のガイアとは何か?②
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