ガイア(世界意識)からガラクシア(宇宙意識)へと至る生命の自己展開の運動、「銀河帝国興亡史」のガイアとは何か?②
前回書いたように、アイザック・アシモフの「銀河帝国興亡史シリーズ」のなかの『ファウンデーションの彼方へ』(Foundation’s Edge)においては、
一人一人の人間や動物たち、草花といった大地の上に生きるあらゆる生き物が、それぞれの個体としての生命の独自性を保ちながら、それと同時に、
そうした一つの惑星の内に生きる生命全体が一つの意識を共有するという生命のより高次の段階における統一的な集合意識としてのガイア(Gaia)と呼ばれる概念が提示されていくことになります。
そして、さらに、この小説の終盤の場面においては、
一つの惑星の上に生きるすべての生き物たちだけにとどまらず、石ころや壁といった無生物をも含めたあらゆる存在、
そして、そうした一つ一つの星々が集まった銀河系全体が一つの超生命体へと発展していくことができるというより拡張されたガイアについての思想が語られていくことになります。
『ファウンデーションの彼方へ』で語られる生ける銀河系としてのガラクシアの姿
『ファウンデーションの彼方へ』の作中においては、
こうしたガイア(Gaia)と呼ばれる惑星全体の集団意識が、さらに、銀河系全体の意識へと発展していった行く先にある理想的な銀河共同体のあり方として、
ガラクシア(Galaxia)と呼ばれる銀河系意識や宇宙意識とでも呼ばれるべきより拡張された意識の存在が語られていくことになるのですが、
物語の終盤において、主人公であるトレヴィズが人類が進むべき未来への道筋を選択する裁定を下す場面においては、
前回の記事で取り上げたブリスとはまた別のガイアを代表する女性であるノヴィの言葉を通じて、以下のような形で、ガラクシアと呼ばれる生ける宇宙の存在が語られていくことになります。
・・・
より偉大なガイアを!ガラクシアを!あらゆる居住惑星が、ガイアのように生きるのです。あらゆる生きている惑星が結合して、もっとずっと偉大な超宇宙生命になるのです。
あらゆる非居住惑星も参加します。あらゆる恒星も、星間ガスのあらゆる断片も。たぶん巨大な中央ブラックホールさえも。
生ける銀河系。
それも、まだわれわれに予想もつかないような方法で、すべての生命にとって都合のよいものにできる銀河系です。
以前にあったすべてのものとは基本的に異なった生き方。そして、昔の過ちを絶対に繰り返さない生き方です。
(『ファウンデーションの彼方へ(下)』、307ページ。)
・・・
つまり、
こうした一つの惑星全体の集団意識であるガイアが、さらにより大きな意識へと拡張されていったガラクシアと呼ばれる銀河系全体の普遍的な意識の内部においては、
銀河系の内に存在する生物も無生物も含めたあらゆる存在が、互いに協調し合い、自発的に助け合うことによって、
宇宙全体が欠けるところのない完全な調和の状態の内に生きるという究極の理想的な宇宙のあり方が示されていると考えられることになるのです。
ガイア(世界意識)からガラクシア(宇宙意識)へと至る生命の自己展開の運動
そして、この小説の作中においては、
こうしたガラクシア、すなわち、生ける銀河系や生ける宇宙という考え方についての布石は、すでに物語の前半部分からすでに打たれていて、
この小説の主人公にして、第一ファウンデーションの首都ターミナスの議員でもあるトレヴィズが、歴史学者であるペロラットを連れて、第二ファウンデーションの本当の所在地を突き止めるための宇宙への旅に出かけた際、
コンピュータが作り出した宇宙が誕生してから現在に至るまでの銀河系全体の動きのシミュレーションを見たペロラットは、その壮大な宇宙の運動のあり様を目にして、以下のように語ることになります。
・・・
銀河系は動いていた。ゆっくりと、壮大に、螺旋の腕を引き締めるような方向に、捻じれていた。
二人が見つめていると、時間――偽りの、人工的な時間――は信じられないようなスピードで過ぎていった。そして、それにつれて、星々はつかのまのはかない存在になっていった。
(中略)
ペロラットはしゃがれたささやき声でいった。
「銀河系は生き物のように見える。宇宙を這っているみたいだ。」
(アイザック・アシモフ著、岡部宏之訳『ファウンデーションの彼方へ(上)』、早川書房、130ページ。)
・・・
そして、
この小説の終盤においては、ペロラットがこの時の経験を回想して、再び、以下のような形で生ける銀河系についてトレヴィズに対して語る場面が出ていくことになります。
・・・
「最初に宇宙に出た時、きみは銀河系を見せてくれた。覚えているかい?」
「もちろん」
「きみが時間を速めると、銀河系が回転するのが見えた。そして、わたしはまるで今のこの時を予想していたかのようにいった。“銀河系は宇宙を這う生き物のように見える”と。ある意味で、銀河系はすでに生きているとは思わないかい?」
(アイザック・アシモフ著、岡部宏之訳『ファウンデーションの彼方へ(下)』、早川書房、316ページ。)
・・・
つまり、
上述したペロラットの言葉において示されているように、
ガイアやガラクシアと呼ばれる宇宙意識の存在は、こうした宇宙のはじまりから現在にまで至るまでの間に壮大なスケールで展開されてきた宇宙全体の渦動運動の内にすでにその存在の示唆が与えられているとも解釈することができるということであり、
別な言い方をするならば、
宇宙の構造というものが、はじめから何も存在しない虚無の状態のままで終わるものから、いったん生まれても急速に膨張して弾け飛んでしまい一瞬で消滅してしまうものといった他の様々な様態でもあり得た様々な可能的な宇宙の内から、
こうした複雑な構造を生み出すに至るのにちょうど都合のいい宇宙が選び取られたということは、極端な多元宇宙論に基づかない場合は、
それは、その原初における状態から宇宙の内なる生命の働きによって、自ら選び取られた生きた宇宙の構造であったとも捉えることができると考えられることなります。
そして、そういう意味では、
こうした宇宙そのものに内在する生命の自己展開の運動こそが、こうしたガイアやガラクシアと呼ばれる世界意識や宇宙意識が確立されていくための原動力となる本質的な構造であると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:自由と秩序のアウフヘーベンとしての生命の本質的な構造とは?「銀河帝国興亡史」のガイアとは何か?③
前回記事:アシモフの「銀河帝国興亡史」のガイアとは何か?①大地の女神ガイアと『ファウンデーションの彼方へ』におけるガイアの記述
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