アシモフの「銀河帝国興亡史」のガイアとは何か?①大地の女神ガイアと『ファウンデーションの彼方へ』におけるガイアの記述
前回(書いたように、アイザック・アシモフによって書かれた銀河帝国興亡史シリーズの集大成として位置づけられるSF小説である『ファウンデーションの彼方へ』(Foundation’s Edge)においては、
物語の終盤の場面において、銀河系の内に生きる人類全体の命運を決定づける決断を下す裁定者としての役目を任されることになったトレヴィズは、
第一ファウンデーションと第二ファウンデーションそしてガイアという三つの勢力がそれぞれに提示する「自由意志」と「指導と平和」と「生命」という三つの指針となる選択肢のうちから、
ガイアが主張する「生命」の道を選択する裁定を下すことになるのですが、
そもそも、
こうしたアシモフの「銀河帝国興亡史」のなかの『ファウンデーションの彼方へ』において語られているガイアと呼ばれる存在自体については、
具体的にはどのような存在のことを指して、こうしたガイアという言葉が用いられていると考えられることになるのでしょうか?
ギリシア神話における大地の女神ガイアと『ファウンデーションの彼方へ』におけるガイアの記述
ガイア(Gaia)とは、
もともとは、ギリシア神話において、オリンポス十二神よりも以前に宇宙を統べていた古の巨神であるティーターン(タイタン、Titan)といった神々や巨人たちを産み出した最古の神である大地の女神のことを意味する言葉であり、
こうしたギリシア神話における大地の女神ガイアの概念にちなんで、
地球上における生物たちが互いに影響し合うことによって地球全体が一つの生命体のようなシステムを作り上げているとする仮説理論のことを指して、
ガイア理論(Gaia theory、Gaia hypothesis)といった言葉が用いられることがありますが、
『ファウンデーションの彼方へ』の作中においては、こうしたガイア(Gaia)と呼ばれる存在は、ガイアの一員であると称するブリスと呼ばれる女性の言葉を通じて、具体的には以下のようなものとして説明されていくことになります。
・・・
ええ、そして地面も。そして、樹木も。そして、あそこの草むらの兎も。そして木々の間から見えるあの男もね。惑星全体が、その上にあるあらゆるものが、ガイアなの。
わたしたちはみんな、個別の存在よ――われわれはすべて別々の有機体よ――でも、全員が一つの全体の意識を共有しているの。無生物である惑星はもっともその割合が少ない。
さまざまな生命形態がさまざまな程度において参与し、そして人間が最も多く参与しているけれど――わたしたちは全員が一つの意識を共有しているのよ。
(アイザック・アシモフ著、岡部宏之訳『ファウンデーションの彼方へ(下)』、早川書房、222~223ページ。)
惑星全体が一つの意識を共有する生命のより高次の段階における統一的な意識としてのガイアの意識
そして、
こうした惑星全体が一つの意識を共有するような超生命体としてのガイアの存在は、
上述した引用部分のすぐ後の箇所で、ブリスの話を聞いていた老科学者であるペロラットが、
「彼女はどうやら、トレヴィズ、ガイアはある種の集団意識だといっているようだね。」(『ファウンデーションの彼方へ(下)』、223ページ)
と語っているように、
主に、作中の言葉としては、そのまま集団意識(グループ意識、group consciousness)という概念によって表現されることになります。
そして、さらに、
作中の他の部分では、例えば、ブリスが、こうしたガイアの意識のことを指して、
「トレヴ。われわれのような世界意識が存在すれば、銀河系の反対側にあっても探知できるのです。…」(『ファウンデーションの彼方へ(下)』、247ページ)
と語っている場面を見いだすことができるように、
ここで述べられているガイアとは、
単に、一つの惑星の上に生きる様々な生物の意識の寄せ集めによって、その総体としての集団的な意識が形成されているということを意味しているだけではなく、
そこでは、一つの有機的な集合体として統一された世界意識、あるいは、世界精神といった概念にも通じるような生命のより高次の段階における統一的な意識のことを指して、
こうしたガイアという概念が用いられていると捉えることができると考えられることになるのです。
・・・
そして、
こうした『ファウンデーションの彼方へ』のなかで語られるガイアの概念は、物語が終盤へと向かうにつれて、さらなる発展を見せていくことになり、
そこでは、さらに、人間や動植物といった生物だけではなく無生物も含めたすべての存在、地球などといった一つの惑星だけではなく銀河系全体や宇宙全体へと限りなく広がっていく普遍的な意識として、
言わば、宇宙意識や宇宙精神とでも言うべきより拡張された意識の存在が語られていくことになるのです。
・・・
次回記事:ガイア(世界意識)からガラクシア(宇宙意識)へと至る生命の自己展開の運動、「銀河帝国興亡史」のガイアとは何か?②
前回記事:『ファウンデーションの彼方へ』で語られる自由と平和と生命という人類における三つの至上の価値をめぐる論争の結末とは?