紫禁城の由来とは?天帝が住む紫微垣との関係と紫禁城において禁じられていること
紫禁城(しきんじょう)とは、中国の北京にある明と清の時代における宮城(皇帝や天子の居城)のことを意味する名称であり、
紫禁城の構造は、南北961m、東西753mにわたる城郭の周囲が幅52mの堀と高さが12mにも及ぶ城壁によって取り囲まれるという壮大な規模をもった構造となっていて、
世界最大の木造建築群として世界遺産にも登録されている中国を代表する歴史建造物の一つであると考えられることになります。
今回は、こうした紫禁城という言葉自体の由来について考えていくなかで、
紫禁城という呼び名の内に含まれている「紫」とは具体的にどのようなもののこを意味していて、そこではいったい何が「禁」じられているのか?ということについて詳しく考えていきたいと思います。
古代中国の天文学における紫微垣と紫禁城との関係
まず、紫禁城と呼ばれているからといって、
それは、単純に、紫色が禁じられている、すなわち、紫色の服を着ることが禁じられているといった
日本の律令制などにおいて見られる官人や貴族の位階に応じて衣服の色が定められ、紫色などの自分の位階よりも上位の色の服の着用が禁じられるという禁色(きんじき)のことを意味しているわけではなく、
紫禁城の「紫」の由来は、
古代中国の天文学における天球上の区画にあたる紫微垣(しびえん)と呼ばれる一種の星座群にあたるようなものにその由来が求められることになると考えられることになります。
古代中国の天文学においては、夜空を見上げた時に眼前に広がる広大な天球の領域が、より天の北極(北半球における天頂)に近い順に紫微垣(しびえん)・太微垣(たいびえん)・天市垣(てんしえん)と呼ばれる三つの天界の区画へと区分けされることになるのですが、
このうち、
北極星を中心とする天球のなかでも最も高度の高い至高の領域を占めているのが紫微垣と呼ばれる天球の区画であると考えられることになります。
そして、
こうした紫微垣と呼ばれる天の領域は、古代中国の思想においては、天地万物を支配する至高神である天帝が住まう領域であるともされていて、
こうした天上における天帝が住まう紫微垣のような理想郷を、地上において実現させようとした姿こそが、こうした広大な規模をもった紫禁城の姿であったと考えられることになるのです。
紫禁城ではいったい何が禁じられているのか?
それでは、そうした天界の紫微垣にその名の由来を持つ紫禁城では、紫色といった色自体の使用が禁じられているわけではないとするならば、その居城の内部ではいったい何が禁じられているのか?ということについてですが、
それについては、以前に「禁中・禁裏・禁軍といった言葉に「禁」の字が用いられている理由とは?」の記事で詳しく考察したように、
そもそも、
紫禁城だけに限らず、皇帝や天子が住まう住居のことを意味する言葉の内には、
例えば、禁中(きんちゅう)や禁裏(きんり)といった言葉にも見られるように、広く「禁」という字が使われていて、
こうした禁中や禁裏、そして、禁城(きんじょう)といった言葉においては、
皇帝や天子以外の者がその内部や裏側にみだりに立ち入ることが禁じられているという意味で、「禁」という字が用いられていると考えられることになります。
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以上のように、
紫禁城の「紫」は、天帝が住む天球上の区画である紫微垣に由来するのに対して、「禁城」は、皇帝や天子が住まう住居のことを意味する言葉であり、
紫禁城における「禁」の字は、その城の内部においては、皇帝や天子以外の者がみだりに立ち入ることが禁じられているという意味でこうした字が用いられていると考えられることになります。
つまり、
紫禁城とは、その国を治める国王や天子が住んでいる禁城、すなわち、ただの宮殿のことを意味するだけではなく、
天地万物を支配する至高神である天帝が住む紫微垣にも匹敵するような世界のどこにもこれに比肩するような構造物を見つけ出すことのできない比類なき壮大な宮殿であるという意味で、こうした名称が用いられるようになったと考えられることになるのです。
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次回記事:皇帝を表す色は何色なのか?①古代ローマにおける王者の色としての紫色の位置づけ
前回記事:皇帝と黄帝の関係とは?陰陽五行説における万物の中心としての土と黄と中国神話における「王の中の王」としての黄帝
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