皇帝と黄帝の関係とは?陰陽五行説における万物の中心としての土と黄と中国神話における「王の中の王」としての黄帝
前回書いたように、「王の中の王」や「君主の中の君主」といった天子や国王のことを表す最大級の尊称として用いられる皇帝という言葉は、
もともと、歴史上はじめて中国全土の統一を成し遂げた秦の王であった嬴政(えいせい)が、自ら始皇帝と名乗ったことに由来を持つ言葉であり、
皇帝という言葉自体の選定は、古代中国における伝説的な帝王である三皇五帝における徳や威光や権力をすべてあわせ持つという意味でこうした言葉が選ばれたと考えられることになります。
そして、
こうした皇帝という言葉の大本の語源となったとも考えられる中国神話に出てくる三皇五帝のうちには、皇帝と同じ発音で読まれる黄帝と呼ばれる存在についても語られていくことになるのですが、
こうした中国神話における黄帝と皇帝の間には、具体的にどのような関係があると考えられることになるのでしょうか?
中国神話における黄帝の存在と中国語における黄帝と皇帝の発音の同一性
詳しくは「黄帝とは何か?」の記事で書いたように、
黄帝(こうてい)とは、中国神話における伝説上の帝王である三皇五帝のなかの五帝のうちの最初にして最大の皇帝として位置づけられる存在であり、
神話伝承上初めて中国全土を統一したとされる帝王であることから、古代中国の歴代王朝の始祖にして、漢民族の祖としても位置づけられる帝王であると考えられることになります。
そして、
冒頭でも述べたように、こうした中国神話における五帝のうちの最初の帝王である「黄帝」(こうてい)と、秦の始皇帝が自らの称号として用いた「皇帝」(こうてい)という言葉はどちらもまったく同じ発音で読まれる言葉となっていて、
中国語においても「黄帝」と「黄帝」の発音は、両者ともまったく同じ「フアン・ディー」(huángdì)という発音で読まれることになるのです。
陰陽五行説における万物の中心としての土と黄の位置づけ
それでは、
なぜ、こうした中国神話における黄帝と呼ばれる帝王の存在が、三皇五帝の中でも最も際立った最高の存在として位置づけられることになっているのか?とうことについてですが、
それは、ちょうど秦の始皇帝によって中国全土が統一される直前の紀元前3世紀頃の古代中国の戦国時代において唱えられたと考えられる陰陽五行説と呼ばれる思想の内にその理由の一端を見いだすことができると考えられることになります。
陰陽五行説においては、万物の生成と変化は、木・火・土・金・水という五種類の元素の相互作用によってすべて説明することができるとされることになるのですが、
こうした五種類の元素、すなわち、五行を構成する元素同士の関係を示す図としては、下記に示したような五角形と四角形の構造から成る二つの異なる関係図が考えられることになります。
そして、
上記の二つの図のうちの左図で示した五角形の関係図においては、
木が燃えて火を生み、火が燃え尽きると灰となって土に還っていく、あるいは、金属でできた鋭い刃は木を切り倒すことによって木を剋し、木は土から養分を奪い地面を割って成長していくことによって土を剋するというように、
陰陽五行説における五元素同士の循環と相剋の関係が示されているのに対して、
上記の二つの図のうちの右図で示した四角形の関係図においては、
木・火・土・金・水という五行のそれぞれが、春・夏・秋・冬という四季の移り変わりと、東・西・南・北・中央という方位と位置、さらには、青・赤・黄・白・黒という五色の色彩とも結びつけられていくことになります。
ちなみに、
こうした五行と色彩の関係の内、火の色が赤で、土の色が黄であるといった関係は直感的にもある程度納得がいくとしても、水の色が黒で、金の色が白であるといった対応関係には、一見すると違和感が感じられると考えられることになりますが、
こうした五行と色彩との関係は、必ずしも直接的に水や金属といった物質的な意味での元素の色自体のことを意味しているわけではなく、
一般的に、季節のことを表す表現として、青春(せいしゅん)や白秋(はくしゅう)、玄冬(げんとう)や朱夏(しゅか)といった表現が用いられることがあるように、
こうした季節と五行同士の関係なども介することによって、五行と色彩同士の関係の整合性が保たれていると捉えることができるかもしれません。
そして、いずれにせよ、
こうした陰陽五行説における五行と色彩および方位との関係においては、三皇五帝のうちの一人である黄帝を象徴する黄の色は、
方位でいうと、東西南北の四方のちょうど中央にあたる万物の中心に位置する存在であると捉えられることになり、
そうした意味において、中国神話における黄帝の存在は、伝説的な帝王である三皇五帝のなかでもそれらのすべての王の中心に座する王の中の王、漢民族の祖となる至高の帝王として位置づけられることになると考えられることになるのです。
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以上のように、
皇帝という言葉の大本の語源となったとも考えられる中国神話に出てくる三皇五帝のなかの五帝のうちの最初にして最大の皇帝として位置づけられる黄帝は、
中国語においても「皇帝」とまったく同じ「フアン・ディー」(huángdì)という発音で読まれる言葉であり、
こうした黄帝と呼ばれる存在を象徴する黄の色は、陰陽五行説においては、東西南北の四方の中央に座する万物の中心に位置する存在として捉えられることになります。
そして、こうした陰陽五行説の思想に基づくと、
中国神話における黄帝の存在は、歴史上における秦の始皇帝の存在と同様に、他のすべての王を自らのもとに従え、すべての存在の上位に位置する「王の中の王」として位置づけられることになり、
そういう意味では、
皇帝という言葉は、神話伝承上の由来としては、中国神話において登場する古代中国の伝説的な帝王である三皇五帝のうちの黄帝という存在の内ににその大本の起源を持つ言葉であるとも解釈することができると考えられることになるです。
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次回記事:紫禁城の由来とは?天帝が住む紫微垣との関係と紫禁城において禁じられていること
前回記事:皇帝の由来とは何か?秦の始皇帝と中国神話における三皇五帝との関係
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